慈悲深き姫君





「タナトスよ、ペルセフォネ様の様子はどうであった?」


風穴のような音と共に空間を渡って帰ってきたタナトスにヒュプノスが諮問する。


「何とも言えぬな。だがこの度は器の存在もあってか、聖戦に関してはハーデス様と共に戦う気はあるようだ。」



「…恐らく本心では悲嘆している筈だ。彼女はアテナ以上に人間を想っている方だからな。…ところでタナトスよ。まさかペルセフォネ様の記憶を解放したのではあるまいな?」


「ふん、するわけないだろう。俺は言った事は守る主義でな。…しかしペルセフォネ様は俺達をエリシオンに閉じ込めたことを思い出したようだ。」


「…そうか。ならば私達が直接手を貸さずともペルセフォネ様の記憶は直に戻るだろう」



「だが問題はパンドラだな。」


「ふむ、パンドラか…」


タナトスの一言にヒュプノスは思案顔になる。


パンドラは未だにコレットがペルセフォネなのか疑っている。


それに加えてハーデスに心酔しているパンドラの事だ、コレットの存在はパンドラの心に多少なりとも影響しているだろう。


「…嫉妬深さも冥界随一か」


タナトスが哄笑して言った。


その言葉はあながち間違いではない。


姉として産まれ損ねたパンドラは妹として産まれたアテナに嫉妬しているのだ。


ハーデスの妻として寵愛されているペルセフォネを良くは思っていない筈だ。


(何もなければよいが…)


目を瞑り、ヒュプノスは嘆息を零した。






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