コレットは書物を読んでいた。アローンはアトリエに籠もりロストキャンバスに専念している。 アローンは「此処にいていいよ」と笑顔で言ってくれたが邪魔はしたくなくてコレットは書庫に行ったのだ。 「ペルセフォネ様」 「っ、誰ですか…!?」 いきなり聞こえてきた声にコレットは声を上擦らせて誰何する。 闇から姿を現したのは…死の神タナトスだった。 「貴方は…」 教会で会った神父に似ているとコレットは思ったが、髪の色が違う事に気付いた。 「私は死の神タナトス。以後お見知りおきを。我らの愛しき姫君」 胸元に手を当てて軽く会釈するタナトスは優雅に見える。 「死の、神…?」 「覚えておりませんか?二百数十年前にエリシオンでお会いしたことを」 コレットの耳元に唇を寄せてタナトスは囁いた。 (二百数十年前…) (エリシオン…) 「−−−っ!?」 突如として激しい頭痛に襲われたコレットは頭を抱えた。 耳鳴りも聞こえる。ノイズのような不快な音だ。 次第に薄れてゆく耳鳴りだが、代わりに脳内に何かの映像が浮かび上がった。 映ったのは神殿だ。庭には色とりどりの花が咲いている綺麗な景色。 そして声。 声がする。 『聖戦はアテナの勝利で終わったはずです。なのに双子神よ、これはどういう事ですか』 泣いている。コレットに似た女が動かなくなったアテナを抱き締めて目の前にいる双子らしき二人を据え睨んだ。 『我々はあくまでもハーデス様の魂をアテナから守る為にしたまでのこと。』 (あれは…死の神…そして隣にいるのは…) 教会にいた男だ。 『アテナは聖戦でハーデス様に傷を負わせ、あまつさえハーデス様の魂を消滅させようとした。我々はアテナからハーデス様を御守りしただけなのです』 『黙りなさい!タナトス!ヒュプノスッ!!貴方達は二百数十年もの間、この場所で己が犯した罪を反省するのです!!』 激高の声を上げた女は漆黒に塗られた杖の先を双子に向けて放った。 杖から光が放たれると双子は光に呑み込まれて消えた。 『アテナ…ごめんなさい…』 アテナの頬に手を添える。 『今のわたくしに出来る事はこの場でとどまっている貴女の魂を下界に送ることだけ…』 エリシオンから神の魂を連れて下界に送るなど本来なら許されない行為。 だがアテナの魂は貴重であり、あのゼウスさえも畏怖させた存在だ。 きっとこのままだと他の神々に利用されてしまう。 『それにお父様が無き今、地球を守れるのは地球を託された貴女だけなのです』 わたくしはそれが出来ない。 冥府の女王に選ばれてしまったから。 『わたくし達は敵同士ですが…きっとこの聖戦の先に救われる未来があるって信じたい……』 それは器の者も。聖闘士も。 『だからわたくしも共に下界に堕ちましょう』 −−−−…… −−……救われる未来を信じて。 . [mokuji] [しおりを挟む] |