天離宮




アローンに案内された場所は一面に広がる花畑だった。


その光景にコレットは思わず息を呑む。


何よりこの場所は記憶にある場所に似ていた。


「だいぶ忠実に作ったつもりなんだけど…どうかな?」


まだ花は咲いていないけどね、とアローンは苦笑する。


「どうして…ここを作ったの?」


「…この場所は僕にとって唯一安らげる場所だから。コレットもそう思っていたでしょ?」


「うん…だってここは私達の大切な思い出の場所だもの」


腰を下ろして、コレットはまだ咲いていない蕾に触れた。


作ったとはいえ、花は本物みたいだ。


蕾はひんやりと、それでいて瑞々しさがある。


「でももう4人でこの場所には行けないんだよね」


「コレット…」


「…描くんでしょう?テンマ達が止めに来るまで、ロストキャンバスを」


振り返ってコレットはアローンを見つめる。


哀しげに揺れるその瞳は、アローンの答えを待っていた。


「…これが僕の選んだ可能性のひとつだから。」


「…そう」


悲痛な思いに駆られてコレットは目を伏せる。


「苦しい思いをさせてごめん、コレット」


「………」


コレットは首を振った。


「私はアローンの傍にいるって約束、したから…だから私も覚悟を決める…」


(もう、迷ってる事なんて出来ない。)


「それに夢で思い出したの…自分がペルセフォネだという事に」


「っ!!?」


アローンの表情が驚きに変わる。いや、強張ったという方が正しいだろうか。


「っ、もしかして…全部…思い出したの…?」


そして動揺したまま、小さく問いかけてきた。


「ううん、お母さんだけ…かな。声だけだけど…」


「そっか…」とアローンは表情が和らぎ、安堵したように笑う。


「あとね、昔の夢も見たんだよ。三人で遊んだ場所とか…懐かしかったな。」


「あの頃からコレットはよく歌を歌ってたよね」


「うん。好きだったから。」



「久々に聞きたいな、コレットの歌」


「……私の歌でよければ」


ニコッと笑ってコレットはアローンに背を向ける。


そしてすうっと息を吸って歌を歌い始めた。


コレットの紡ぐ優しい歌声は天まで届いているのか、天上から光が射し込み、大地に降り注ぐ。


風が蕾を吹きつけると蕾たちは一斉に咲き始め、見事な花弁を散らせた。



(春の訪れを知らせる女神…)



彼女は無自覚にも女神としての力が目覚めつつあるのだ。

コレットは友を想いながら歌う。



これは惜別の歌。


そして、これはロストキャンバスの犠牲になる人達への鎮魂歌。



(………テンマ、サーシャ)



(私…もう迷わないよ)







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