離宮





「さて…」


離宮でチェスをしていると急にタナトスが席から立ち上がった。


「どこに行く気だ。タナトス」


「悲嘆に繰れている女神の許へ行こうと思ってな。言っておくが邪魔をするなよヒュプノス」


「…慎重さに欠けるな。女神に相応しい器を持ってはいるとはいえ人の間に生まれた儚い存在だ。…女神としての膨大な記憶を呼び起こすつもりなら止めておけ」


ヒュプノスは至って冷静に答え、駒を置く。


「俺はもともとお前のように気は長くないのでな。それにペルセフォネ様が完全に目覚めるのを悠長に待つ暇などない。聖戦は長くないのだからな」


タナトスは左手を翳すとグニャリと空間が歪み、闇の次元が生まれた。


「だがペルセフォネ様の記憶がすべて蘇るとなるとあの方はまたハーデス様にお心を閉ざされてしまう可能性がある」


「その為に一緒に過ごさせていたではないか。ヒュプノスよ」


「………。」



ヒュプノスは何も言わずにただジッとチェス磐を見つめる。


「安心しろ。今回はあくまでも様子を見に行くだけだ」



「…ならいいが」



タナトスは空間に足を踏み込むと開いていた空間はタナトスを飲み込んで消えた。



(コレット・エリシェヴァとしての記憶…か)


教会で会った時の事を思い出し、ヒュプノスは目を伏せた。








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