「パンドラ様、結局ハーデス様はペルセフォネ様の為だけにお供もつけず聖域に行ったんでしょうかね…?」 チェシャが後ろ手を組んでポツリと呟いた。 「…………」 (確かにハーデス様は冥王としての力と貫禄を日毎に増しておられる…) だが胸の奥で引っかかっている違和感は拭いきれない。 (もしやあの娘の存在のせいでハーデス様は未だに…) 「フー−!!」 「!!」 チェシャは背筋が凍る感覚が走り、急に神経を逆立てる。 チェシャが威嚇している方へ振り返ったパンドラが見たものは2人の神だった。 「あ…貴方様がたは…」 動揺したパンドラの唇が震える。 2人の姿と存在に圧倒されたチェシャは逃げ出してしまった。 『手ぬるいぞパンドラ』 「は…はっ!!」 深々とパンドラは頭を下げる。 「死の神と眠りの神である貴方様方がなぜこのような場所へ…貴方様方のお手を煩わせるような事は何も…」 『黙れ』 『我々がここまで舞台を整えてやったのにも関わらず聖域での一件何とする!!』 「で、ですが…あればかりはこのパンドラにも…」 『見苦しいぞパンドラ!!』 「きゃあぁあー−−!!」 一人の神がパンドラに向けて雷を落とした。 パンドラは苦悶の声を上げる。 『パンドラお前の手に余るのならばハーデス様には我々から¨ロストキャンバス¨に心置きなく集中して頂けるよう特別なアトリエをご用意して差し上げよう』 『二度と供を連れず、単独でペルセフォネ様を連れて出歩こうなどとお考え召されぬようにな』 2人の姿がだんだん薄くなる。 『その間にお前はハーデス様とペルセフォネ様のお心の揺らぎの元を断て』 『特にペルセフォネ様は少し人の心に毒されている。早々に冥府の女王としての自覚を持っていただかないとハーデス様の憂いも消えまい』 『その揺らぎの元が何なのかはパンドラよ…わかっているな』 「………っ、わかっております。ですが彼女は本当に女神なのでしょうか…?ただの人間では…」 『それはお前が一番わかっていよう、パンドラよ』 「………、…」 『お止めなさいパンドラ』 あの時は流石のパンドラにでも感じ取った。冥府の女王としての威厳。 2人の気配が完全に消え去り、パンドラはヒールを鳴らしながら星座図のある部屋に入る。 (あの娘も…ハーデス様も天馬星座の事を気にしていた…それが元凶なら) 真に忌むべきはあの不純物である。 天馬星座(ペガサス)テンマ!! 「我が刺客となるものはおらぬか!?天馬星座テンマを殺せ!!」 パンドラは高らかに言い放つ。 「我が刺客となる者よ名乗りを上げよ!!」 「ハッ!パンドラ様、ここに」 天井から降り立った2人の冥闘士を見てパンドラは艶然と笑った。 「地陰星デュラハンのキューブ、地察星バットのウィンバー…なるほどお前たちならばこの任務にはうってつけかもしれないな」 「は!必ずや天馬星座を仕留めてみせましょう」 「我々にお任せを」 「よい知らせを期待しているぞ」 「はっ!」 そう言うと冥闘士達は颯爽と姿を消した。 (これで…我が胸中の違和感も消えるだろう…) どうかハーデス様 冥王軍を統べるお心を持ってお導きください。 . [mokuji] [しおりを挟む] |