(なんでだよ) (なんでこうなっちまったんだよ) 苛立ちが湧き上がってくる。 この苛立ちと憎しみを誰に向ければいいのか分からない。 切れるほど強く、テンマは唇を噛みしめた。 「っざんな…」 テンマの口から怒気を孕んだ低い声が洩れた。 「ふざんなぁああ!!」 テンマは地を蹴った。その姿がフッとかき消える。 目に見えぬほどテンマの動きが速いのだ。 一瞬の後、テンマは馬車の近くに現れた。 「馬鹿め…バイオレート!」 パンドラが馬車に乗ろうとしているアローンを庇うように立ち塞がる。 「はっ、天孤星ベヒーモスのバイオレートここに」 「…!」 アローンの影からスッと人の形が作られ、冥闘士が這い出てきた。 アローンも微かに目を見開くがすぐに表情を消して馬車に乗った。 好戦的にバイオレートはそのままテンマに襲い掛かる。 「影の中から…!?」 テンマは怯んだがすぐに体勢を整えてバイオレートの攻撃をかわした。 だがバイオレートは流れるような動きで体を捻らせて拳を振るう。 「…ッ!!」 左頬を殴られ、口から血が流れた。 その時、アルデバランがテンマの首根っこを引っ張り、そのまま奥に押し出す。 「アルデバラン!!」 アルデバランはバイオレートと対峙し、拳の掴み合いになる。 「黄金聖闘士、牡牛座(タウラス)か!なるほど聞きしに勝る力だ!」 「お前もその細腕でよくぞ応えた!…だが…!天馬星座(ペガサス)の行く手の邪魔はさせん!」 「!?」 バイオレートの片腕を引き回し、アルデバランは叫んだ。 「行け!天馬星座(ペガサス)!!冥王を止める事が出きるのもペルセフォネ様を救えるのもお前だけだ!」 アルデバランの言葉に応え、テンマはハーデス城に向かっている馬車を見やる。 『ごめんね…テンマ』 コレット… 「っ、あんな顔を見て…ハイそうですかと言えるわけねぇだろ!!」 そう吐き捨ててテンマは地を思いっきり蹴った。 . [mokuji] [しおりを挟む] |