「地上の生命全てを消滅させる…」 「そうだ。この絵はやがて全世界の空を覆い、全世界の人々の魂をその中に塗り込めていくだろう。」 アローンの描いたものが全て死に絶えてしまう事はコレットも知っていた。 (アローンは…) 生きとし生ける者すべてを…地上にいる全てのものを描き、死を与えていくつもりなのだ。 「何…言ってんだよお前!!」 拳を奮わせてテンマは叫ぶ。 「お前そんな事の為に絵を描いてたんじゃねぇだろ!!!」 テンマの言葉にさして気にとめるわけでもなく、アローンは握りしめているコレットの手を引いて歩き出した。 (アローン…もうテンマの声もあなたには届かないの…?) これが…これが貴方(ハーデス)の見つけた答え…? 『もう…あの頃には戻れない』 アローンの台詞が蘇り、コレットはキュッと胸元を握りしめる。 ついてゆくと…彼の傍にいると言ったのだ。 「待てよアローン!!コレットは聖戦には関係ねぇだろ!!」 その言葉にアローンは足を止め、テンマを顧みた。 「コレットはペルセフォネの器であり、彼女は余の后だ」 「…っ、!?」 テンマは目を見開く。 彼はサーシャ達から聞かされていなかったのだろう。 再び歩き出すアローン。 彼の横顔に感情の色は窺えない。 アローンとハーデスの心、2つの感情に焼かれている彼の胸には今、どんな想いが去来しているだろうか。 「コレット…っ!!」 馬車に乗る手前で遠くからテンマの悲痛めいた叫びが聞こえてきた。 手すりを握りしめている手が震える。 「(……ごめんね、テンマ)」 テンマを見たコレットの瞳から涙が流れ落ちる。 あどけなさが残る少女の瞳からポロポロと哀しげに落ちる涙はテンマが幼き日に見た表情と変わらなかった。 . [mokuji] [しおりを挟む] |