女神




「ハーデス様…突然お姿が見えなくなり心配いたしました…」


空中で停止した馬車の中からパンドラが姿を現す。


お供らしき青年が足元に手を出すとパンドラはそれを踏み台にして前に出た。


「そのお心に未だ人間の未練があるご様子。ならばその未練…このパンドラが自ら断ち切って差し上げましょう」


「な…何だあの女…」


テンマが呆然と口にするとパンドラは目を細めて片手を翳し、手にしていた槍を振りかざす。


刹那、天上から雷撃が落ち、テンマに降りかかった。



「っ!!、テンマっ!!」


思わず駆け出そうとしたコレットだが、アローンに腕を掴まれてしまう。


「っ、アローン…」


「さあハーデス様、馬車にお乗りになってください」


まくし立てるようにパンドラは手にしている槍で馬車を差した。


「あの女…パンドラか」


凄艶の姿で佇んでいるパンドラを見据えて教皇は口を開く。


「教皇…ご存じで?」


「うむ。世に邪悪を解き放つ女…常に冥王の側で軍を統括する女よ」


教皇の言葉にパンドラは艶然と笑う。


「ふん…前聖戦の生き残りか。その通り、私の魂は常にハーデス様と共にある本来であれば器の少年の姉として私が守り、お世話をする。それが私の存在意義」


(パンドラが…アローンの…姉として…?)


そんな筈はない。アローンには妹のサーシャしかいないのだ。


「だが…今生は思わぬ邪魔が入った!」


パンドラは忠憤するとサーシャに青筋をたてる。


「…私は貴女に邪魔をするような事をした覚えがありません」

「っ!よくもぬけぬけと!!」


「待てパンドラ!!アテナ様に何をするつもりだ…!!」


「手出しは無用です。この方とは一度相見えねばならないと思っていました」


パンドラはサーシャの目の前に現前する。


「図々しくもアローン様の妹として生まれてくるとは…卑しいこそ泥よ!!」


「私は自分を卑しいなどと思った事ありません。私にとってアローン兄さんやコレット、そしてテンマと過ごした日々は…かけがえのないものです」


「そうやって偽善者ぶるのもお前の戦略か」


「戦略などありません。私は…あのまま人間として生きてもいいと本気で思っていました」


「恥知らずな女神め!」


憤怒したパンドラが手を振りかざした。







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