「アローン兄さん!!コレットをこちらに渡してください!」 「それは出来ぬ相談だな。理由は言わずとも分かるだろう…?」 「っ、」 「それにアテナ。余はもはやお前の兄ではない。余は冥界の王、ハーデス」 「いいえ…!!いいえ!!あなたは私の兄です!そしてコレットは私の大切な友達ですっ!!!」 「彼女がペルセフォネと知っても尚、友達のふりをするつもりか?アテナよ」 「…っ、」 サーシャの瞳が大きく揺らいだ。その様子にアローンは口角を上げる。 「…サーシャ…本当に…アテナだったの?ずっと…前から…あの日から…」 アテナの隣にいるシジフォスを見る。彼はあの日、サーシャを連れて行った人だ。 「はい…ですが、私はサーシャとして生きてきた証を今でも大切にしています。」 「サーシャ…」 「…そして私はあなたをずっと探してた。ペルセフォネの魂を持つ者を。コレット、あなたを。」 『…コレット……』 「…っ、」 脳裏に誰かの声が横切り、コレットは一瞬、目を見開いた。 「人としての記憶にこだわるなど愚かなことだ。わざわざ悲しみや苦しみを背負って生きることに何の意味がある?いくらお前が人であろうとしてもあの幼い日々はもう帰らない」 「……」 アローンの言葉にサーシャは悲痛めいた表情を浮かべる。 「その帰らぬ日々を奪ったのは俺か…?」 サーシャの傍で倒れている黄金聖闘士の内、年若い方の青年が顔を歪めながらゆっくり立ち上がった。 そしてぎこちない動きで背中から黄金の矢を取り出すと矢先をアローンに向ける。 「神たる余に矢を向けるとは…愚かな男よ」 「っ、く…!!」 重圧が青年の身体を襲い、青年は体勢を崩した。 彼のいる場所が大きくへこんでいる。 「…お前、見たことがある。確か五年前にアテナを村から連れ出した男だ」 「アテナ…様を聖域に迎え、お守りするのは当然…」 そう言いながら青年は再び弓矢を引いた。 「しかし…アテナよ。私は思うのです。なぜ今生、貴女はアローンと天馬星座、そしてペルセフォネ様の元へ生まれたのかと」 青年は力を入れ、音が鳴るまで弓矢を引く。 「貴女はご自分の人としての一生をかけて冥王の器であるその少年を守ろうとしたのではないかと…」 「それで?余がハーデスとなった今、アテナの愛情とやらも無意味だったな。」 「いいやハーデス。アテナ様の愛は我らにとって常に…希望だ!!」 青年は矢を放った。 ハーデスは目を細めると手を前に出し、矢を受け止める。 そしてその矢を逆に青年に放った。 「…!!、」 矢は黄金聖闘士の鎧を突き抜けて青年の心臓を貫いた。 「シジフォス!!」 サーシャの声が震える。 「…っ、ハーデス…ハーデス!!」 激昂したサーシャは杖を翳した。 黄金の杖はサーシャの声に反応して眩しく光を放つ。 「ああ。ようやく戦女神らしくなったな」 漆黒の剣を取り出したアローンはコレットを庇うように前に出た。 その時、二人の間に閃光が走る。 「この光…テレポーテーション」 見開いたアローンが呟く。 光と共に現れたのは…テンマだった。 . [mokuji] [しおりを挟む] |