ケルベロス





「…!、わんっ!」


「あ…っ!わんちゃん!」


子犬は鼻をクンクンと動かし誰かの気配を感じると閉ざされている扉に向けて走って行った。



子犬が扉の前に辿り着いた瞬間、ギィッと入口の扉が開く。



「此処にいたんだねコレット」


「…!?、アローン…」


現れたのは戦略の為にパンドラと共に出て行った筈のアローンだった。


「部屋に戻ったら君がいなくなっていたから心配したよ。…部屋から出るなって言わなかった?」


「ご、ごめんなさい…」


低い声音と覇気に気圧されてコレットはおずおずと頭を下げる。


「きゃん!」


「ん…?お前こんな所にいたのか」


アローンは足にすり寄る子犬を抱き上げた。



「アローンの犬なの?」


「正確に言えばハーデスの犬、かな」


言いながらアローンは子犬を抱き上げる。



「えっ?どういう事?」


「−−ケルベロス。コレットも名前だけは聞いたあるよね?」


「ケルベロスってあの三頭の番犬…?」


「うん。この子犬がケルベロスだよ」


この子犬が…?



見た目そうは思えない。


「僕の命令で元の姿に戻るんだけどそれまではこの小さな体に収まっているみたいなんだ」


「はい」とアローンは子犬をコレットに渡す。



急に渡されたコレットは慌てて子犬を抱き留めた。


人懐っこい性格なのか、子犬は腕の中で大人しくしている。


「…ところでコレットはどうして此処に来たの?」


「え…」


「もしかしてテンマの安否を確認するため?」




「……」


射抜かれて何も言い返せないコレットは子犬を強く抱きしめる。



「星座図では彼の星座は死んでるみたいだけどきっと彼は…生きてるよ」


「生きて…る…?」


「きっと…サーシャがくれた花輪のおかげなんだろうね」


(サーシャの花輪が…)


御守り代わりにもらった大切な花輪。


アローンはコレットが手に触れている千切れた花輪を見下ろした。


「コレットの花輪は切れたんだね」


「急に切れたの…何故かは…わからないけど」


「…僕には解るよ」


「えっ…?」


独白したアローンの言葉を聞き取れずにコレットは首を傾げる。


そんなコレットにアローンはフッと笑みを零すと…


「−−そうだコレット、サーシャに会いにいかないかい?」


「え…サーシャ…?」


「うん。コレットずっとサーシャに会いたかったでしょ?」


「それはそう…だけど…でも…どうして…?」


「僕も久しぶりに会いたくなったからだよ。…それとも、ここにいる?」



戸惑うコレットにアローンは穏やかな表情で手を差し伸べた。


「………うう、ん…連れていって。サーシャの…ところに」


わだかまりが溶けぬまま、コレットは差し出された手のひらに自分の手を重ねた。






[ 45/109 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]