子犬




寝静まる夜更けであれ、夜明けであれ冥闘士たちには休みの文字はない。


理由は簡単である。


彼等は生ある者ではないからだ。


しかし此処はずっと夜で時間が止まっているかのように暗い。


そんな中、コレットはずっと星座図を眺めていた。


闇はみるみるうちに魚座を侵食してゆく。


そして天馬星座は未だに闇に染まったままだ。


(…テンマや黄金聖闘士が危ない目に遭っていても何も出来ないなんて…)


わかってはいた。

だが本当に悔しい。


自分が無力なのを思い知らされてしまう。


(でも何で私…魚座の黄金聖闘士の名前を知っていたのかな…?)


ますます自分がわからなくなる。



もしかしたら本当に自分はペルセフォネの転生者なのかもしれない。


(でも…そんな事…あるはずないよね)


自分は女神の器という程素晴らしい人間ではない。


ただ似ている。


それだけの事だ。




膝をついたコレットは諸手を合わせて瞼を閉じた。


人間である自分には祈ることしか出来ない。


(どうか…どうか2人に神のご加護があらんことを…)


プチッ。


すると腕輪がパサリと地面に落ちた。


「あっ、花輪が…」


触ろうと手を伸ばした直後、何者かが花輪に近づいた。


「きゃ…っ」


思わず手を引っ込めたコレットだが、花輪に近づいたモノの正体に気付いて首を傾げる。


「子犬…?」


「わん!わん!」


子犬は花輪に鼻を近づけるとコレットに向けて可愛く吠える。


見た目は生まれて間もない白い小さな子犬だ。


一体どこから入って来たのだろう。


「おいで」


コレットは手を差し伸べた。


子犬はペロペロと手のひらを舐めた。


「可愛い…」


昔、孤児院にいた時に内緒で飼っていた子犬を思い出した。


(あの頃はテンマやサーシャもアローンもアニスもみんないて…毎日が本当に楽しかった…)



もう、あの頃には戻れない…。


「くーん」


子犬はコレットの膝に両足を乗せるとコレットの頬を舐める。


「慰めてくれるの…?」


「わん!」


「ふふっ、ありがとう」


撫でると子犬は嬉しそうに尻尾を振った。






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