パンドラ



「ハーデス様」



「−−!!」


すると覚えのある女性の声が背後から聞こえてきた。


「パンドラか…」


アローンは流し目でパンドラを見据える。


「は。お楽しみの最中、まことに申し訳ありません」


パンドラは両膝をついて頭を下げた。


「よい。…それで何用だ?」


「は…それが…」


パンドラは横目でチラリとコレットを見る。


聴かれてはまずい事なのかと思い、コレットは下がろうとしたがアローンが手で制した。



「話しても構わぬ。ペルセフォネは余の妻だ。」


「…畏まりました。実はマンドレイクのヒョードルが我らが管轄であるはずの黄泉比良坂で何者かに倒されたとの方向が入りました」



(黄泉比良坂…)


行ったこともない場所なのに何故か頭にその場所らしきイメージが浮かんできた。


「っ…、」


頭が…痛い。


「マンドレイクはその前に使いを寄越して我らに知らせを送っていました。…アローン様との縁の者。天馬星座らしき者を捕らえたと」


「…!」


その刹那、見開いたアローンの瞳に光が宿った。


(良かった…!テンマ…生きていたんだ…)


テンマの無事を知り、心の底からコレットは安堵する。


「…ほう。生きていたか」


「もちろん天馬星座はハーデス様自ら止めを刺されたはず!何かの間違いに間違いありません!天馬星座は冥界に落ちその掟に縛られ亡者と化しているはずなのです!」


微かに引きつった笑みを浮かべるアローンにパンドラは慌てて弁護する。


「それに聖闘士どもの命を表す天井の星座図の天馬星座はやはり消え失せたままなのですから…」

天井を見上げるパンドラにつられてコレットも仰いだ。


そこでようやくコレットは天井には煌びやかな夜空の星座と地球、そして太陽の幻影が浮かんでいる事に気付く。


(星座図が…聖闘士の命…)


ならばあの星座達の輝きが全て尽きたら世界は…


「ところでパンドラ」


「はっ」


「聖域へ向かった余の冥闘士たちは無事であろうか」


「それは御心配には及びません。天貴星グリフォンのミーノスは我が冥王軍最強の三巨頭の一人。そのミーノスの前では聖域など単なる遊び場にすぎません」


(あ…っ)


星座図を見上げると魚座がある場所が黒ずんでゆく。


「始まったようですわ」


パンドラの声がコレットの耳をすり抜けた。




(魚座の黄金聖闘士…)




ドクン、


ドクン、




何故だろう…私はその人を知っている。



解らない。



だが本能が告げる。




−−−思い出せと。




彼の





名前は…







   『女神』





「ア…ルバフィカ」



コレットは小さく呟いた。







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