「失礼します」 出て行った後、入れ替わるようにベールで顔を覆った女性が数人現れた。 着ている服と顔を隠しているせいで全員同じ人に見える。 「ペルセフォネ様、ハーデス様が貴女様をお呼びです。」 「私どもと共にハーデス様の許へ参りましょう」 「…行きたくないです」 唇を噛み締めてコレットは頭を振った。 「申し訳ありません…いくらペルセフォネ様の御言葉でも…ハーデス様直々の御命令ですので…」 「…私には拒否権すらないのですね」 「も、申し訳ありませんっ…!!」 「…いえ、私こそごめんなさい…あなた達が悪いわけではないのに…」 『勿体無き御言葉…傷み入ります』 深く頭を下げる。この人達は話してみる限り身の回りの世話をする普通の侍女のようだ。 「…案内してください」 アローンの…ハーデスの所に。 「良かった…ではこのお召し物を…ハーデス様からで御座います」 スッと丁寧な仕草で侍女はコレットに服を差し出す。 畳んでいるままの服を広げてみると綺麗なスリットが入ったAラインのドレスがバサッと姿を現した。 「如何でしょう。それはペルセフォネ様の着ていらしたドレスで御座います」 「ペルセフォネの…?」 「はい…。二百年前のペルセフォネ様は無理やり冥界に連れて来られた事を嘆き悲しみ、ついにはお心を閉ざされてしまいました。ハーデス様は少しでも喜んでもらえるようにとこのドレスを贈られたのですが…」 顔を俯かせて侍女が口を閉ざした。 「そう、だったんですか…」 (無理やり…冥界に…) 何故、ハーデスはそこまでしてペルセフォネに執着するのだろうか。 (分からない…けど) 一つだけ解る事がある。 それは彼が好きなのはペルセフォネで彼女に似ているだけの自分ではない。 だからだろう。いくら好意を寄せられても心が揺れないのは。 所詮、自分は彼が¨飽きるまで¨の存在。 それまでは彼女の身代わりなのだ。 (でも分からない…本当にアローンは…) ハーデスになってしまったのか。 「さっ、時間がありませんので支度のお手伝いを致します。−−どうぞ此方へ」 促されてコレットはドレスに着替えることになった。 . [mokuji] [しおりを挟む] |