要らぬ感情





「……」


すべてが渇ききっていた。涙も心も、ぜんぶ。


やはり彼はハーデスになってしまったんだ。




「早くっ…!!早く村に行かないとテンマがっ…」



敷き詰められた赤色の絨毯の上を走りながらコレットはひたすらテンマの身を案じていた。


アローンの言葉が本当ならテンマはきっと街にいるはずだ。


街に来るなと言わなければ。


彼の身が危ない。


今のアローンは…否、ハーデスはきっとテンマを殺しかねない。



廊下にはコレットの靴の音が響き渡っているが大聖堂は静かで誰もいない。



(良かった…誰もいない。これなら簡単に外に行ける…!)



ここから村まではかなり距離があるが必死に走れば間に合うかもしれない。


「お待ちください」


「――っ!!」


出口の扉が見えたと思った瞬間、冥闘士の一人、輝火が霧と共に目の前に現れた。


だが立ち塞がる訳でもなく恭しくコレットに跪づいている。


「ペルセフォネ様、お部屋にお戻りを。貴女様がいなくなったらハーデス様が心配します」


「いっ、嫌です!!それに私はペルセフォネじゃない」


「なりません。ハーデス様の命により貴女様を部屋に連れて行きます」


憮然とした口調で耀火は口を開いた。


「嫌ですっ!!私は早く皆を助けないといけな…っぁ…!!」


気がつくと耀火に腹部を殴られていた。


軽い力で殴ったのだろうが、見事に急所を狙っているのでその衝動でコレットは倒れた。


地面に倒れる前に耀火は腕でコレットを支える。


「冥府の女王たる貴女様にはそんな憐れみの言葉、必要ないのです」





例え元は女神であっても……。







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