別離




僕から彼女は逃げて行った。行く場所はだいたい把握している。


僕たちの街だろう。


だが、全く滑稽だ。



馬車で三時間かかるのに走っても間に合うはずもない。



それに……。



僕から逃げられるとでも思っているだろうか?



「ハーデス様、姫様を追いかけても宜しいですか?」


耀火は彼女が出て行った扉を眺めて静かに口を開く。



「……捕まえて僕の部屋に入れておけ。言っておくが乱暴にはするなよ」


彼女には燃えた街を見せてはいけないだろう。


今の彼女なら罪の意識で自殺もいとわない。


ならば隠しておく方が良い。


「畏まりました」


耀火はそう言うと姿を消した。




「……ごめん、コレット」


もう一人の僕が言う。



だけど、



もう、間に合わないんだ。







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