ここが森の大聖堂だと気付いたのはそう遅くはなかった。


アローンの手に引かれながら赤い絨毯を歩いていると次々に姿を現す冥闘士が膝を折り、頭を下げていた。


「(……逃げなきゃ…)」


どうにかしてこの大聖堂から逃げる術はないかと模索してみるが、逃げたところで隠れる場所もない。



(でも…)


アローンの手はしっかりと握りしめており、振りほどく自信がなかった。


細く華奢な手とは裏腹にやはり力は男だと痛感させられる。


(テンマ…テンマ)


コレットは強く彼を念じる。


そしてこれが全て夢だと思いたかった。



部屋に辿り着いたのかアローンが扉を開く。


ギィイ…と鈍い音と共に部屋の中が露になった。


するといつの間に描いたのか、故郷の風景がアローンの手によって綺麗に表現されていた。


「似ているかな?だいぶ忠実に描いたつもりなんだけどね」


「……」


アローンはコレットの手を引いて絵に近づく。


「でもねコレット、これは完成じゃないんだ。
完成するにはまだ色が足りない」


「い、ろ…?」


「そう。君がこれからよく目にする色だよ」


アローンは何処からか筆を取り出した。


それと同時に天井から吊り上げられていた何かが落ちてくる。



「…ー――っ!!」


落ちた瞬間、コレットは大きく目を見開き動揺した。



地面に落ちてきたのは聖闘士の死骸だった。


聖闘士の傷から血が溢れ、止めどなく地面を侵食してゆく。


「酷いっ…!!なぜ、こんなことをっ…!!」


涙をポロポロと溢しながらコレットは悲痛な声で叫んだ。


「これが真実の赤だからだよコレット」


筆を地面に浸すと、筆の毛が赤に染まる。


「そんなの、そんなの間違ってるっ!!」


「コレット、君もきっとそのうち分かるはずだよ。この世で最も美しい色は赤だということに」



「……っ、」



「さて、制作を早く終わらせようか。彼に会うために急がなくちゃいけないしね」


アローンは酷笑する。



その笑顔からは以前の清らかさがなくコレットの心は戸惑いと悲しみが支配していた。






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