ドレス




「ハーデス様」


触れる寸前、パンドラが部屋に入って来た。



「パンドラ…久方ぶりの会瀬を邪魔する気か?」

顔をしかめたアローンは身を引いてベッドから降りる。


コレットは恐怖で締め付けられた身体を無理矢理起き上がらせた。


「申し訳ありません。…ですが、アテナ軍らしき者が近々我等の居城に攻め込む模様。いかがなされますか?」


「ふん、知れたこと。その前に我等の力を奴等に見せつけてやればいい」


「分かりました。その役目、このパンドラにお任せを。…それと」


パンドラの眼差しがコレットに注がれる。


コレットは自然と肩を強張らせた。


「…彼女がペルセフォネ様の魂を持つ者ですか?…私が見る限り、只の人間のように思えますが」


「パンドラ、余が自分の妻を見間違うと思っているのか?」


畏怖の念というものだろう。彼はパンドラを据え睨む。


「いえ…貴方様の目には間違いなどありません。ただ、その娘は未だ覚醒なされていない様ですので」


「いずれ思い出す。…行こうコレット」


柔らかな、それでいて冷たい笑顔を浮かべるとスッと手を差し伸べられた。


長い袖から白い手が現れ、コレットを優しく誘おうとしている。


戸惑い、躊躇うコレットに追い討ちを掛けるようにパンドラの目線に殺気が込められる。



「……」


逆らえず、コレットは沈痛の顔を浮かべ、恐る恐る手を差し出すとアローンは引き寄せる。


ベッドから立ち上がったせいでコレットが纏っていたシーツがはだけて、しなやかな肢体が現れた。


そこでコレットはいつの間にか服がドレスに変わっていることに気づく。


胸元がはだけているその服はくっきりと彼女の身体のラインを表し、裾が地面に着くほど長い。


「コレット、これからもずっと共にいよう」



世界を闇に染めても。







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