春の訪れを告げる女神




コレットは夢の中で杖を持ちながら歌を謳いながら舞っていた。


すると草しか生えてなかった野原から瞬く間に花が咲き乱れ始める。


そして神々らしき者達が喜ぶ最中、一人の青年がジッとコレットを見据えていることに気づく。


「…?」


視線が気になったコレットは舞いながら不思議な青年を見つめた。


青年の孤高のような瞳に目を奪われながら――。


「っ、ん…」


うっすらと瞼を開けると視界がぼやけて見えた。


「ここは…」


周りを見渡すと天井が見える。それ以外は微かな光があるだけであって薄暗い。


「おはようコレット」


「アローン…?」


気がつくとアローンが傍にいてコレットの頬を優しく触れていた。



「ねぇアローン…ここはどこなの?」


身動ぎしながら重くなった身体を起き上がるとアローンに問う。


「僕たちの家だよコレット。どう?気に入った?」


アローンは目を細めて笑った。


その笑顔は冷笑を含めており、コレットの瞳に冷たく映る。


(っ!?、違う…)


だからこそ、コレットは感づいてしまった。


彼は自分の知っているアローンではなく、あの肖像画の彼だと。


「違う…貴方はアローンじゃない。貴方は…」


恐怖に駆られたコレットはシーツを握りしめ、お尻を滑るようにして後退する。


「…気づいているなら言うまでもないよ。今の僕は君の知っているアローンじゃない」


「…っ!!」


アローンは身を乗り出してコレットの体を押し倒した。


「は、離してっ!!」


両手を塞がれたコレットはもがくがビクともしない。


「…コレット、君のおかげで僕もようやく見つけたんだ。“真実の赤”を」


「……っ!!」


瞳を揺るがしてコレットは目を大きく見開く。


「彼も約束通り聖闘士になったらしいんだ。」


アローンは目を細める。


「君を守る為に彼は頑張っているけど、君がこちら側の神だったって知ったらテンマはどう思うかな?」


「…なっ…、何を言って……っ!?」


「なにって、コレットも薄々気がついているだろう?自分が冥府の女王だということを、ね」


「――っ!!」


肖像画の自分に似ている女性を思い出す。


『我等の姫、ペルセフォネ様』


そしてヒュプノスの声音が響いた。


「――ちっ、違う!!わたしはペルセフォネじゃない…っ!!私は」


「いいや、君はペルセフォネだよ。そして僕の一番大切な存在。」


手を伸ばすアローンの白い手がコレットに触れ、顔が近づいてくる。


「い…嫌…っ!!」


(助けて…テンマっ!!)


抵抗する力もなく、コレットはテンマを呼んだ。





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