記憶




「遅いなぁ…アローン」


森に行ってからもう夜になっていた。


「も、もしかして狼に襲われたとか…!?」


縁起でもない事を口走ったコレットはすぐさま首を振った。


「私のバカ!なに言っているの!アローンは無事に決まっ…ー―っ!!」


その刹那、ズキンと何かに射抜かれた感覚が身体中を駆け巡る。


「なに…今の」


すごい嫌な予感がする。


神父に会ったあの日のように。


(神父…?)


ふとした違和感を感じる。神父と肯定したらいけない。そんな気がする。


「森の大聖堂…の神父、か…」



ゴトン!


「――っ!?」


呟いた瞬間、窓側の棚に飾っていた花瓶が落ちる。


どうやら窓の隙間から風が吹いたのが原因みたいだ。


「良かったぁ…」


花瓶は割れていない。


ただ、花が無造作に散らばり水が流れている。


「拭かなきゃ…」


そう言いながら立ち上がって炊事場の方へ振り返った瞬間、


「――っ!?」


いつの間に帰って来たのか目の前にアローンが立っていた。


「お、お帰りなさいアローン…もぉ、急に現れたからビックリしちゃったよ。」


クスクス笑うがアローンは無表情のまま何も語らない。


「アローン…?」


気になったコレットは再び言葉を重ねようとしたがそれは頬に触れてきたアローンの手によって制された。


彼の手からは普段の温かさはなく、ひんやりと冷たい。


「――っ!?」


そしてアローンはコレットを引き寄せて抱き締めた。


「え、あ、アローン!?」


思わぬ行動にコレットは目を丸くする。


「やっぱり君はテンマやサーシャに渡したくないな。…例え君がゼウスの子供だとしてもね」



「え…っ!?」


(ゼ、ウス…)


耳染を擽られるような囁きと謎めいた言葉にコレットは目を見張った。



その刹那、コレットの脳裏に森の大聖堂の記憶が蘇った。






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