「テンマ!フラフラ動かないでってば!」 「じっとしてるの苦手なんだよな俺…」 胡座を組みながら椅子に座るテンマは愚痴を溢す。 今日はテンマが旅立つ日であり、アローンが記念にテンマの似顔絵を描いているのだ。 「我慢してよ今じゃなければ君の絵なんてずっと描けないかもしれない」 「大丈夫だってすぐに帰って来るよ…女神の聖闘士になって」 「テンマ…」 「泣きそうな声出すなよコレット」 コレットの頭を撫でるテンマの手つきは優しい。 「俺の中にあるものは小宇宙っていうんだ。童虎が教えてくれた。 聖域ってとこいけば同じように小宇宙を感じる強い奴が沢山いるって、俺、きっとそこにいって強くなるって約束するよ」 「…やめる」 不意にアローンが筆を置いた。 「ボク、ずっと君の目の色みたいな赤が作りたかったんだ。君の茶色の瞳はね、夕日や暖炉の火に透けるとどんな赤より生命力にあふれてキラキラするんだ。でも今の僕じゃ上手くその色を作れない」 アローンは面を伏せた。 「君が聖闘士になって帰ってきたらまた続きを描くよ。…それまでに僕も立派な画家になっておくから…だから」 声が震えた途端、アローンの瞳に涙が溢れて綺麗に頬を伝わって落ちる。 「ああ、約束だ」 テンマは両腕でコレットとアローンを包み込むと笑顔で言った。 「行こう童虎!」 部屋を出ると笠を被った男が鍔をあげてテンマを見た。 「絵はもう仕上がったのか?」 「ううん、後でまた描くってさ」 テンマは苦笑しながら首を振った。 「!」 ふと、童虎の目線がアローンとコレットにゆく。 「あの…なにか…?」 堪らずアローンが口を開くと童虎は はにかむ。 「いやスマンな。二人共澄んだ綺麗な目をしてるからの。…行くかテンマ」 “聖域へ――…” 『おうよ!またなコレット、アローン!』 そう言い残し、テンマは手を振り、童虎と共に歩き出した。 まさかこの別れが聖域を揺るがし、聖戦を招くとは思いもしなかっただろう。 年月はくるりくるりと廻り始め、舞台は二年後に動きだした。 . [mokuji] [しおりを挟む] |