「…!」 アテナの間で座っていたサーシャはコレットの力を感じ、ハッと目を見開いた。 (彼女の小宇宙が…) 花輪を握りしめて悲哀の表情を浮かべる。 こうなる事は予想出来ていた。 ずっと昔から。 何百年も、何千年も昔から。 「−−失礼します」 そんな憂いを払うように颯爽と現れた銀闘士がアテナの間に入り膝を折る。 「アテナ様、シオン様がハーデス城より御帰還されたのこと」 「…!!」 銀聖闘士の言葉にサーシャは反応し、黄金の杖を握りしめて外に駆け出した。 パルテノン神殿に似た作りなのでどこからともなく風が吹き抜けてサーシャの体温を奪う。 それでもサーシャは走りつづけ、ようやく外界が見えてきた。 シオン達はサーシャに背を向けて立っていたが、誰一人として重症の者はいないようだ。 「シオン…!!みんな…!!良かった、無事だったのですね!」 シオン達を見つけたサーシャは声を弾ませて近づく。 「アテナ様…」 シオンはサーシャの姿に気付くと悲痛な顔をするが、ユズリハと共に跪いた。 「申し訳ありません…我が師ハクレイどころか童虎まで失う事になろうとは…」 感情を打ち消すように冷然と言い切ろうとするシオンだが、声は僅かに震えている。 「アテナ様…これから俺…!!どうすりゃいいんだよっ!!」 耶人は崩れ落ちように地面に膝をつけると嗚咽を漏らして泣き出した。 「耶人、みんな…決して希望を消してはいけません」 「希望…?」 ふと耶人は顔を上げて呟くとサーシャは口元を緩めて静かに頷く。 「ええ…この聖戦において多くの聖闘士が倒れました。ですが彼らはのちに続く者を信じ、自らの命を落としてハーデス打倒への道を切り開いてくれました。」 「………」 (アルバフィカ…) シオンはアルバフィカの死に顔を思い出し、唇を噛みしめた。 「それがたとえ苦難の道だろうとも彼らの意志を継ぐ私達がその希望を潰えてはならないのです…だからテンマ」 サーシャは皆に背を向けて胡座をかいているテンマに目を向ける。 テンマはまだ現実を受け止められないでいた。 ハーデスであるアローンが完全にいなくなってしまったことや 童虎が自分達を逃がす為に自らの命を盾にしたことも。 「ちくしょう…」 立ち上がると体が軋み悲鳴を上げる。 だが童虎の傷と比べたら自分の傷なんて大したことない。 童虎は自分より傷つき倒れそうになっていたではないか。 なのに最後の力を振り絞るだけの力を彼は持っていた。 だけど自分はどうだ…? 技どころか拳ひとつさえ振り出せないでいる。 「くそ…!!俺は…!!俺は…!!」 自分の限界はこれまでなのか。 『テンマ』 コレット、俺は… 弱い。 弱い。 「ちくしょぉおぉー!!俺は…!!俺は強くなりてぇええー!!」 暗雲が薄らいでゆく空を仰いでテンマは叫んだ。 . [mokuji] [しおりを挟む] |