「……あれ?」 自室に戻ったはずのコレットの視界に見慣れぬ風景が映る。 目の前には本棚が数列並んであり、一見してみると図書室のようだ。 「部屋…間違えちゃった…」 城のような造りになっているので迷いやすいとはわかっていたが、まさか来た道を間違ってしまうとは思いもよらずコレットは溜め息と共に肩を落とした。 「でもどうしてこんな所に本があるんだろ…?」 冥界にも本がこんなに沢山あるとは思わなかった。 本棚に近づいて一番手頃な本を取り出す。 本の状態は良く、紙は色褪せていないようだ。 「タイトルは書いてないけど……」 ペラペラとページを捲るが別の国の言語なのかまったく読めない。 「…うーん残念だけど読めないなぁ…でもいったいどんな事が書いてあるんだろ…」 言いながら本を棚に直そうと腕を伸ばした。 その時、 『やっほーコレットちゃん』 「!?」 急に頭上から声が降りかかり、コレットは驚いて顔を上げる。 「メフィスト…」 本棚の上に座り、足をばたつかせながらメフィストフェレスはニヤリと口角を上げて笑った。 「やぁあ久しぶりー!コレットちゃんに会えて嬉しいぜェ」 「…私はあなたに会えた事が一番の不幸ですね」 メフィストフェレスの行動に警戒しながらコレットは据え睨む。 「コレットちゃんは素っ気ねぇなァー!少しはオイラの事見直してくれたのかとばかり思ってたんだけどねェ」 シルクハットの鍔を軽く上げて軽快な素振りを見せたメフィストフェレスはコレットの前に飛び降りた。 「……なにか用ですか?」 「いんや別にィーオイラはただコレットちゃんに会いに来たらこんな場所に辿り着いたってだけだぜ」 「……そうですか」 コレットは目線を逸らして盛大な溜め息をつく。 この男が神出鬼没なのはわかったがただ目的もなく会いに来ることはないはずだ。 「んな事よりよコレットちゃん。暇ならオイラとデートしないかい?」 「……丁重にお断りします」 「ハハッ!ペルセフォネ様は薔薇のような御方だなァ!でもこーんな城にずっといるより、オイラと出掛けた方がまだマシだと思うぜェ」 「……、」 認めたくないが確かに彼の言うとおりではある。 幾ら冥府の女王とはいってもやはり太陽の光が恋しい。 それに一晩中冥闘士や侍女に付き添われるのも、周りからずっと腫れ物扱いされるのも億劫だ。 (今だって近くに冥闘士や侍女かいるかもしれないし…) どこにいようともコレットが一声かければすぐに現れる。 見張られてるような、そんな気がしてコレットは心労が溜まっていた。 「おっと、安心していいぜ?周りには今、俺しかいない」 目線を周りに巡らせたコレットにメフィストフェレスはおどけて笑う。 胡散臭い笑みだが彼が嘘をついているとは思わない。 「…、少しの時間だけならいいですよ」 すぐに帰ればいい。 たまには外の空気を吸うのも気分転換になるかもしれない。 「決まりだな!」 コレットの言葉にメフィストフェレスは歯を剥いてニヤリと笑った。 . [mokuji] [しおりを挟む] |