「−−!?」 その瞬間、何者かが背後からコレットの身体を支えた。 「お怪我はありませんか?ペルセフォネ様」 「!?、ラダマンティス…!」 振り返ったコレットは体勢を立て直し、ラダマンティスと向き合う。 彼は三巨頭の一人であり、ハーデスに永久の忠誠を誓っている男だ。 三巨頭は冥界の中でも1、2を争うほどの強さを誇り、常に彼を守っている。 それと同時にコレットを護衛する任務も任されているのだ。 「どうして貴方がここに…?」 「ここを通る途中ちょうど貴女様のお姿が見えたので…それよりもお身体の方は大丈夫ですか?急に倒れられたようにも見えましたが…」 「え、ええ。私は大丈夫です。少し疲れているだけですから」 コレットの言葉にラダマンティスは深い溜め息を吐いた。 「…ペルセフォネ様、あまり無理をなさらないで下さい。貴女様に何か遭ったら貴女様の護衛役も勤めている我々三巨頭もハーデス様に合わせる顔がないのです。」 「ラダマンティス、私は貴方達に守ってもらうほどの存在では…」 『−−ペルセフォネ様、頭が筋肉ばかりの三巨頭よりも私が貴女様を御守りしましょう』 「…!?」 言いかけた直後、突如として聞こえてきた低い声音に遮られる。 そして暗闇の中から褐色肌の男が現れ、コレットの許に歩いてきた。 「お前…誰に向かってそんな口を利いている…!?天獣星スフィンクスのファラオよ!!」 ラダマンティスは憤慨した様子でファラオに向け声を荒げる。 「ふっ、誰とは三巨頭のラダマンティス、君のことかな?」 「貴様…!!」 嘲けるように軽笑するファラオにラダマンティスは掴み掛かる勢いで声を上げる。 「お止めなさい、ラダマンティス」 だがすぐにコレットがラダマンティスを咎めた。 ラダマンティスはコレットに制され、喉から出掛かった言葉をぐっと飲み込んだ。 その様子に窃笑したファラオだったが表情は穏やかな笑みをたたえて、恭しくコレットに御辞儀をする。 「我々の女神、久しぶりにお会いできて誠に嬉しく思います」 「ええ、ファラオ。貴方は変わりないようですね」 「はい。しかし貴女様は転生を繰り返す度にお美しくなられる…私はますます貴女様に魅了されていく一方で御座います」 ファラオはコレットの手を掬い上げて手の甲に口づけをした。 「きっ!貴様!!ペルセフォネ様になんと恐れ多いことを…!!」 「良いのです。ラダマンティス」 「で、ですが…!!!」 ラダマンティスは憤りを隠せずに言葉を詰まらせる。 コレットは少し息を吐くとファラオに触れられている手を自分の許に引き寄せた。 「ファラオがこう言うのは今に始まった事ではありません。…そうでしょう?ファラオ」 「相も変わらず手厳しい方ですね…私は本心で言っているつもりなんですが」 ファラオはおどけたように肩を竦める。 だが昔から彼を見ているコレットはその台詞さえも冗談に聞こえた。 「では…そろそろ私は部屋に戻りますね。少し…疲れました」 「ペルセフォネ様、お部屋までお送り致します」 「いいえ結構です。その気持ちだけ受け取っておきますね、ラダマンティス」 コレットはそう言うと踵を返して自室に向けて歩き出した。 「ペルセフォネ様の寛大なるお心に感謝しておくんだなファラオ。本来ならお前の首はとっくに無かった」 遠くなるコレットの後ろ姿を見据えながらラダマンティスは言う。 「ふっ、私の女神が貴様のような野蛮な者の行動を許すわけないだろう」 ファラオは笑い、ラダマンティスの横を通り抜けた。 「それにあの方は血が流れる事をもっとも嫌っておられるからな」 スッと闇に溶けたようにファラオの姿と気配が消える。 (…血が流れることを嫌う女神、か) 悲哀の表情を浮かべたまま立ちすくんでいた彼女。 否、女神。 三巨頭としてずっと側で彼女を見てきたラダマンティスだが彼女の苦しんでいる姿しか見ていない気がする。 (貴女様があのような下劣な人間共に心を病む必要はない筈だ) ラダマンティスはそう思いながら彼女とは逆の道を歩き出した。 . [mokuji] [しおりを挟む] |