過去





手を伸ばす。彼の頬に触れた。彼は伸ばした私の手を触り優しく微笑む。すごく幸せな時間。満ち足りて、それでいて時が止まってと願わずにはいられない。できるならずっと、ずっと彼の傍にいたい。


だけど私と彼に流れる時間はあまりに違っていた。


幾ら神でも私と彼を平等にはしてくれなかった。


血、血、血、彼から流れる血。


私は何も出来なかった。



何も。何も。



『あの男の命を助けたいと思っているならその願い、叶えてやろう−−ただし、』


嗚呼、世界はなんて無情なんだろう。…でも彼が生きてくれるなら。私はそれだけでいい。


たとえ彼が私を忘れてしまっていても私も彼への想いも消し去ってしまえばいい。



そうすればすべて解決する。私も彼も本来の在るべき道に戻るだけ。


だから早く、早く私を殺して。


何度生まれ変わろうとも


私を殺しにきて。


私は待っている。


会う度に違う姿のあなたが私を殺しにきてくれるのを。


そうすれば私は自分の立場を思い出す事ができるから。



『どうして…どうしてだ』


あなたの涙。血塗られた私の身体を抱きしめて泣いている。ああ…駄目。目が重い。貴方の涙を見るのはこれで何度目だろう。


いくら見ても貴方の涙は慣れない。


また見るのだろうか。見てしまうのだろうか。


今度は私を思い出さない貴方がいい。殺して後悔している貴方をもう二度と見たくないから。






ごめんなさい。



ごめんなさい。



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