静かに階段を上がる。登る度に自分の心や存在が地上から離れていくのを感じた。 「お迎えにあがりました。ハーデス様、ペルセフォネ様」 艶やかな声音とともに目の前にパンドラが現れる。 「パンドラか…」 ハーデスの言葉に彼女はドレスの端を持ち上げて恭しく頭を下げた。 「冥闘士達も待ちわびております…さ、参りましょう。御二人の新しい城へ」 パンドラの血色のよい唇が言葉を紡ぎ、天風が彼女の漆黒の髪をゆらゆら靡かせる。 彼女がいるということは城への入口が近いという事なのだろう。 (地上とも…これでお別れなんだ) そう思ったら自然とコレットは後ろを振り返っていた。 地上の景色が鮮やかな色と共にコレットの眼に映る。 (綺麗…) 山林が街やアテナ神殿を囲むように周りを覆い尽くしており空には鳥が飛んでいた。 一見するととても平和に映る地上。 だが意識を集中するとコレットの耳には死にたいと切願する人達の嘆きの声が絶えず流れてくる。 「地上が恋しいか?」 立ち止まっているコレットにアローンは諮問する。 「………いいえ。ただ地上の美しさに魅入っていただけです」 コレットは頭を振って素直にそう答えた。 「地上の美しさ…か。余にはお前の云う地上の美しさがどういったものなのか分からぬ」 フッと笑うとアローンは目線を前に向けて階段をのぼり始める。 「だが空から地上を統べる事になればお前の云う言葉の意味も多少なりとも理解できよう。」 「………」 コレットは無言のまま何も答えず地上を一瞥する。 (さようなら…) 風で乱れた髪を耳に掛けてコレットもアローンと共に階段を登り始めた。 . [mokuji] [しおりを挟む] |