偽りの色




「荷車で三時間はかかる大聖堂へわざわざ来るんだ。君達が見たいのは我が聖堂の奥深くに保存されている聖人の絵か?」


「………はい。
一般には公開されてはいませんからいつも追い返されてばかりですけど…その絵を一目見るのが僕の最大の夢なんです。」


憂いを帯びた顔でアローンは自分の思いを口にする。


それはコレットが前、アローンから聞いた言葉だった。


聖人の絵はかつてローマ法王に捧げられた聖なる絵であり、その絵はあまりの美しさにどんな罪人でも一目見れば己の罪を悔いて心からの涙を流すという。


誰が描いたかは定かではないらしくその絵はその貴重さ故に聖堂の奥深く隠されたらしい。


今でもその絵を見た者には救いをもたらすという噂が流れている。


アローンは神父からその話を聞いてから、よく森の大聖堂に行っていた。

だが、貴重な絵なのでいつも扉の前で寸土めさせられていた。


「罪人が涙ね…描けますよ。地上で最も清い魂を持つあなたならね」


「え?」


「――っ!!」


(今…)


神父の冷然の笑みにコレットの背筋がぞくっと震えた。


(き、気のせい…だよね?)


コレットは小さく首を振って胸元を握りしめた。


「ところでこの絵、どうして中央の天使の目に色が塗られていないのです?」


腕を組みながら顔を上げた大聖堂の神父は天使の瞳に注目した。


「ああ、それは…なかなか思うような色が作れなくて…」


アローンは眉を八の字に曲げて絵を見上げる。


「朱い…夕陽に透けたような…そんな色がだしたいんです。色々な朱で試しましたがなかなか…」


「人の作る色には限界がありますからね」


「!」


神父から発された意外な台詞にアローンは顔を彼に向ける。




「人間の認識する色など光が見せる錯覚でしかない。言わばそれらは偽りの色。真実の色ではないのです」


若いのにまるですべての理を熟知しているような口調だ。





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