死の神




教会へ着くとアローンは絵を描き始めた。


天使。今、アローンが制作中の絵だ。すべてを包み込み、慈愛に満ちた表情で翼を広げている。


圧倒される。油絵でこんなにも素晴らしい作品が描けるのだ。神父はアローンには才能あるといつも彼を褒めていた。


コレットもアローンの魔法使いのように筆先を滑らせて絵を描く姿が好きだった。


だけどたまにその姿が哀しくも見える時がある。


何故だかはわからなかった。


「ねぇコレット。僕はね、この瞳にテンマのような陽に照らされると赤くなるような色がほしいんだ」


描きながらアローンは口を開く。だが、彼の手は休むことなく動いている。


「その色では駄目だったの?」


「うん…残念だけど違ったよ」


筆先を画用紙に付けたままアローンは悲哀に満ちた笑みをした。


「赤にも色々な赤がある。楽しい赤、優しい赤、強い赤、…でもどれも違うんだ。」


「そ…、っか」


「コレット…真実の赤って、どんな色なんだろうね」


「アロー…」



コレットが艶の良い唇を開きかけたその時――、


「噂以上の腕だな…血が通っていて、今にも動き出しそうだ」


背後から感嘆の声が聞こえ、振り返ると神父と司祭の服を着た眼鏡の若い男がいた。


「あなたは…?」


それは建物の屋上からコレットを見おろしていた男だったが、彼女はその事を知らず首を傾げる。


「紹介するよ。こちらは森の大聖堂から来た神父さんだ。アローンの描く絵に興味を持ってわざわざ訪ねてくださったんだ」


手の平を軽く垂直にして神父は隣にいる眼鏡の男を紹介する。


(?、森の大聖堂の…?)



コレットはふと訝しむ。

たまにアローンと一緒に大聖堂に来ているがこんな若くて美形な神父など見たことがない。


(新しく来た方かな…?)


「君はよくうちの大聖堂に来てくれているね。」


「!、はい」


畏まってアローンは肩を強張らせる。


男は隣にいるコレットに目を向けた。


「君も度々彼と一緒に来るね」


「あ、はい…」


(なんだろう…)


柔らかな口調の彼からは微かな違和感を感じる。


あまり関わりたくない。


そう思った。






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