血路




しかし太刀はテンマには当たらず、咄嗟に前に出た童虎の肩に当たった。


肩には厚い盾が備えられていたおかげで当たらず、太刀を浴びた盾が二つに割れる。


だがその衝撃は凄まじく、ハーデスの剣の威力は波となって地面を四方に引き裂いた。


「…童…」


「相変わらず危なっかしいなテンマよ!まだあっさり目の前で死なれてはたまらんぞ!」


にやっと笑い、童虎は言う。


「も、もうない!あんな事!」


テンマはふいっと顔を背けると「なら安心じゃ!」と童虎は笑って答えた。


「…余の結界が解けて図に乗っているようだな天秤座」


アローンは透き通った太刀に雷を纏わせる。


「目障りだ。二人まとめて…斬る」


「…ッ」


またあれを受けたら今度こそは死ぬかもしれない。


テンマは唇を噛み、アローンを睨みつけた。


「テンマよ。気付いておるか?」


すると童虎が小さい声で口を開いた。


「強力な武器とはいえど振り切るのには間がある。それはハーデスとて同じこと…ならば」


童虎が身構える。


「わしらの拳の方が速い!!次の一太刀がチャンスじゃ!!」


「ああ、わかった!!」


テンマも続けて気を全身に纏った。


アローンは太刀を横に薙ぐ。


「ペガサス流星拳ー−−ッ!!」


「廬山百龍覇ー−−ッ!!」


2つの技が一つとなり、龍が流星の数だけ増え、アローンを襲った。


「つまらん技だ…もはや二人まとめてとは言わん!!」


叫んで、アローンは太刀を横薙に振るいながら全身から魔力を放出した。


「この場にいる全員冥界に墜ちよー−ッ!!」


その強大無比な力は雷鳴を数百…いや、何百万倍に増幅したような轟音を地に響かせた。



一瞬で全員の体が吹き飛ばされ、地に倒れる。


(次元が違う…これが神の力なのか…!!)


シオンは力を入れて立ち上がろうとするが、身を起こすだけで精一杯だ。


(このままでは全滅…無駄死にする…しかし、)


シオンは地面に手をついているテンマを見る。


(今ここで天馬星座を…冥王と因縁を持つあの若者を死なすわけにはいかん)


神話の時代、唯一冥王の肉体に傷をつけた男の魂。


(だが…あのハーデスから隙を作るなど…)


瓦礫に手をつけて童虎が起き上がり、決意と覚悟を秘めた眼差しをシオンに向けた。




(童虎…まさかお前…!!)


シオンは気づき、目を見開く。


−−彼は死ぬ気だ。



童虎は着ていた鎧を脱ぎ捨てる。


「童虎…聖衣を…!?」


(テンマよ、)

全身に気をたぎらせて童虎は立ち上がった。


(不憫とは言わん。しばらく会わんうちにお前は多くの哀しみを味わったようだな)


好きだった幼なじみがペルセフォネであり、大切な幼なじみがハーデス。


きっと言葉では表せないほど彼は悲しんだだろう。


(それがお前の宿命なのだろう。そのお前にわしがしてやれるのはほんの一本の活路を拓くことのみ…!!)


カッと目を見張る童虎の全身から膨大な小宇宙が放たれる。


「余は一人たりとも逃すつもりはないはないのだがな!!」


そう言うとアローンは再び太刀を振った。


「うぉおおお!!廬山龍飛翔ー−−ッ!!」


吼えて童虎は拳から黄金の龍を解き放った。


閃光が迸り、眩い光をアローンに浴びせる。


「目くらましのつまりか!!くだらん!かき消してくれる!」


太刀を龍に向けたアローンだがすぐにハッと目を見張る。


(龍の中に…何かを…!?)


開かれた龍の口から何か出てきた。


「いけー−!!」


童虎の声と共に三叉の槍が飛び出し、アローンめがけて襲いかかった。








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