「……蓮見くん」
「ん? どうしたの」

 夜も深まったロビーで、蓮見と彼女の二人だけが残っていた。他の六人は既に部屋に戻っており、細やかな雨音だけが絶えずカーテンの向こうを揺らしている。

「さっきの話、ほんとかな」
「『あの事件』のこと?」
「うん。みんなが急に消えちゃうって……」
「うーん偶然だとは思うけど……」
 
 同じ日付、同じようなシチュエーションというのが気になるが、いなくなった五人も見つかっているし集団の催眠行動か何かだろうか。だが彼女は先程の話に不安を覚えたのか、落ち込んだ表情で視線を落としている。普段強気で小悪魔な彼女にしては珍しい。

「蓮見くん――あの、」
「だ、大丈夫だよ! き、君の事は その、僕が……」

赤くなる顔を必死に誤魔化しながら、両手で彼女を制する。彼女の大きな目がじっと蓮見を見つめ、そして――

「あのね、…… 蓮見君の方が部屋広かったから変わってくれない?」
「……」


 前言撤回。 
 差し出された蓮見の部屋の鍵を受け取り、嬉しそうな彼女と別れた。そのまま照明を落とした部屋に入りベッドに倒れこむ。雨に降られた疲れも出たのだろうか、蓮見も早々にうつらうつらと睡眠の中に落ちていった。
 翌朝、騒ぎの足音に起こされるまでは。






「ふあ……」

 目に掛かる前髪をかきあげ、小さくあくびをする。セットしていない赤茶の髪はまっすぐで、蓮見は寝ぼけ眼のまま髪型を整え始めた。
 ふと外に目をやる。相変わらず細かい雨が降り続いており、今朝に至っては濃い霧も出ているようだ。この状態では今日も帰るのが難しいかもしれない。

「どうしよう……早くしないとまた機嫌悪くしそうだし……」

 小悪魔で気まぐれな同行者を思い出し、苦笑する。その時、廊下向こうの一室で誰かが怒鳴るような声が響いた。不思議に思い顔をのぞかせると、昨日からの来客達が斜め向かいにある一室に集まっていた。慌てて蓮見もその現場に駆け寄る。

「なにかあったんですか?」
「えっ!? ……ああ、実は……」

 一番室内に近い位置にいた紺野が振り返り、何やら複雑な表情を浮かべている。どうにも様子がおかしい。

「失礼し…… ――これは」

 部屋を覗き込んだ蓮見の目に飛び込んだのは白い霧――ではなく、大量のたんぽぽの山だった。それも黄色ではない、白くふわふわとはじけた綿毛のたんぽぽで、設楽の部屋がみっしりと埋め尽くされていたのだ。そして恐ろしいことに、当の部屋の主の姿がない。

「し、設楽さんは一体……!」
「……僕が様子を見に来た時は既にこの状態で、設楽は気絶していたよ。いま花椿さんが別室で様子をみてる」
「……そんな」

 喉の奥がこくりと音を立てた。




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