「という訳、なんだけど……」
「事情は分かったけど、――遅ーい!」

 犯人を解き明かしてすぐ、入れ替わりに利用された彼女と花椿の居場所を聞き、駆けつけた。彼女らは別棟の一室に軟禁されており、乱暴にはされていなかった。それどころか、花椿の趣味で選んだ衣装がずらりと完備された部屋で、二人して着せ替え人形のようにあれではない、これではないと騒いでいたのだと言う。安堵すべきか、呑気というべきか。

「ご、ごめん……」
「まあ楽しかったしいっか。そろそろ行こ?」

 平が全ての犯行を認めた後、気絶していたそれぞれも目を覚ました。皆やはりショックで記憶が混同しているらしく、事情を話した後も特段怒るでもなく終わった。

「でもよく分かったね蓮見君」
「何が、かな?」
「犯人が私に化けてたってこと」
「……」

 追及の際、部屋に入れない事を指摘し、まんまと平が蓮見の罠に掛かったのは狙い通りだった。
 だが実は、彼女に扮した平が部屋を間違えるよりも前に、彼女が偽物であると蓮見は気付いていたのだ。しかし――

(言えるわけないな……)

 新名の部屋を探索した時、実に儚げな様子で話しかけてきた彼女。今思えば、蓮見が真相に気付かないかと心配した平の行動だったのだろうが、普段の彼女と比べてあまりにしおらしすぎたのだ。

(君があんなに儚げに僕を頼るなんて、おかしいと思ったんだよね……)

 伊達に小悪魔ルートで鍛えられている僕ではない。

「蓮見君?」
「えっ、いや、なんでもない。行こう?」

 玄関に向かうと花椿と平が慣れた様子で見送りの準備をしていた。花椿の方は彼女と離れる悲しさでとても寂しそうだ。

「バンビ! 絶対また遊びにきてよね! 約束だから!」
「カレン〜!」

 ひしと抱き合う二人を横目に、蓮見も平に手を差し出す。平もまた少し困ったような笑顔を浮かべていたが、そっとその手を握り返した。

「……蓮見君、ありがとう」
「こちらこそ」

 人の良さそうな笑顔。彼は本当に自分が思っているよりも、沢山の人から大切にされているのだ。

「君のお陰で、俺、ちょっと自信が出たよ」
「そう。それなら――」
「よく考えたら、プレミアムしか出れないのも同じくらい悔しいだろうなって」
「……」

 お互い頑張ろう! と強く手を握られながら、蓮見はただ切なく笑いを浮かべるしかなかった。
 いつの間にか直されていた玄関の扉を開き、ゆっくりと足を踏み出す。見上げた空は綺麗な湖面のように晴れ渡り、彼女は大きく伸びをした。

「じゃあいこっか!」
「……あ、うん……」
「蓮見君?」

 こうして、蓮見の心に小さな傷跡を残し、事件は終わりを迎えた。
 









「という話を書こうと思うんだが、どうだ?」
「ミステリー? ですか」

 新作の構想中だと言う藍沢に呼び止められ、少女は首を傾げた。

「一応、このキャラは君がモデルだ」
「これですか、……うーん」

 強い性格の女性キャラのモデルだと言われて複雑だったのか、彼女がむうと眉を寄せる。

「わたし、もしかしてこんな言い方してたりします?」
「いや、これは君が小悪魔だったら言いそうだなと思って書いたんだ」
「小悪魔……うーんやっぱり私には無理なような……」
「はは、まあそうだろうな」

 なにせ君は俺の天使だからな、と藍沢が呟き、一拍置いて彼女の顔がぼんと赤くなったのが分かった。それがまた可笑しかったのか、堪えるように笑う年上の彼を彼女は手近にあったクッションでぼすぼすと叩く。そんなじゃれあいがどこかで行われていたその時――




「っくしゅん! ……風邪かな」


 長い前髪の青年がこれもまたどこかでくしゃみをしていた。今日も彼は喫茶店で誰かを待っているのかも知れない。


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中の人ネタで蓮見少年の事件簿でした!

書きながらみかべるさんの探偵台詞まとめ「犯人はじっちゃん!」を思い出しました。使いどころ限定され過ぎだろ

 


 



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