「―…夏くん、琉夏くん!」

長い眠りから覚めた時に目の前にあった美奈子の泣き顔。

正確には、歯を食いしばって泣き崩れれないように耐えている顔だった。


一粒の滴がその頬をつたって、俺の頬に落ちる。


「……やっと戻ってきてくれた」


震える声と、その滴の温かさを感じたら、美奈子の気持ちが痛いほど伝わってきた。


俺はなんてバカなことをしたんだ。
一つ間違えたら、こびりついて消え去ってくれない記憶を美奈子に植え付けてしまうところだった。


それこそ耐えられない。


「美奈子、美奈子…ごめん。ごめんな」


美奈子は、謝ることしか出来ない俺の涙で濡れた頬を撫でながら、何度も首をふるふると振り続ける。


「ねぇ……お願いだから、一人にしないで……」


その言葉を聞いた俺は、返事することも出来ずに、泣きじゃくりながら美奈子の手を取り、ただ頷くことしか出来なかった。




ほんのりオレンジ色した光がもれる部屋へと続くアパートの階段を駆け上がる。


出迎えてくれる美奈子の陽だまりのような温かな笑顔を思い浮かべ、マフラーを緩め、二人の合図のノックをゆっくりと3回繰り返す。


「美奈子、ただいま」

「おかえりなさい、琉夏くん」

開かれたドアの向こうにいるのは、誰より大事な愛しい人。


ドアノブに伸びた手を取り、腕の中に閉じ込める。

驚いて一瞬固まった美奈子の身体の力はゆっくりと抜けていき、俺に身を委ねギュッと抱き締めてくれる。


愛したことを、愛されたことを忘れていくのが仕方ないことならば、何度も何度も記憶を塗り重ねていけばいい。

それは生きているからこそ出来ること。


「美奈子、ただいま」


俺のいるべき場所を作ってくれたオマエの隣で、オマエだけを愛し続けるよ。

俺がこの温もりを手放そうとすることは、もう一生ない。




(written by:墨)

12/16のプレゼントは墨様からの小説です!

冬の寒さと琉夏の心がシンクロするかのようで、バンビの温かさが胸に沁みます´`*
今までがある分琉夏にはもっともっと幸せになってほしいです…*



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