それは聖なる夜。
クリスマスに彩られた街道を大型のリムジンが走行していた。
外気は寒いが、車内は温かく、まるでこれからパーティにでも行くような装いをした3人の男女のにぎやかな声が響いていた。


「わぁ!このもケーキすごく美味しいです」


切り分けられたケーキを口に運びながら、後輩である彼女は目をキラキラとさせる。
設楽家御用達の菓子店に特注で作らせたケーキは、どれもとても美味しい。
ふわりとした生クリームの甘さと、舌で蕩ける柔らかいスポンジに感動する後輩の表情を眺めているだけで、こちらまで満たされてくる。


「そうか…それはよかった。なんなら僕のぶんも食べる?」

「ええ!…い、いくらなんでもそんなに食べられないですよー」

「大丈夫だ、お前なら食べれるだろ。ほら、こっちのもうまいぞ。たぶん」

「も、もう!設楽先輩まで!」


からかわれていると思ったのか彼女は少しだけ頬を膨らませる。
僅かに朱に染まった肌は、きっとどんなケーキよりもずっと甘くて柔らかいのだろう。
もしここに彼女と自分の二人しかいなったら――――手を伸ばしていただろうか。触れていただろうか。それとも…。


「…おい、お前今なに考えてたんだよ」

つんと横腹を軽く突かれ紺野ははっと我にかえる。
隣には設楽が優雅にワイングラスをを口につけこちらをジト目で睨んでいた。
まさかほんの少しだけ想像した邪な考えを設楽に見抜かれたのだろうか。いやまさか、だとしたらどれだけ自分は顔に出やすいのか。

「別に。このケーキも美味しいなぁと思ってただけだよ」

「ふうん…?」

我ながら苦しい言いわけだ。けれど声だけは平静にできた…と思う。
全然納得していない様子の設楽に、紺野は内心冷や汗をかくが、彼女はそんな男二人の微妙な空気に気づくこともなく目を輝かせる。

「あ、紺野先輩のはチーズケーキですか?それ有名店の限定商品だけあって美味しいですよね〜」

「へえ…お前もよく知ってるな」

「女の子はみんな知ってますよ。一度は食べてみたいってみんな言ってます!こっちのチョコレートケーキだって―――」

はしゃぐ彼女のおかげで設楽にそれ以上の追及もされず、紺野ほっと息をつく
ケーキの話題で盛り上げる彼女に相槌を打ちながら、思えば不思議な組み合わせでクリスマスイブを過ごしているな、と紺野は今更ながらに思う。
いつからだろうか。最初はただの後輩だった彼女にそれ以上の感情を抱くようになったのは。そして友人である設楽も同じ気持ちであることに気がついたのは。
――――設楽も紺野も、互いにこの想い譲るつもりはない。
けれど、今日という特別な日をあえて3人で過ごそうと計画したのは、互いに出し抜く勇気がなかったのもあるが、それ以上にまだこの関係のままでいたいという思いもあったからだ。
もしどちらか一人が彼女をクリスマスイブに誘っていたら、きっと彼女ももう一人のことを気にしてしまっていただろう。
ぬるま湯のようでいて、殺伐としたギリギリの均衡で保ったこの関係。彼女を傷つける様なことだけは絶対にしないというのは設楽と紺野の間の暗黙の了解だった。
二人きりで過ごしてみたいという欲はある。それは設楽も同じだろう。けれど彼女が望むなら、今は今だけは。このままでいたいという思いも決して嘘ではないのだ。




彼女のケーキ談義も一通り終わるころ、設楽がふと車窓を見る。

「…ん?…そろそろ着くんじゃないか」

「もう?はは…随分早く感じるなぁ」

楽しい時間は本当にあっという間に過ぎてしまう。
紺野が腕時計を確認すると、彼女は不思議そうに首をかしげた。。

「えっ?どこ行くんですか?」

そういえば私行き先聞いてなかったです、と言う彼女に設楽は

「ついてのお楽しみだ。とっておきの『クリスマスプレゼント』だぞ」

と意味深な笑みを浮かべ、くいとワイングラスの中身を飲み干すのだった。





はばたき市を一望できる高台で、リムジンは静かに停車する。
色とりどりに輝くネオンが散りばめられた澄んだ空気の冬の街。
3人とも感嘆の声を漏らすと、目の前の景色にくぎ付けになる。

「クリスマスプレゼントってこのことだったんですね…私夜には初めて来ました…」

「うん…。僕も初めて来たよ」

「俺もだ。なかなかいいもんだな」

昼間はドライブ客などでそこそこにぎわうここも夜は水を打ったように静かだ。
設楽も紺野もこの場所は思いつかなかったが、設楽家の運転手が(今日もここまで運転してくれた)
聖司様のクリスマスデートの為ならばとっておきの場所を紹介しましょう!と微妙な顔をする設楽と紺野に教えてくれた穴場だ。

クリスマスだからか、街中はいつもよりもイルミネーションなどで明るい気がする。
人口的につくられた派手な光一つ一つに、自分たちのようにクリスマスを祝っている家族や友人―――恋人たちがいるのかと思うと無機質なはずの光が、どこか温かく思えてくるから不思議だ。


「本当に…すごく綺麗ですね…」

車窓を眺めながら、彼女がうっとりしたように呟く。
幸せそうに微笑む横顔はメイクのおかげか、いつもより少しだけ大人っぽくて。
胸が僅かに高鳴ったのは、きっといや絶対に自分だけではないだろう。



「うん…綺麗だよ」

「ああ…そうだな」

何がなんて、今は言えないけれども。心から綺麗だと二人は思った。夜景よりも、ずっと―――――。


「―――来年も3人でこの景色を見れたらいいですね!」

「「え…」」

突然振り返り、無垢な笑顔を向ける後輩に気の抜けた声が重なる。
紺野と設楽は一瞬だけ固まると、お互い顔を見合わせ、苦笑を浮かべるのだった。


来年のクリスマスイブ。この3人がどう変わっていくのか。はたまた何も変わらないのか。それはまだ誰も知らない。







(written by:美紀)

12/25ラストのプレゼントは美紀様からの小説です!

先輩組の△関係と天然無邪気なバンビが可愛くて可愛くて…* この絶妙な関係性が続いて欲しいやら、でもどちらかに決めなければならないという葛藤があって、何故日本に一妻多夫制がないのでしょうか…´`* 
ゲームの雰囲気ぴったりの作品です〜*



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