12月23日に降る雪は 願いを叶えてくれる。 そう教えてくれたのは誰だったか。 ひらり、 頬に落ちた、刹那の冷たさに空を見上げた。 「Imperial snow…」 Imperial snow 24日が土曜ということもあり、例年より一足早く、昨日、22日に終業式を迎え冬休みに入った。 期末考査から成績表の作成でドタバタしていたのが少し遠く感じられるくらい穏やかな休日。 久々にゆっくりと寝坊して、冷え切ったキッチンで珈琲を淹れる。 ほわりと鼻先をくすぐる湯気に、寒さで緊張していた身体が弛緩するのが判った。 こたつに入って新聞を開く。 数枚めくって欠伸を一つ。 ちらりと見上げた時計の針は午前10時を少し回っている。 そう言えば、冷蔵庫の中がカラに近い。 買い物にでも行くかなぁ…なんて考えながら、世の中の恋人達にアテられるのが妙に癪で、暖かなこたつから動く気にならない。 あぁでも、このままじゃますます虚しいクリスマスを過ごすことになる。 「ご飯くらいまともにしないとなぁ…」 健康維持の基本だしなとようやく動き出す気になって、もぞりとこたつを抜け出した。 「…寒い」 スーパーの袋を両手にガサガサ言わせながら歩く街並み。 ぼそりと呟いたのは、纏わり付くような冷たい風に対するものなのか、行き交う恋人達の中を一人歩いている自分に対してのものなのか。 苦笑して肩を竦めると、袋の中で牛乳のパックがバランスを崩してガサリと音を立てた。 一瞬同じ袋に入れた卵が気になったけれど、それほどの衝撃じゃなかったよなと袋に移した視線を再び前に戻した。 その頬に落ちた、刹那の冷たさ。 「雪だ…」 見上げた空から舞い落ちる。 上空では風に巻かれ慌ただしげに交差しても、目の前を過ぎゆくそれは、ふわりゆるりと。 明日も降るんだろうか。 理事長宅で開かれるクリスマスパーティーがホワイトクリスマスになれば―…彼女も喜ぶだろうな。 不意に浮かんだ考えを、ぶんぶんと頭を降って追い払った。 昨日、会ったじゃないか。 『先生、風邪ひかないようにしてね』と笑って手を振った彼女に『また始業式でな!』と応えて。 たった二週間くらい何でもないと思ってたんだ、その時は。 「まだ一日も経ってないぞぉ」 苦笑すると白く霧散する息。 風に吹かれてつま先を掠めた枯れ葉。 どうして冬の景色は、こんなにも物悲しく人恋しい気持ちにさせるんだろうか。 温め合うには最適でも独り身には厳しい。 ハァとわざと大きく息を吐いて、その頬でまた雪を受け止める。 12月23日に降る雪は 願いを叶えてくれる。 不意に思い出して懐かしさに目を細めた。 天皇誕生日に降る雪は特別なのだと。 それをImperial snow―インペリアル スノウ―と言うのだと。 そう教えてくれたのは誰だったか。 実家から二軒隣のサナちゃんだった気がするな。 小さい頃よく遊んでくれた3つ年上のロマンチストなお姉ちゃん。 「願い事…かぁ」 呟いて、ちらりと浮かんだ考えを咳ばらいで打ち消す。 明日、会えるだろ。 パーティーに来るって言ってたじゃないか。 明日。 明日には会える。 会える。 … …… ……… 「けど…会いたい」 恋人なんかじゃない。 ましてや教師と生徒で。 ほんとは望むことすら罪深いことなのかもしれないけれど。 「―…会いたい」 子供みたいな願いと称した我が儘。 ふわふわと眼前を舞う雪に、歩数と同じ数だけ願う。 家にたどり着くまで何度も、時折「できれば付き合いたい」なんて欲望まみれな願いも割り込ませながら繰り返すのは、とても根拠レスな、しかもついさっき不意に思い出したようなジンクスを自分はどこかで信じていて。 信じていれば、叶うかもしれない。 ……なんて。 やっぱり少し馬鹿げてるんだろうか。 あの角を曲がれば、マンションが見える。 ひらひらと舞う雪に苦笑して、しっかりと荷物を持ち直した。 今夜は、湯豆腐にしよう。 そう決めた視線の先。 「あ!大迫先生!」 「!?」 「…良かった、会えて―…」 ほんのりと頬を桜色に染めた、さっき死ぬほど会いたいと願っていた彼女。 遠慮がちに差し出された、愛らしい包み。 「ほんとは、卒業したらって…思ってたんですけど…わ、わたし…ッ」 願いが叶う、特別な雪。 12月23日に降るそれは Imperial snow―… 12/23のプレゼントはテーブルの下の秘密基地の桜咲様からの小説です! ちょっと切なくて頑張るバンビの大迫×バンビ小説です〜* 彼女の願いがかなうといいなあと願いつつ…´`* 本日12/23、皆様の傍にImperial snowは舞い降りたでしょうか? 素敵なクリスマスイブイブをお過ごしください〜* top |