小児科病棟の広い談話室には、綺麗に輝く大きなクリスマスツリーと、サンタクロースやトナカイの縫いぐるみ等で可愛く、飾り付けがされていた。


毎日、病院の中で過ごしている子供達に少しでもクリスマスの雰囲気を楽しんでもらおうと、ボランティアサークルのメンバーと看護師の方と一緒に飾り付けをしたのは昨日の話。


クリスマス当日の今日。
昨年と同様サンタクロースの衣装に着替えた僕は、隣室で同じく着替えている彼女を待っていた。


本当は街のイルミネーションを観に行ったりと、それなりのクリスマスを彼女と一緒に過ごしたいとも思う。
でもボランティアサークルの活動で子供達を少しでも喜ばせたいと思った。その話を彼女にすると笑顔で頷いてくれた。
そんな優しい彼女が本当に好きだと改めて自覚をした。

そんな事を考えていると部屋の扉が開いた。


「…お待たせしました」

現れたのは真っ赤なサンタクロースの衣装に着替えた彼女だった。
男性用とは違い下はスカートで、それも丈が膝上と短く目のやり場に少し困る。


はばたき学園主催のクリスマスパーティーでよく着ていた彼女自身は、もう何の抵抗もないのか、そのスカート丈の短さが気にならないのが余計にたちが悪い。
あの時、彼女を狙う男子生徒は沢山いたのだから…。


「…先輩?…もしかして私、似合ってないですか…?」


沈黙を否定と捉えたのか寂し気な表情でこっちを見つめている彼女に、慌てて首を振った。


「そんなことないよ。よく似合ってる」

「…良かった」

彼女は安心したように優しく微笑んだ。

「…じゃあそろそろ行こうか。子供達が待ってる」

「はいっ」


白い大きな袋に入ったたくさんのプレゼントを抱えて、子供達が待つ部屋へと向かった。




「いつも皆が良い子にしてるから、サンタさんが来てくれましたー」


看護師の方の言葉に僕達は部屋へと入ると、一斉に子供達が駆け寄って来た。


「…メリークリスマス。今からお兄さんのサンタさんが皆にプレゼント配るから、並んでね」


彼女がそう言うと子供達は嬉しそうに笑った。


「…はい、メリークリスマス」

「ありがとう!!」


並んだ子供達ひとりずつにプレゼントを渡すと、子供達が笑顔になる。
早速プレゼントの包みを開ける子、友達とプレゼントを見せ合う子、大切そうにプレゼントを抱き抱える子。
子供達の顔が幸せそうな笑顔で染まる。
彼女もそんな子供達を穏やかな表情で見つめていた。


「みんなプレゼントを貰ったかなー?」

「「「はーいっ!!」」」


一通りプレゼントを配り終わり、彼女がそう言うと子供達は元気良く返事をした。


「……まだ、ゆきちゃんがプレゼントを貰ってないよ?」

「え?」


その子の言葉に振り返ると、部屋の隅で俯いて泣いている女の子がいた。
慌ててプレゼントを入れていた袋を覗くけれど、中身は空でプレゼントは残っていなかった。


「…何度も数を確認したのに…。僕の責任だ…」


僕の小さな呟きに周りに居た看護師の方達は慌て始めた。


「…紺野君のせいじゃないわ。私達もよく確認してなかったし」

「…でも、どうします?」


看護師の方が相談を始め、一瞬前まで楽しく明るい雰囲気だった部屋が、女の子の泣き声と大人達の動揺で雰囲気が暗くなってしまった。


「店、まだ開いてるので僕、今から買ってきます!!」


この雰囲気を一刻も早くどうにかしたくて僕は慌てて立ち上がり、部屋を飛び出そうとした瞬間、女の子の泣き声がピタッと止んだ。


「ゆきちゃん。はい、ゆきちゃんにはお姉ちゃんから特別にプレゼントあげるね♪」

「…ふぇ…?」


振り返ると彼女が泣いている女の子に丁寧に包まれたプレゼントを渡していた。


「……あ、ケーキだ!!」

「うん。お姉ちゃん特製のクリスマスケーキだよ?ゆきちゃんはケーキ好き?」

「大好き!!」


泣いていた女の子は笑顔になり、貰ったケーキを嬉しそうに見つめていた。


「…ゆきちゃんにもちゃんとサンタさんからプレゼント届くよ?だからこのケーキ食べて良い子で待ってようね?」

「はーいっ」


彼女の言葉に女の子は頷くと、ケーキを抱えて嬉しそうに自分の部屋へと戻っていった。
そして部屋の雰囲気は元の明るい雰囲気に戻り、また子供達の笑顔でいっぱいになった。


チラっと彼女に視線を向けると、彼女は笑顔で頷いた。





サークル活動を終えたその日の帰り道。彼女と並んでいつもの道を歩いていた。


「…さっきはありがとう。プレゼントのことで頭がいっぱいで、子供達への配慮が足りなかった。一瞬でも泣かせてしまったかと思うと…情けないな」

「そんなことないです。紺野先輩は子供達のこと大事に思ってます。…あのあとすぐにプレゼント買いに行ったじゃないですか。子供達のことを考えてない人が、こんなに雪が降るなか息まで切らして買いに行ったりしません」


彼女の言葉に胸の奥がきゅっとなった。
彼女の優しさに救われ、愛おしさが込み上げてくる。


「…でも、ごめんなさい」

「…?」


彼女の突然の謝罪の言葉に首を傾げる。


「あの子に渡したプレゼント…本当は紺野先輩に渡したくて作ったケーキなんです…。だから先輩へのクリスマスプレゼント…ぁの…ぇと…」


彼女は俯いたまま言葉を探していたけれど、何が言いたいのか理解した僕は彼女の左手をぎゅっと握った。


「…いいよ。キミが傍に居てくれるだけで嬉しいから」


これは僕の本音だ。
プレゼントが無くたって彼女が傍で笑ってくれるだけで幸せになれる。


「…でも…」


まだ納得できない彼女を安心させたくて大丈夫だよと想いを込めて彼女を見つめた。
そしてチラチラと降る雪を見上げるように夜空へと視線を向ける。


「…先輩っ」

「…ん?………っ……!!?」


不意に呼ばれたかと思うと、繋がれた手を引かれ唇に温かな感触を感じた。
それが彼女の唇だと自覚した瞬間、それはすぐに離れていった。


「…わ、私からの…クリスマス…プレゼント…で、す…」


照れているのか彼女の耳と頬は紅く染まり、言葉の最後は聞き取れない程に小さくなっていった。


彼女は本当に僕を幸せにしてくれる。


「…クスッ…。ありがとう」



僕は彼女を抱き寄せると、耳元でそっと囁いた。




今年のクリスマスは僕にとって、今までいちばん幸せな日になった。





(written by:梓)

12/22のプレゼントは梓様からの小説です!

紺野×バンビです! 紺野×バンビです! 大切な事なので二度言いました!
個人的に「…何度も数を確認したのに…。僕の責任だ…」の台詞が完全に千葉ボイスで再生されて焦りました!



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