―いつの間にこんなに空が高くなってたんだ。


足を止め、空を見上げてもそこには暗闇が広がるだけ。
でも、空が高くなってることは不思議と分かる。

家々からこぼれる団らんやテレビの音が聞こえる夏とは違って、冬には音がない。

辺りはしんと静まり返り、それが逆に耳にうるさくて。
そのうるさい程の静寂の中にいると、まるで世界から俺一人だけここに取り残されたような気になってくる。


―そんなはずはない。


もう少し先に進めば見える、暖かな光がもれる家を思い浮かべ、言い聞かせるように頭を強く振る。


早く、あの暖かな光のもとへ。
美奈子が待ってるあの暖かな、俺がいるべき場所へ帰るんだ。

緩めに巻いていたマフラーをきつく結び直し、すっかり冷たくなった空気を頬に感じながら、家路を急ぐ。





冬は嫌い。
あの日のことを思い出すから。
一人ぼっちってことを、嫌というほど思い知らされるから。


当たり前のように与えられてた温もりや愛情は、その日一瞬にして消えた。


両親を失った日のことは、どんなに消そうとしても脳裏に焼き付いて、記憶から簡単には消えてくれない。

でも、失った人たちの記憶はずっと憶えていたいと思っていたって、角砂糖が紅茶に溶けていくように、少しずつゆっくりと消えていく。


―愛してくれた人、愛した人の記憶はいずれ消えて無くなってしまうのか?

―愛というものは、それほどまでに脆く儚いものなのか?

―じゃあ、この世で一番大事な美奈子を失ってしまったとしても、いずれそうなるのか?


そうであるとしたら。

苦しい。
悲しい。

怖い。


愛を感じた瞬間の幸せな気持ち、美奈子を思ったこの気持ちすら消えてしまうのだとしたら。


耐えられない。


どうせ消えるものならば、俺の存在自体消してやる。





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