>> 謎解きは朝食の後で




――僕の妻がこんなにやらしい訳がない。


「ふぁ、た、まおさ、……やらぁ」

 既に呂律が回らないような恍惚とした表情で抵抗する彼女を見やり、はあと息を吐いた。薄暗い寝室、間接灯のぼんやりとした灯りの下に彼女のやわい肌が見える。しっとりと汗ばんだそれに手の平を添わせると驚くほど馴染んだ。

「はは、もう訳わかんなくなってるのかい?」
「や、だって、……!」

 否定の言葉を紡ぐ前に、その唇に食らいつく。新婚当時からすると随分と慣れたようだが、蹂躙される舌を懸命に受け入れ必死に息をする、そのいじらしい姿に余計加虐心が増した。歯列をなぞり体温を交わす傍ら、はだけた襟元からのぞく双丘に長い指を添わせる。
 毎夜のように抱き続けた成果だろうか、以前より気持ち大きくなったそれを手の平で押しつぶすように揉んでやると、彼女の口から小さな悲鳴が漏れ、薄く色づいた突起が立ち上がるのが分かった。待つことなく親指と人差し指でその根元を摘む。

「やあっ、あっ……」

 くりくりと指先をつねり、もう一方の乳首には唇を吸いつけてやる。同じく尖ったそれは固く、ちゅ、と音を立てると彼女は恥ずかしそうに身をよじった。そのまま静かに残されたボタンを一つ、また一つと外していくに連れ、白く平たい腹が紺野の眼前に晒されていく。

「ほら、腰浮かせて」

 言われるまま背中に力を込めると、僅かに空いた隙間を縫うようにして紺野の手が寝間着と下着とを全て引きずり下ろした。膝のあたりに残されたそれに心もとなく感じながらも愛撫は続く。いつしかその大きな体の下に組み敷かれ、柔らかい髪が鎖骨をくすぐるように、懸命に乳頭を食む。その一方で既に充分濡れそぼったそこに、中指が差し入れられた。何度入れられても慣れない異物感。痛みは無いが温度の違うそれに腰を浮かせると、追いこむように二本目が肉芽を割った。

「……っ、ふぁあ、」

 柔らかくぷりぷりとした内壁が紺野の指をきゅうと締め付ける。その心地よさに喉を鳴らしながら、下半身に集まり始めた熱を自覚し、上体を起こした。
 全身のあらゆるところを撫でられ揉みしだかれた彼女の息は荒く、薄暗がりの中でも匂い立つような色気を醸し出していた。高校生の頃の彼女からは想像できない痴態と――僕の手によって。

「――おいしい?」
「……、」

 すん、と悲しげな吐息だけが聞こえ、熱っぽい視線が責めるように僕を見上げてくる。少し意地悪しすぎたようだ。

「……ごめん」

 その顔が可愛くて思わず笑いそうになるのをなんとか堪える。そして膝下に残っていたそれらから足を抜かせ、彼女の背中に片腕をまわして抱き寄せた。しがみつくような仕草に満足しつつ、未だナカに残っている指をするりと抜いてやる。二本の指は下の口から溢れた唾液まみれになっており、その濡れた指で内腿の付け根を押さえる。

「力、抜けるかな」

 既にくぱと口を開けている秘部の下側に親指をあてる。くちゅ、と襞をめくるように押し開くと、半身を浮かせ反り立つ自身をあてがった。先走りを垂れ流す先端が見慣れた様子で飲みこまれていき、あっという間に最初の突っかかりまで食いつかれていた。続けざまに腰を滑らせるようにしてその熱い怒張を押し込む。

「ひゃっ、あっ、やああっ」
「ん、……はあっ」

 自身が処女を破いたそこは相変わらず暖かく、熱くそぼる紺野のそれをむちりと包み込んだ。ゆっくりと馴染んでいく体温に快感を覚えながら、静かに抽送を繰り返す。抜こうとするたび背筋にぞくぞくとした波が走り、突き入れるごとに何とも言えない柔らかさと扱かれる感触、潤滑油を伴う猥雑な水音が零れおちた。

「はあっ、はっ、ああっ……!」

 知らず紺野の腰が早まり、ギシギシとベッドが悲鳴を上げる。それに巻き込まれるように組み敷かれた彼女の小さい体も激しく揺さぶられた。囁くような彼女の泣き声もそのままに、ただ一心に腰を突き動かす。意外と広い肩幅が不規則に上下し、悲痛にも聞こえる紺野の声が寝室を支配した。
 やがて紺野に抱え込まれていた彼女の体が僅かに震え、足の先からぷつんと力が抜けた。だが彼はピストンを緩めるどころか、弛緩した足を抱え上げると更に激しく腰を震わせた。前後に、時折左右に揺さぶり奥深く味わうように。

「――っ」

 もう一度、と言わんばかりに腰を引いた刹那、びゅぶ、と結合部から白い濁液がこぼれ出た。勢いよく飛び出たそれは波打つシーツや彼女の腹、太ももを汚していき、紺野は滴の零れるそれを再度彼女の奥に押し込んだ。そのまましばらく荒い息を繰り返していたかと思うと、先に気を失ってしまった彼女を抱き寄せ、その目元にキスを落とす。
 やがてゆっくりと間接灯の明度が落ちていき、静かな寝息だけが残されていった。



「それじゃ、いってくるよ」
「はい、いってらっしゃい」

 翌朝、昨夜の疲れを微塵も感じさせない穏やかな笑顔で出勤していく紺野を見送ると、彼女は一人溜息をついた。
 結婚して三カ月。長い交際期間の合間も体は重ねていたが、結婚してからはほぼ毎日だ。紺野とそういう事をするのは嫌いではなく、むしろ好きな方ではあるが、体力も違えば体格の差もあり、このままでは体の方が根を上げてしまう。

(途中でもう何がなんだか分かんなくなっちゃうし……)

 早々にイかされた昨日の情事を思い出し、赤面する。大体紺野が規格外なのだ。外見は穏やかな好青年然としているのに、どうしたものか行為となると途端に意地悪に見える。そこで再び昨夜の彼を鮮明に思い出してしまい、ぶんぶんと頭を振った。邪念を払うかのように掃除掃除、と寝室のクローゼットを勢いよく開く。その時、カランと軽い音が床を弾いた。

「えっ、な、何っ」

 何か壊してしまったのかと慌てて音のした方に視線を落とす。そこにあったのは取れた取っ手でもなければ紺野のネクタイでもない。
 ピンク色のプラスチック。手の平に収まるほどのそれは円柱状で、その先端だけが少し丸く膨らんでいた。そして手首に伸びる同じくピンク色のコードとリモコン。その大きさは違えど形状には見覚えがある。間違いない。これは。

(ちょっと小さいマッサージ器……じゃなくて、お、大人の、おもちゃとかいう、あれで、は……!)

 思わず持っていても良いのかという気分になり、あたふたと手の中で躍らせてしまう。そして当然のように辿りつく思考。

(い、いいいったい、誰の……!)

 当然自分ではない。となればこの家に住むのは二人だけなのだから、紺野が買ってきたことになる。だが今までこうした玩具を使った事はないし、何故こんなところに隠すように置いていたのかも気になる。使おうと買ってきたのか。だがあの真面目な紺野がわざわざ買ってくる姿など想像出来ない。
 だとしたら一体これは、誰が、何のために。


「ただいまー」
「あ、お、おかえりなさい!」

 結局一日ずっとその事ばかりを考えてしまい、気付いた時には紺野が心配そうな顔で台所を覗きこんでいた。慌てて仕込みと調理を始めるも、やはり朝方見つけたアレが頭から離れない。今は再びクローゼットの奥深くにしまいこんでいるが、位置が変わったことに気付かれているのではないだろうかと今も心臓がうるさく音を立てていた。
 二人で食卓を囲んでいる時も彼女は明らかに不審だった。紺野の視線から目をそらすように顔を背けたり、おかわりと言った彼に背を向けて食器を受け取るという器用な芸当をこなしている。

「ど、どうしたんだい……」
「な、何でもないんです、ほんとに」

 驚いたように目を丸くする紺野を残し、早々に食器を片づけ始めてしまう。そんな彼女の後を追うように紺野が食器を流し台に運んだ時、丁度お風呂の完了合図が聞こえた。

「た、玉緒さん、お風呂どうぞ!」
「えっ、ああ、……ありがとう。じゃあそうさせて貰おうかな」

 挙動不審な自分に気付かれたくなくて、つい急かすように返事をしてしまう。そんな彼女の様子に完全に気付いている紺野は、洗われた皿を隣で拭きながら何か考えていたかと思うと小さく笑いながら零した。

「……一緒に入るかい?」
「……えっ、ええええっ、あの、そういうのはっ……!」
「……ははっ、ごめん。冗談だよ」

 よほど彼女の顔が面白かったのか、紺野は笑いを隠すように口元を握った手で隠した。冗談か本気か分からないその言葉に彼女は更に動揺していたが、どうやら本当に冗談だったらしく皿洗いを終えた紺野は一人浴室へと入って行った。
 一人残されたリビングでテレビを聞き流しながら、改めてあの玩具について考える。紺野に聞いていいものだろうか。だが隠していた以上触れない方がいいものかも知れないし――もしも、もしもだ。

(よそで、使うとか、ないよね……)

 紺野の愛情を疑う訳ではないが、何分交際期間の長かった二人だ。何も奉仕することも出来ず、ただされるがままの彼女より、そういうお店のお姉さんの方がいいかも、しれない、し。
 考えながら段々と気分が落ち込んでいくのが分かる。聞きたいけれど、聞けない。好きだからこそ、怖い。

「上がったよー次、……ってどうかした?」
「な、なんでもないです!」

 気付けば風呂上がりの紺野が、ほくほくと湯気を纏いながら彼女を覗きこんでいた。浴室のドアが開く音にすら耳に入っていなかったらしい。慌てて風呂場に飛び込む彼女の背中を静かに見つめると、紺野はその濡れた髪をタオルで拭きながら、はあ、とソファに座りこんでいた。

 そしていつもの夜。互いの髪を乾かし合った後、一緒の寝室に入る。いつもなら電気を消そうか寝ようかうんぬんの騒動を二人で繰り広げるのだが、今日に限って紺野は、ベッド脇に置かれた机に向かってしまい、なかなか寝ようとしなかった。本を広げるその姿を伺いながら、おずおずと口にする。

「玉緒さん、寝ないの……?」
「ああ、ちょっと読みたい本があってね。先に寝ていいよ」

 おやすみ、とあの穏やかな笑顔で言われてしまい、仕方なく一人布団に丸くなる。だがやはりクイーンサイズのベッドは広く、気のせいか肌寒い。更には紺野が隠していたあれがどうしても思い出されてしまう。

(やっぱり、私じゃ、だめなのかな)

 いつもいつも紺野のしてくれる事に甘えて、何もしなかったから。だからこっそりあんな玩具を買って、もしかしたら、他に――。
 鼻の奥がつんとなる。暗がりだけの視界が歪み、シーツにパタパタと斑点が落ちた。どうしたらいいんだろう。もっと喜ばせられればいいんだろうか。でもどうやって。
 目を瞑ると飽和量を越えた涙が目の端から零れおちる。それを必死に拭っていると、とん、と背中を叩く手があった。

「……?」 

 おずおずと毛布から顔を出す。すると本を読んでいたはずの紺野が、困ったような顔で彼女を見下ろしていた。

「……どうしたんだい」
「……」
「何かあったの? 僕で良かったら、言って――」

 ごらん、と続ける間もなく彼女は泣きながら紺野の腕の中に倒れ込んでいた。



「――忘年会の、景品?」
「ああ……すっかり忘れてたよ」

 まだ潤んだ目の彼女をなだめるように、後ろから抱きしめる。

「先輩が当たったらしいんだけど押しつけられてね。さすがに捨てるにもはばかられるし、どうしようと思って隠してたんだ」

 そう言いながら更に奥から取り出した袋の中には「大人の粗品」と書かれた華やかな箱が入っており、中には怪しげなDVDや何やら液体らしきものもある。どうやら本当に紺野が買ったものと言う訳ではなさそうだ。

「で、君はどうして泣いてたの?」
「……実は」

 事が分かれば早いもので、昼間に見つけてびっくりしたこと、誰か他に良い人がいるのかもと疑ってしまったこと、と素直に話していく。そんな彼女の様子を見ながら、紺野は彼女を抱きしめたままただ静かに耳を傾けていた。
 そして全てを白状し、ごめんなさいと俯いたところで彼女の頭をよしよしと撫でた。

「ちゃんと言わなかった僕も悪かった。ごめん」
「そんな、こと……」
「何だか君に言いづらくて、……でもそれが逆に不安にさせてたんだな」

 本当は、言おうかとも思った。やましい出所のものでもないし、彼女もそれくらいの知識はあるだろう。だが、紺野をただの優しい夫とみている彼女に要らぬ不安を与えたくなかった。
 大きな手の平に撫でられるのは心地よく、ようやく落ちついたのか腕の中の彼女はふやりといつもの様に笑った。その顔に安堵しながら紺野は抱きしめていた体を解放する。

「玉緒、さん?」
「疲れただろ。今日はゆっくり寝るといいよ」

 読みたい本、なんてのは建前だ。帰ってからどうにも様子のおかしい彼女が気になって、自らの行動を反省した。結果として彼女の抱えていた不安は分かったわけだが、それを除いても最近の自分は少々やり過ぎな気がする。 
 ぽんぽん、と彼女を寝かしつけるように頭を撫でてやり、ゆっくりと寝台を離れようとする。だがそのパジャマの裾がくいと引っ張られた。視線を落とすと彼女の小さな手が、紺野の傍をしっかりと掴んでいる。

「……どうし――」
「したい、です」

 それは、初めて彼女から求めた言葉だったかもしれない。

「玉緒さんと、したい、です」



 ぼんやりと陰る室内で、紺野はベッドの端に腰かけていた。上は明るい緑のパジャマを着たままだが、下は膝下まで降ろされている。その腿の間に顔を埋めている彼女と同様、少し不安げな面持ちで何度目かになる溜息をついた。

「本当に、無理しなくていいんだけど……」
「が、頑張ります、……!」

 紺野に甘えてばかりだった自分。なら今度は私からしてあげられる事を見つけたい。彼にも気持ち良くなって貰いたい。
 普段は体の陰に隠れてよく見えないそれに指を添える。少しだけ硬くなったペニスは熱く脈打ち、それだけが別の生き物のようだった。聞きかじった知識で恐る恐る先端を舐めてみる。

「……ふぅっ……!」

 紺野が息を飲むのが分かった。その敏感な反応が嬉しくて、今度は先端全てを咥えてみる。ぬるぬるとした丸みと苦味を感じながら舌を伸ばす。雁首のくびれをなぞるとこれもまた面白いようにうめき声が頭上で漏れた。
 そのまま首を傾け長い竿部分に口づける。既に角度は先程より屹立しており、食むように裏筋から上に、それが終わると下に顔を埋める。感じたことのない刺激に困惑しているのか、知らず紺野の手が彼女の頭に添えられたのが分かった。

(感じて、くれてる……?)

 時折漏れる紺野の声が新鮮で、更に下生えのところまで舌を伸ばす。ちるちるとした赤く柔らかい舌が陰毛と睾丸の辺りを啜る様に、思わず紺野の腰が浮いた。後頭部に添えられた指先にも力がこもる。

「も、もう、その位で……いいから……ね?」

 拙い技巧ながらその光景は目からも紺野を刺激する。だが彼女は普段見られない紺野の懇願に気を良くしたのか、舌を止めることなく逆にその手を彼の内腿に添えた。
 足を開かせるようにして再び全体を口に含む。歯を立てないようにするのは疲れたが、舌の上をどくどくとしたペニスが滑る感触がたまらなかった。懸命に舌を上下させ、べたべたとした粘液を舐める。

「はぁっ、あ、……ふあっ……ああっ……!」

 泣き声の様に絞り出される紺野の吐息に、思わず顔を見上げる。すると普段の冷静さはどこかにいったのか、頬を真っ赤にしては短く呼気を吐き出す必死な表情が見て取れた。苦しそうで、艶やかで、全身から色気が立ち上るような、これが男性の――欲情した、顔なのだろうか。
 紺野自身も限界が近いらしく、彼女の頭から耳へ、顎へとその長い指が行き場を求めてさ迷う。やがてあ、と糸の切れるような声が聞こえたかと思うと、喉の奥に苦い匂いが張り付いた。

「ぁ、は、……あ、ご、ごめ……!」

 荒い息を繰り返しながら、慌てて彼女の口をそれから放させる。唾液の残る剛直は少しだけ射精したものの、相変わらず隆々とした角度を保っていた。普段ならこのまま紺野に任せて、と思っていただろう。だが今の彼女は自分にも出来る事がある、と少し恍惚としていたのかもしれない。
 ゆっくりと立ち上がり、思わず体を引いた紺野を捉えるように両手を着く。腕の中で逃げられないように体を寄せ、そのまま背中を伸ばしてキスをした。度重なる攻勢に押されていた紺野は何が何だか分からぬままそれを受け、くちゅ、と舌を交わす。そのままベッドの中央にじりじりと移動すると、彼女は紺野のパジャマのボタンに手をかけた。

「ちょ、ちょっ……!」

 全て外された後、紺野の露わになった胸板に口づける。固く尖った二つの突起を舐めてやると、こくりと喉仏に音が落ちた。何だかいつもの仕返しをしているかのようで、ちょっと楽しい。

「玉緒さん、きもちい、です、か……?」
「は、……う、ん…… ……ッ」

 自身も胸元をくつろげ、ぎゅうと抱きつくようにしてわざと胸を押しつけてやる。既にぷくりと膨れ上がった乳首が紺野のそれをかすめ、自身にもぞくりとした快感が走った。そのまま彼の腰に手を下ろし、静かに紺野の体を跨ぐ。人差し指でパジャマと下着を引き下ろし、ぱくりと口を開いた性器を露わにさせると、その手の一方を紺野の怒張に添えた。
 ここまで来て流石に彼女が何をしようとしているのか分かったのか、紺野はなんとか逃れようとする。だがそれよりも先にペニスの割れ目に柔肉が吸いついた。

「あ、……くっ……!」

 ひっくり返した食用油がとろりと元の位置に戻るかのように、天を穿つそれが次第に内壁に覆われていく。めちゅ、とどちらから溢れたか分からない愛液がペニス全体を滴り落ち、むちむちとした窮屈なそこに完全に飲みこまれてしまった。
 それだけでも充分な刺激なのに、彼女は更に一旦腰を浮かして再びおずおずと降りてくる。抜く時は早いのに入れる時ゆっくりなので、慣れていないのは明らかだが、そのじっとりとした緩急がまた言いようのない吐精感ばかりを煽る。

「たまおさん、たま、お……さぁ、ん」
「あっ、ああっ、は……ああッ……!」

 顎を上向かせ、必死に射精を抑えようとする。だが、ふと頭を上げると赤黒い自身を飲みこむ二枚の襞と白い太ももと腹。そしてたゆんと赤い突起をチラつかせる二つの乳房が目からも刺激を促す。
 もう無駄な抵抗はしない方がいい、と思ったのだろうか。ずっと彼女の良いようにされていた紺野が、馬乗りになる彼女の腰を掴んだ。そして半分ほど食いつかれていた秘部同士を一気に結合させる。

「――あ、やぁっ!」

 突然の反撃に驚いたのか、彼女は思わず腰を浮かせた。だが紺野は腰を浮かせなおも彼女の入り口を穿つ。必死に抜こうと膝立ちするも、腰を押さえつけられ続けざまに押し込まれ、抜く暇がない。ひたすら奥に奥にと血管の張り出したそれが襲いかかってくる。
 やあ、ああ、と股間の突き上げが増すごとに彼女の上体も大きく揺れ、ついには体を支えきれなくなったのか彼の体に添うように倒れ込んだ。その脇の下を紺野の腕が通り、背中に手をあてがう。もう一方は彼女の尻を押さえこんだまま、二人重なり合う体勢でベッドを不規則に軋ませた。

「あっ、や、ああっ、ああ、あああっ!」
「はあっ、……はあっ……気持ち、いい……かい?」
「は、……い、あ、……ひゃぅあっ…」

 刹那、二人の体がふるりと震えた。どうやら僅かな差で達したらしく、しばらくそのまま波が収まるのを待つ。やがて紺野がゆっくりと座りこむように体を起こし、彼女をその上に座らせた。

「満足した?」
「は、……はい……」
「よし。じゃあ今度は僕の番だ」

 え、と聞き直す暇もなく、繋がったままだったそこに人差し指の腹が触れる。つ、と走った刺激だけで先程達した体は反応してしまい、思わず声が漏れた。先程充分吐きだしたはずの肉棒も再び硬さを見せており、紺野はゆっくりと顔を彼女の胸にうずめた。
 汗の残る谷間に舌を這わせ、胸を下から掴みあげるとやや乱暴に揉みしだき、頬に触れる感触を味わう。逃れようとする彼女の手が紺野の肩に乗るが、強く引き寄せられ逃げる事が出来ない。挙句再びいきり立った乳頭をねぶられ、親指の腹で何度も何度もくりくりと擦られた。

「ん、ぁ、たまおさ、だめ、おねがい……!」
「んむ、……む、」

 ちゅぽ、と水音を立ててようやく先端への刺激から解放される。だが繋がったそこは完全に硬さを取り戻しており、わずかに揺すられた腰だけで過敏に反応してしまう。胸に置かれていた手がするりと腰に降り、体を持ち上げられたかと思うと、突き上げるのと同時に紺野の腰に押し下げられた。ぐちゅん、ぐちょ、と彼女の胎内に残った紺野の残滓が下の口から溢れ、なおも反り立つペニスに滴り落ちる。
 重心を失った彼女は紺野に縋りつくように倒れこんだまま。紺野の広い胸板にすがりつき、腰を捉えて幾度も繰り返される突き上げに耐えていた。その時だ。

「……っ、はあ、……?」

 カラ、と紺野の肘に当たった何かが転がるのが分かった。汗だくのまま視線を落とす。それは奇しくも彼女との誤解を生んだそもそもの原因、ピンク色をした玩具だった。
 しばらく考え、手を伸ばす。細身のそれを指先で確かめていた紺野だったが、何を思ったのか彼女との結合部のすぐ後ろに先端を向けた。無機質な丸みを挿入しているのとは別のそこにあてがう。

「……た、たまおさ、後ろの、何……?」
「ああ、うん。……せっかくだから、使ってみようかなって思ってさ」
「使うっ、て……ッ……!」

 にゅる、と冷たいそれが後口を割り開いたのが分かった。膣口とは違い異物感を伴うそこに、つるつるとした表面のそれが侵入し、圧迫される。

「やッ、やだッ、玉緒さんおねがい、抜いて、ぬいておねがい……!」

 必死の懇願も意味をなさず、気付けば玩具の半分ほどが突き刺さった状態になっていた。嫌でも締め付けてしまうそこが、異物を吐きだそうとするたび紺野がぐいと押しこんでくるのだ。同時に下からは本物の紺野自身。圧倒的な熱量の肉棒を咥えながら、そのすぐ後ろで自由に動く小手先が右に左に固い先端をかき回してくる。

「あっ、あっ……もうや、もう嫌あ……!」
「す、ごい……狭くなるんだな……」

 片方が偽物とはいえ二本分の質量を咥えた彼女の中は狭く、知らず紺野の興奮も高まる。当の彼女は下からも斜め下からも不規則に襲ってくる突き上げに耐えきれないのか、既に体の反応に任せるだけになっていた。まるで紺野二人から挟まれて犯されているかのような感覚。
 紺野が突き上げるとぶるんと胸を揺らして体を弾ませ、続けざまにバイブを手でかき回してやるといやいや、と彼の体に縋りつく。壮絶な光景だった。時折ひゃう、はう、と悲鳴のような泣き声だけが限界を訴えており、紺野もまた自身の限界を悟ったのか、最後の追いこみとばかりにベッドのスプリングを利用して腰を天に向けて穿った。

「……っ、……く、……はぁ、いい、……」
「……! ……ッ!」

 尻の下のシーツは既に水分でぐしょぐしょによれており、今もなお、ちゅ、と飛沫が飛ぶ。そして紺野は玩具から手を放し、その先にあるコードとリモコンを手探りで辿った。次の瞬間、カチ、と硬質な音と同時に細やかな振動音が匂い立つ寝室に響いた。突如お尻の合間で暴れたそれに、性感帯が一気に刺激される。

「――!」

 瞬間、彼女の体は強張り、ぐたりと紺野にもたれかかった。その間も玩具は胎内でヴィム、ヴィム、と非情な音を立てており、時を待たずして紺野の最後の精子が零れた。ゆっくりと彼女の腰をまさぐるように自身の腰を回し、丹念に注ぎ込む。やがて後孔に押し込んでいたそれを指先でつまむように抜き去ると、ベッドの端に放り投げた。
 ヴィー、と寂しげに震えていたそれもカチリという音の後、ただのプラスチックの塊へと戻る。そして、二人分の静かな寝息が、熱さの抜けきれない寝室に落ち始めていた。




 翌朝。二人並んだ朝食の席で、不自然な沈黙が続いていた。

「えーと、その…… ごめん」
「わ、私も恥ずかしかったから、いいです……」

 紺野のために何かしたいと思ったのは確かだが、朝起きて自分の痴態を思い出すだけでどうにかなりそうだ。どうやら紺野もやりすぎたと思っていたらしく、申し訳なさそうに卵焼きを口に運んでいた。

「で、でも、玉緒さんがあれを買った訳じゃないって分かって良かったです」
「……そのことなんだけど」

 言いにくそうな紺野の表情。

「あの、あれは、……大人の粗品に入っていたやつじゃなかった、みたいで」
「…… え?」

 彼女より先に目が覚めた紺野は道具を戻そうと袋を開けたらしいのだが、よくよく考えてみると大人の粗品に入っていたのはDVDとローションだけだったらしい。
 なるほど確かに一緒の袋に入っていたが、玩具だけ剥き出しで、他の粗品だけが箱に入っていたままというのはおかしな話である。

「じゃ、じゃあ、何でこれ……」
「多分、僕が、買ったんじゃないかと……」

 何のためにですか! と顔を真っ赤にして問いかける。だがそんな彼女の照れを物ともせず、無自覚ドSは笑顔で答えた。

「そりゃあもちろん、君に――」
「玉緒さんのばかー!」

 恥ずかしさが限界突破した彼女は、逃げるように食器を持って台所へと逃げ帰ってしまった。その後ろ姿をきょとんと見送ると、紺野は静かに味噌汁を飲み終える。

「――ごちそうさまでした」

 そしてゆっくりと立ち上がると、彼女の消えた台所へと自身の食器を運びに行ったのだった。(了)



2018.7.3(執筆2012.01.15)

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玉緒本にゲスト参加した時の作品です。

うちの職場の忘年会には大抵景品に大人の福袋があってこういったあれこれが入っていたんですが、これって割と普通なのかしら

 

 

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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