>> アクマで彼女でキミ下剋上



 僕の物語が始まったあの日、喫茶店で出会った女の子。見た目の可愛らしさに追する様なその自由さや気ままさに振り回された僕は、自分でも面白いように彼女に魅かれていった。そしてあの卒業式の日。

「私も、蓮見君が好きだよ」
「それは、その、召使い的な意味? それとも恋人的な意味、で……?」

 当然後者だと思っていた。――が、彼女はその美しい顔をほころばせながら、こう言い切ったのだ。

「もちろん、――召使い的な意味で」

 



「ごめんね、遅くなっちゃった」
「全然構わないよ! むしろ君に何かあったんじゃないかって不安で」
「そ? じゃあ早く行こうよ」

 命じられるままアクセルを踏み込む。静かに走り出すそれから、彼女はいつものように外に視線を投げた。

 まさかの召使い任命告白から二年。
 大学二年生になった彼女からの「迎えに来て」メールに迅速に応えるべく、蓮見は彼女の指定する場所まで毎度車を回していた。自分の方が時間に自由が効くというのもあるし、夜遅い時などは呼んでくれた方が安心する。だが、何度も何度も呼ばれているうち、なんだか本当に自分が召使いになったかのように思えてしまうのだ。

(それが嫌って訳じゃないんだけど……)

 ちらりと助手席に視線を向ける。綺麗に整えられた髪に素の肌の綺麗さを残した化粧。自然な桜色の唇に半袖からすらりと伸びる細い腕。
 高校生の時より一層魅力を増した彼女は可憐から妖艶に進化を遂げており、言い寄る男はあの頃よりずっと増えた。もちろん蓮見という存在がいるのだと、うちの女王様はばっさりと断ってくれるらしいのだが、その冷たさがまた良いとリベンジにくる男も多いらしい。そして難点がもう一つ。

「あの、さ。さっき校門のところにいたのって……」
「うん。付き合って下さいって」
「つ、つき…!? も、もちろん断ったんだよね!?」

 サイドガラスに映った大きな目がすうっと眇められ、微笑みを浮かべる。

「――ひみつ」
「……そ、そう……はは、そっか、秘密か……」

 蓮見を翻弄させるのが好きなのだろうか。彼女は度々こうして嘘ぶくことがあった。
 最初のうちは本気で焦って話を聞いていたが、最近ではからかわれているだけだと分かり、必死に感情を抑えている。罪深い、でも離れることを許さないお姫様。自分の告白に召使いだと答えたのは、あながち間違いではなかったのかも知れない。

「ねえ蓮見君、のど乾いちゃった」
「えっ、ああ、ごめん、どこか寄ろうか?」
「ええー……」

 我儘なお姫様はむうと眉根を寄せ、すぐにぱあっと笑った。

「じゃあ蓮見君の部屋が良いな」
「ぼぼ僕の部屋って今から!?」
「うん。だめ?」

 じっと見つめられる視線を感じて、慌てて意識を運転に集中させる。だめだ。今彼女を見てしまったら間違いなく従ってしまう。だめだ。だめだ。

「……構わないよ」

 だめだった。



 慣れた様子で彼女は部屋に入り、疲れたーとそのままベッドに飛び込んだ。
 高校卒業後、一人暮らしを始めたワンルームのマンションは、広くはないが蓮見自身とても気に入っている。結局顔を見る間もなく負けた自分の弱さにがくりと肩を落としつつ、冷たい飲み物を運ぶ。初夏にさしかかった六月。じわりと上がる気温のためか、室内も熱さを増していた。
 
「あつーい!」
「ご、ごめん、すぐ冷房入れるから…… …?」

 慌ててリモコンを探す。だがその時間を待つことなく、彼女は試す様な視線を蓮見に向けた。長い睫毛の下に欲が生まれ、無邪気な彼女のもつ明確な悪意が明らかになる。これは、悪魔の誘い文句だ。

「暑いの。……脱がせて」

 手を止め、顔を上げる。蒸し暑い室内。蓮見がいつも寝ているベッドの上で、彼女は楽しそうに口角を上げた。ミニスカートからすらりと伸びた足をぶらつかせ、それを察した蓮見ははあと溜息を落としてその前に跪く。 
 分かっている。召使いは主に逆らえない。
 長い指を伸ばし、オーバーニーソックスのふちを撫でる。指先に力を込めるとする、と少しずつ下にずらし始めた。みるみる彼女の白い肌が露わになり、柔らかな曲線としとりとした質感が眼前にさらけ出される。やがてふくらはぎから足首、くるぶしにと黒い布が丸まり、小さな足先が蓮見に向かって投げだされた。
 剥き出しになった足を高く組む。ともすればその奥に、見てはならないものが見えてしまう、そのことに気取られぬよう蓮見は必死に視線を床に落としていたが、白い足先がちょいちょいと動いたかと思うと、次の命令が下された。

「キスして」
「……」

 足首に手を添え、その甲に唇を落とす。
 従順な騎士のそれのように、蓮見が従うのを見て彼女は更に微笑んだ。
 キスされた足をすいと上げると、蓮見の眼前にそれを晒すように軽く足を開く。なおも目をそらそうとする彼の前で、太ももに被さるスカートをずらし、クロッチ部分の横に指を添えた。誘い込むようにゆっくりとそこを広げると、半分ほど割れ目を見せながら甘く呟く。

「ここにも」
「だ、だめだって、ほら、まだ明るいし、こういうのはもう少し遅くなってからの方が、その、」
「キスして」

 有無を言わさぬ優しい命令に、知らずこくりと喉が鳴る。こうなってしまった彼女に逆らうことは出来ないと、導かれるまま蓮見は秘部に舌を伸ばした。
 初めは恐る恐る。赤い舌先を伸ばして下の方にちょんと触れると上の方もぴくりと反応した。僅かに差し込んだその状態のまま、じゅる、と上に舐め上げるように舌をずらす。ん、と短く呻いた声が頭上で聞こえ、気分を良くした蓮見は左手を伸ばすと下着を広げていたその手ごと包むように、ぐいと腿の付け根に手を置いた。親指を伸ばし、限界まで広げる。

「……ん、はぁ」

 くちゃくちゃとわざと唾液の音をさせながら、噛みつくように秘裂を食む。綺麗なピンク色をしたその場所は柔らかい肉が中にのぞき、より奥に奥にとうごめく舌を受け入れていた。気付けば彼女の手が蓮見の頭に添えられており、軽く髪を撫でられる。その行為がご褒美か何かのように思えて、彼は一層クリトリスにむしゃぶりついた。皮をむき、やわく舐め上げる。それが終わると膣内を蹂躙し、上に下にと体温より熱い舌が蠢く感触に、蓮見に触れる彼女の手に知らず力が込められ始めた。
 髪を撫で、耳、頬。熱い室内で彼女の手だけが冷たくて、蓮見を確かめるかのようになぞる。その光景にまた興奮し、舌だけと言われていたそこに、右手を伸ばし人差し指の腹をねめつけてやる。

「……あっ、ゆび……」

 じゅりじゅりと優しくなぞると、面白いように彼女の腰が震えるのが分かった。更にもう一本指を増やし、丹念に円を描く。陰毛がべたべたとしたもので濡れ、蓮見の指と手を汚していく。柔く揉みあげるように何度も何度も刺激し、ようやく指を離す。人差し指と中指を開くと、ちゃ、と吸い付くような感触を残した。
 自らの指から視線を上げる。真っ赤に充血した秘部に、服の下に隠された小さく上下する腹、形の良い胸、そして息も絶え絶えな様子で目を潤ませている彼女の顔。もしや口淫だけで達したのだろうかと、思わず嬉しくなる――と同時に、男性の本能とも言える欲に火がついた。支配欲。征服欲。

「……? 蓮見くん、…?」

 突然動きを止めた蓮見に声をかける。だが、次の瞬間彼から無理やりに口づけられた。先程まで彼女の愛液を食んでいたそこが押しあてられ、舌が押し込まれる。
 生温かさと苦しさにパニックになり、思わず体を引く。挙句バランスを崩すかの様に二人してベッドに投げだされた、それを見計らうかのように蓮見は咥内の蹂躙をやめると、彼女を組み敷いたまま見下ろす。その目は冷たく、従者のそれではない。

「な、蓮見君、何を……」
「自由で、気ままで、残酷で、僕の心を離さないお姫様。君にとって……僕は本当にただの召使いかもしれない」
「……蓮見君?」

 彼女に対する気持ちは変わらない。だが、度々彼女が蓮見を試すかのようにつく嘘。我儘な命令に、傲慢なお願い。全て叶えて上げたいと思うのも本当だが、同時に不安になる。
 自分は彼女にとって何なのだろう。恋人か、それとも本当に召使いなのか。

「でも、これだけは知ってて? ――召使いも、ただの男だってこと」

 突然の従者の下剋上に、彼女の意識は一瞬にして警戒に変わった。だが同時にベルトをはずす金属音がし、逃げだそうとした彼女の足首を掴んだ。あ、と身を捩り、うつ伏せのままなおもベッドから降りようとする。
 しかし蓮見はそれを許さず、足を押さえているのと反対の手を伸ばすと、めくれ上がったスカートの中に差し入れた。ふるりとした双丘を覆う下着のふちに指をかけると、するんと果物の皮を剥くような手際でお尻を剥きださせた。そのまま下に引っ張ったかと思うと、膝裏までずり下ろされてしまう。

「やっ、やめてよ! こんな、ことして…!」
「先に誘ったのは君だろう?」

 真っ赤になって抵抗する彼女をよそに、手首を返し、下側からお尻を揉むように掴む。途端にびくりと彼女の体が震え、そのまま中指を先程丹念に舐め上げた場所に押し入れた。
 汗をかきしとりと潤った尻を撫でながら、その指先はくいくいと入口をいじめる。その不思議な感触に、彼女の腰は面白いように跳ね、くねる。

「あっ、…ああっ、…… ヤだ…ッ!」
「どうせそれも嘘なんだろ? だってほら……こんなに熱くて、一生懸命僕の指を食べてる」
「ッあ……!」

 彼女の足を跨ぐように体重をかける。だらしなく開かれた太ももの間に体を置き、ちらちらと赤く腫れたそこが見え隠れするその場所に、屹立した先端を当てた。彼女もそれが何か察したらしく、必死に上体を起こして這い出すかのように逃げ出そうとしていたが、蓮見から腰を掴まれ逆に誘い込むような体勢になってしまった。
 ベッドに腰を埋めるように一旦体を屈め、下から彼女のそこに挿入する。彼女の腰の高さが低いので入りにくいのか、何度も前後しては入口に我慢汁を擦りつけていた。

「……あ、あれ…結構難しいな……」

 独り言が彼女に聞こえていなかったのが幸いと言うべきか。何とか亀頭が収まりこむのを確認し、まずは半分ほどを滑り込ませる。夢にまでみた彼女のナカは想像以上に熱く、柔らかく、っちゃ、という厭らしい音が蓮見の興奮を煽った。たまらず残りも、と腰を進めると、彼女が苦しげに腰を高く上げた。

「やっ、やあっ、やああああっ…!」
「ご、ごめん、でも、僕も、我慢できない、かも…!」
 
 彼女が腰を上げたことでより挿入が深くなる。肉棒の先端から竿までを、膣内のぷりぷりとした肉が包み込んでは不規則なリズムで締め付けてくる。このままではすぐにイってしまう、と慌てて腰を引くが、そのずるりとした感触までが心地よく背骨に響いた。
 膨張しきった自身が彼女の尻の割れ目から見え、それに吸い付くようなひだもちらちらと見え隠れする。その先には、頭を枕に押し付けて必死に快楽から身を守る彼女の顔と、優雅な曲線を描く背中。当に下着が無くなったというのに、律儀にひらひらと華やかさを散らすミニスカートだけが揺れていた。
 そこには、先程まで自由奔放に蓮見に命令を下していた女王の姿はなく、ただ男の肉棒を咥えいやらしく腰を振るただの淫魔と化した彼女だけがいた。
 背徳感に、ぞくりと戦慄する。あの綺麗な彼女を。気まぐれで、小悪魔の様に残酷なお姫様を、汚れた自分が食いつくしている感覚。彼女が小悪魔だと言うのなら、それを壊している自分は、一体何なのだろうか。恋人。召使い。それとも――悪魔。

 無言のまま再びそれを突き入れる。ずりんと膣内を熱いものが走り、その快感に彼女は声を堪えてシーツを掴む。全部を押しこんだ後、ナカを拡張するかの様に腰を右に、左にゆっくりと動かす。その度くちゃ、くちゃあ、と粘質な音がし、くびれた先端が強く締め付けられた。

「……く、ツ、……はあ、きもちい……」
「……ん、ぅん……!」

 冷房を入れ損ねた室内は暑く、二人とも汗だくだ。蓮見の額から零れた汗が彼女の服に染みを作り、彼女もまた額に玉のような汗、太ももと尻にもじっとりと汗ばむような湿度をたたえていた。その感触を楽しむかのように蓮見の腰はなおも接近し、左右に揺らすように奥へ奥へと蹂躙する。それが終わると今度は軽く前後に抜き差しを始め、その度に彼女の体もがくがくと揺さぶられた。
 まだ日の高い昼。電気も付けていない薄暗い室内で、二人分の呼吸だけが加速する。シーツは汗でぐちゃぐちゃになり、二人の髪からも滴が零れていた。どろどろに、溶けていく錯覚。
 
「あ、……はあ、ああ、あ、も、もうダメ、出る…!」
「――ッ!」

 刹那、濃く粘度の高いそれが胎内に吐きだされたのが分かった。一度吐き出したかと思えば、次いで二度、三度お腹の下の方が暖かくなるのが分かる。蓮見は吐精しながら限界まで彼女の中に突き入れていたが、やがて全てを吐き出すとそれを抜く間もなくずるりと倒れ込み、静かに意識を手放した。



「馬鹿!」
「ご、ごめん、ほんとに……」

 次に目を覚ました時、悪魔はただの召使いに戻っていた。

「やだって言ったのに、中に出すし、なんか意地悪だし」
「だからごめんって! ほら、あのなんていうか、出来心って言うか、君に嫌な思いをさせるつもりは無かったって言うか」

 ダメだ。全然ダメだ。支離滅裂だ。意味が分からない。
 目が覚めて直後、土下座する勢いでベッドから降りて星座した蓮見に対し、彼女はベッドの端に座ったまま彼を見下ろしていた。その顔はむうと膨れており、絶対嫌われた、と自己嫌悪で肩を落とす蓮見に、再び女王様から意外な命が下った。

「じゃあ、……キスして」
「……え?」

 聞き間違いかと顔を上げる。見れば照れたようにそっぽをむく彼女が、人差し指を自身の唇に当てていた。

「早く。聞こえなかった?」
「え!? あ、いや……」

 恐る恐る膝をつき、下からすくい上げるようにキスをする。ゆっくり離れたそれに満足したのか、彼女は嬉しそうに笑った。

「うん、……許してあげる」
「……ハハ」

 我儘で、尊大で、小悪魔な彼女。これからもこの小悪魔にいいように振り回されていくのだろう、と自らの絶望的で、魅力的な未来を想像し、蓮見もまた全身の力が抜けたかのように笑い返した。


 (了) 2018.06.04(執筆2013.05.23)

以前発行したオフ本「オールオール。」に掲載していた蓮見君話です。

意識してタッチしないとゲームだと大抵小悪魔バンビになるのは何でですかね

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