いつからだったんだろう。コウを見つめるお前の顔が、とても可愛く見え始めたのは
「コウが好きなんだろ?」
茜色に染まった教室で、その問いに小さくうなずいたお前の姿を覚えている。そっか、と小さく呟いて必死に目を眇めてみせた。お前に笑ってみえるように。濡れそうな目を髪で隠すように。
「頑張って、俺、応援してるから」
声は震えていなかったかな。ちゃんと笑って見えたかな。
俺のその言葉にお前は安心したように微笑み、その顔を見た瞬間俺が言ったことは間違いなかったんだと思った――その時は。
それから、コウがお前を家に誘ったり、二人で遊びに行ったりしているのを知った。あの素直じゃないコウが一人の女の子を大切にするなんて、普通なら冷やかしでもいれながら応援していただろう。コウはいいやつだ。幸せになってほしい。
でも、どうして、よりにもよってその女の子が――お前なんだ?
他の誰でも構わない、どうしてお前がコウの幸せのひとつになったんだ?
なんで、コウの幸せが、俺の唯一の幸せと同じなんだ?
「あ、お邪魔してます」
中二階の俺の部屋に上がろうとした時、聞き慣れた声が降ってきて思わず顔を上げた。
「いらっしゃい、あれ、コウは?」
「バイトでちょっと遅くなるって」
制服姿のまま階段を登り、コウの部屋に顔を覗かせる。相変わらずヴィンテージのコレクションが棚に並び、その中央のベッド兼ソファに彼女が座ってこちらに笑いかけていた。こうしてみると、彼女までコウのコレクションの一つのように見えてしまい、しん、と冷たい感情が腹に落ちる。
「今日はどうしたの?」
「コウくんが聞かせたいレコード手に入れたからって、……でもちょっと早く来すぎちゃった」
ふふ、と笑うお前を見てまた心が痛んだ。
間違いなく彼女は恋をしている。でもその目が追いかけているのは、俺じゃなくコウだ。
顔を見ただけでどうして分かるのか、なんて聞くだけ愚問だ。何故なら、俺がまさに今お前に恋しているのだから。
暇になったのか、彼女はコウのコレクションを眺めては興味深げに頷いていた。一体何に頷いているんだろう、と吹き出しそうになるのを堪え彼女の傍に歩み寄る。何の警戒もしていない、小さく華奢な背中。
(……呼びかけたら振り向いてくれるのかな)
思わず名前を呼ぶ。案の定、彼女はくるりと振り向いてその大きな目をこちらに向けた。何の疑いも、恐れもない、――幼なじみを見る目。
俺の方を向いて。コウじゃなくて、俺を見て。
幼なじみのルカじゃなく、男としての琉夏を見てよ。
「――好きだよ」
積もりつもったどす黒い気持ちが、たった四文字になって口をつく。
「私も琉夏くん好きだよ!」
だが彼女にその真意は伝わらず、満面の笑みが返ってくる。その仕草は愛おしくて、あまりに――残酷だった。思わずその腕を伸ばし彼女を引き寄せると、胸ほどまでしかない頭がすぽりと琉夏の胸に収まった。
「――そういう好きじゃない」
「琉夏くんどうし、……んッ」
顎を掴み上向かせ、屈み込むようにして唇を落とす。慌てて半開きになったその隙間に舌を差し入れ、くちゅと熱を味わう。しばらく堪能していると、苦しくなったのか腕と胸を叩かれたが、お構いなしに顔の角度を変え更に深く押し入る。
「――ふ、……は」
抵抗が弱くなったのでやばい、とゆっくり舌を抜く。見れば顔を赤く上気させ、唇は二人の唾液でてらてらと光ってみえた。ああ、可愛い。
「――好き。……俺じゃ、だめ?」
一度は諦めようと思った。でもそう思えば思うほど、欲しい気持ちが強くなった。
コウは俺にない物をたくさん持っていて、周りにいつも人が集まる。それなのに俺には――何もない。
「……ごめんね」
小さい頃、おもちゃの取り合いで喧嘩になった時はいつも最後は俺に譲ってくれた。でも彼女は物言わぬおもちゃではない。
「コウくんが、好きなの」
――ああ、やっぱり、俺は何も持ってなかったんだ。
途端に冷静になり、背後から彼女のワイシャツに手を差し入れる。驚き身を捩らすのに合わせて上着とリボンを取ると、そのままうつ伏せに押し倒すようにコウのベッドへなだれ込んだ。無理やりシャツの前を開き、胸を覆う固い生地に手をかける。
「――ル、カくんやめ…!」
「ねえ、俺を見て」
どれだけ囁いたところで彼女が振り向いてくれることはない、と滑稽な自分の姿に笑いつつ、下着を無理やり引き下げる。柔らかく形の良い乳房が弾け、その先に上向くような乳首が見えた。うつ伏せになった彼女の脇から両腕を差し入れ、そのもにゅりとした感触を両の手のひらで味わうかのようにこね回す。
「や、……やあッ!」
「すっごいたゆんたゆんだね、これ」
上体を起こし逃れようとする彼女を逃すまいと、背中に覆い被さるようにのしかかる。その首筋にキスを落としつつ、ベッドと胸に挟まれた手にこりこりとした刺激が転がるのを覚え、更に押しつぶすようにゆさりと円を描く。この柔らかさに押しつぶされてる感がたまらない。
「んッ、や、」
「コウはあまりこういうのしないのかな?」
答えを待たずに一方の手はうつ伏せる胸に敷かれたまま、もう一方の手をスカートのホックへとのばす。カシ、と音を立てたそれはベッドの脇へぱさりと放られ、ショーツと靴下だけになった下半身にも琉夏の重みがずしりとかかった。太股の裏で前後するズボン越しの熱いものが何かと考えるのも恐ろしいのか、彼女の体が硬くなったのが分かる。
「コウと俺、どっちがきもちいい?」
するりと長い指が下着の中に入り込み、ためらいなく中心の花芽を探る。人差し指の腹でそのすじをなぞるように撫で、親指と中指を支えのように開くとその中央に寄せ、人差し指の第一関節までを埋める。
その時、面白いほど彼女の体が琉夏の下で跳ねた。その反応を見て、もしやと耳元で低く呟いてみる。
「もしかしてまだ、コウとはしてないの?」
答えはなかった。それを答えと受け取ったのか、琉夏は更に指を奥に奥にと押し込む。くちゅくちゅとした淫靡な水音をわざと立て、ついでもう一本指を増やす。
「い、……やぁあ」
「あれ、濡れてるね……俺コウじゃないのに」
乱暴に内壁を擦ると粘液をまとわりつかせた指を抜き、秘裂のふちに塗り付ける。そのまま下着の後ろに指をかけ、自身の体を浮かせると臀部に沿うように指をつつ、と引き下ろした。双丘の谷間に白く長い指がするりと触れ、びくりとする彼女の体が怯える。その様子を楽しみながら太股の中程まで下着を丸めるようにずらした。
「そういえばこのベッド、いつもコウが寝てるんだっけ」
カチャリと金属のこすれる音が聞こえ、かすかな衣擦れの後、強烈な熱量と奇妙な弾力感を持ったそれが彼女の閉じた太股の裏側にぺとりと触れる。少しだけ体を横に浮かすと、うつ伏せたままの彼女の腰を引き上げ、さきほど散々弄んだ割れ目へとその凶悪な肉棒を突き入れた。
「――ひ、あ…!」
「コウの匂い、する? ……コウにやられているみたい?」
最初は固く、ぐち、と手で支えながらゆっくりと膣内を進む。胸を楽しんでいた手も一旦彼女の腰に添えられ、腰を高く上げた彼女に覆い被さるように腰を進める。
彼女は何も言わず、ひたすら涙を流しながらコウの匂いがする枕に顔をうずめていた。無理もない。信頼していた幼なじみから犯され、しかもそれが好きな人のベッドの上。
きっとこのベッドでは、もっと幸せな初めてが待っていたはずだった。しかしそれも、俺が奪った。俺のものにした。
「コウの、代わりでもいいから――コウだと思っていいから、だから」
いまだけ俺を見て、と掠れた小さな声がこぼれ、再び律動が開始される。逃げようとする彼女の腰を掴み、奥深く突きすすめてはぐりぐりと揺する。そのたび彼の腰と彼女の白い尻とが触れ合いそれがまた琉夏の興奮を煽った。
そり立つそれをぐちゅにちゅとかき回すと、たまらず結合部から濃い白液が垂れる。それが彼女の太股を伝いコウのベッドを濃く変色させていく様子に、何故か心が躍った。
限界が近いのを察し、彼女の背に胸板を寄せるように再び体重をかける。声にならない鳴き声と、幾筋も流れた涙の跡を覆い隠すように、自身の長身の下に彼女の小さい体を背後から覆い敷く。
ほんのり上気した胸の下にそれぞれ手を差し入れ、互い違いに弄んでは時折起立した先端の突起を、親指と人差し指でつまみ出してやるようにきゅっと捻る。その刺激にびくりとなるたび、今度は繋がったままの腰を下から上に突き上げてやる。ゆさゆさと時にがくがくと揺さぶられ、短い悲鳴が上がったかと思うと、きゅうっとペニスが締め付けられた。
たまらず彼女を抉るようにピストン運動を繰り返し、合わせて胸をわし掴む。そのまま、最奥をぐりゅと突くと、自身の先から何かが放出された開放感に満たされる。彼女にそそぎ込むように二三突き立て、琉夏は倒れ込むように彼女を掻き抱いた。
気を失ってしまった彼女との結合を解くと、ごぼと白濁液が溢れた。それがベッドを汚す様子を見、自虐的に笑う。
(ごめんな、)
やっぱり俺には何もなかった。
唯一欲しかったものは、あの幼い日からずっとコウのものだった。
髪の奥からのぞく目を細める。と、そこで気を失っているはずの彼女が、琉夏の手を掴んでいることに気づいた。
思わずすくい上げ、その甲に触れるだけの口づけを落とす。
「……コウ、く、ん」
無意識の中、コウの匂いだけで呼んだのだろうか。
美しい金の髪の下で、ただ一筋、誰も知らない雨がこぼれた。
(了) 2010.07.21
脳内えなりが一晩でやってくれました