>> 嫉妬、sit、振り返れ



 冬の日が落ちるのは早い。



「おおっやっぱりこの季節は冷えるな!」


 さぶさぶ、と手袋とマフラー、コートの完全装備をした大迫は一人家路を急いでいた。職員会議が長引き、学校を出た頃にはもうすっかり暗くなっている状態だ。ぐす、と赤くなった鼻をすすり、やや早足で急ぐ。
 しばらくして見えた自宅のマンション。その部屋を見上げると、明かりがぼんやりと点いている事に気付き、知らず口角が上がった。嬉しそうに笑うと軽快にマンションの階段を上がっていく。

「悪い、遅くなったな!」

 ガチャン、とドアを閉め慌ただしく靴を脱ぐ。部屋の中からはほくほくとした暖かい匂いが漂っており、その台所の方から彼女が顔を覗かせた。

「先生、おかえりなさい!」
「おうっただいま!」

 スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを抜き取る。手洗いとうがいを済ませてリビングに向かうと、彼女が丁度出来あがった鍋を運んでくるところだった。

「おっ今日は鍋かー! いいぞ、大好きだぁ!」
「しかもカニも入ってます!」

 二人用の鍋がテーブル上のガスコンロの上に置かれ、見下ろす中に赤くゆで上がった甲殻類がぐつぐつと良い匂いを漂わせていた。向かい合って座るといただきます、と二人とも手を合わせ、奉行不在の鍋へと挑み始めた。
 出汁のよく取れた鍋は冷え込んだ今日のような日にはありがたく、大迫は嬉しそうに箸を進める。

「うまいぞ、やっぱりお前の料理は最高だぁ!」

 その笑顔に彼女も嬉しくなったのか、えへへと照れたように笑った。


 
 生徒だった彼女がこうして家に訪れるようになり、半同棲状態になってからもう一年ほど経つ。在学中はあくまでも教師と生徒という間柄で、努力する彼女を見守り続けていた。だが、そうしているうちに大迫の気持ちに知らず変化が起こり、それが好意であると自覚するのにそう時間はかからなかった。
 そして卒業式の日、彼女自身の言葉によってそれを認めさせられた。
 全身で大迫を好きだと言ってくれた彼女に、彼自身も覚悟を決めたのだ。教師と生徒ではなく、一人の女性としての彼女に自身の青春を捧げようと。



 食事を終え、片づけをする彼女をよそに、リビングでテレビを見る。流行りのお笑い芸人が次々と登場し、効果音の機械的な笑い声だけが響くのを見ながら、缶ビールを傾けた。やがて洗い物を終えた彼女もこちらへ来、テーブルの左辺、大迫の斜め前に座る。

「あ、お笑いジャイアントやってる」

 嬉しそうに視線を向け、二人してテレビを見る。部屋の中はほどよく暖房がきいており、日中の喧騒から離れた穏やかな時間がなにより心地よかった。
 言葉にせずとも分かるその安心感に大迫が安堵していると、ついと服の裾を掴む彼女の手。

「どうしたぁ?」
「……えへへ」

 きょとんとする大迫をよそに、彼女がこちらに体を寄せたかと思うと、ぽんぽんと膝を立てるように促す。そして彼の袖をとるとすぽんとその腕の中に入ってきた。ちょうど足を広げた三角座りの間に、彼女の小さい体がすっぽり収まっている感じだ。

「こぉら、先生を座椅子代わりに使うなぁ」
「はーい」

 彼女にしては珍しい甘えぶりに、苦笑しながら曲げた両膝の上に腕を伸ばす。彼女もまた少し恥ずかしがっているのか、身を小さく縮こまらせながらも時折後ろを向いては笑った。
 結局大迫が彼女を抱え込むその座り方のまま、気付けば番組は柔道の世界選手権中継にシフトしていた。

「あ、嵐くん」

 馴染みのある名前につられて画面を見る。なるほど教え子でもあり、柔道部のエースだった不二山嵐が映っており、今まさに戦いに挑むところだった。青い胴着を見る限り、進学後日本代表に選ばれた噂は本当だったらしい。

「おおっほんとだな! すごいぞ、不二山ぁ!」
「ですよね! わー……この前候補って言ってたのに、やっぱり選ばれたんだ……良かったあ」
「うん?」
「この前久しぶりに会って、その時は選考合宿中って言ってたんです。ああー嬉しいなあ……」
「……そうだな、俺も嬉しいぞぉ!」

 言いながら彼女は尚も画面に映った不二山を見てはその試合運びに一喜一憂する。だが腕の中にいる彼女を見、大迫は自分の心がうすらと陰ったのを感じていた。それを誤魔化すよう、更に手にしていたビールをあおる。

(嬉しい、だよなあ……)

 自分の教え子がこうして成長したのは確かに嬉しい。だが、彼女が嬉しそうに名前を呼んだり、会ったことを報告する姿を見るとぎしりと胸が痛んだ。
 だがそんな大迫の様子に気付くでもなく、彼女は技あり先取した不二山の姿を見てははしゃいでいる。

「先生、先生、みて!」
「おおっ先取したかぁ!」
「嵐くん、頑張って!」

 また胸が軋む。
 知らず彼女の胴体に手を回し、少しだけ力を入れた。小さな体。こんなに近くにいるのに、彼女は相変わらずテレビの不二山に夢中だ。
 こっちを向いてくれ。不二山じゃなくて、俺の方を。

「やったー! 嵐くん有効と、……先生?」
「……あんまり、呼ぶなぁ」

 背中にもたれかかってきた大迫の様子に彼女もようやく気付く。

「……先生?」

 返事の代わりに、体に回された腕が力を帯びる。ぐいと引き寄せられ、その肩口に強い口づけが降りてきた。

「せ、せんせ、あの……!」
「どうして不二山は名前なのに、俺は先生なんだぁ……」
「え、えええ、」

 頭がぐるぐるして、思わず零してしまう。
 確かに柔道部の顧問であった彼女が不二山を名前で呼ぶのも、親しげにするのも分かる。だが、どうして自分は先生で、不二山は名前なのか。俺だって名前で呼んでほしいと思ったりするんだぁ!
 むーと小さいうめき声が続き、大迫が更に彼女を抱きしめる。その子どもっぽい仕草に苦笑しながら、彼の方を振り返った。

「先生、もしかして酔ってます?」
「酔ってないぞぉ! 酔って……」

 霞がかった思考を必死に巡らせるが、はっきりとしない。ただ無性に悲しくなる。そんな大迫の様子を見越したのか、彼女はくるりと腕の中で向きを変え、下からそっと唇を寄せた。

「ん……」

 僅かに開いたその隙間から、舌を差し入れる。彼女の背中に手を添えると、たどたどしく噛みつくようなキスに答えてくれた。背後ではアナウンサーが不二山選手の勝利を高らかに宣言していたが、それに紛れるよう淫靡な水音だけが落ちる。
 息継ぎのため、ぷは、と苦しげに彼女が離れたのを契機に、セーターの下に手を這わせる。暖かい空気に包まれたそこには滑らかな肌があり、背中を撫でるように指をずらすと、面白いほど身をすくませた。

「せんせ、あの……」

 ようやく我に返ったのか、やんわりと困惑する彼女を残し、ブラのホックをはずす。あ、と零れた声を聞きながら彼女の脇の下に手を差し入れ、膝立ちさせるように立たせた。当然不安定な姿勢になり、見上げる大迫の首に彼女の腕が回される形になる。

「や、せんせ、ん…! や、」

 その向かい合った体勢のまま、服の下で手探りに胸を探る。大迫の指は長く、その親指の腹が乳首をなぞるたび、硬く屹立していくのが分かった。彼もその反応が分かっているのか、何度もこりこりと刺激してくる。
 耐えきれず、なだれ込むように大迫に体を寄せる。すると再び息苦しく口づけされた。それに合わせて今度はおっぱい全体を鷲づかむように揺すり、顔を真っ赤にした彼女は必死に懇願する。

「大迫、せんせ、もう、……」
「……まだまだだぁ!」

 いつしか大迫に縋るよう、肩に手を伸ばす彼女の胸が服越しに大迫の胸板に触れた。互いの布越しでもどかしいが、その柔らかさと未だ差し込まれたままの手のおかげで、押しつけられる重圧感を感じる。
 頬を赤くし、はあと必死に息をする彼女を一瞥し、今度は履いていたジーンズの前に指を伸ばした。

「だめ、だめで、……あ、ああっ」

 ジジ、とファスナーの降りる音が刻まれ、白いレースが僅かに覗いた。彼女の背中を捉えて逃がさぬようにすると、その左手を隙間に伸ばす。繊細な飾りを指先でめくり、腹側を彼女の方に向けじくりと差し入れる。既に湿っている陰毛をかき分けると、他より一層熱いその場所が口を開いた。

「どうした? 濡れてるなぁ」
「ゆわ、ないで…っ」

 完全に脱力し大迫にもたれかかる彼女を、しっかりと抱き支え更に指を進める。十二分に濡れそぼったそこをなぞると、柔肉が誘い込むように蠢いた。たまらずぐいと指を突きいれると、それにつられるよう彼女の腰がびくんと浮いた。ずるりと大迫の胸に顔を押し付けると、必死に下腹部への攻撃を耐えようとしている。
 その顔がどうにも可愛くて、入れた中指をくの字に折り曲げてやる。そこから内壁をぐるりとなぞり、もう一本指を増やした。

「ん…!、う、……!」

 胸に縋りつくその姿に、大迫は自身の屹立を自覚した。だが尚も指先だけでの愛撫を続ける。二本目人差し指は少し長さを変えた位置に置き、すくいあげるように前後させる。気付けばずり落ちたジーンズがふとももの下まで降りており、下着の下、クロッチ部分に大迫の手が見えた。
 ほど良かったはずの暖房が今では熱く、二人とも全身から湯気が立つのではないかというほど熱を帯びていた。その独特の熱気に浮かされながら、大迫は何度も膣の入り口を擦り上げる。
「も、もう、や、……んっ…」

 ぬちゅ、とやわい水音が聞こえ始め、大迫は喉を鳴らす。彼女の腰がびくびくとひくつき始め、シャツを掴んでくる手に力が込められる。もう限界か、と見えたその時、あれだけいじめていた指が止まった。

「……せんせ…?」

 急に待たされるその感覚に、きゅうと大迫のシャツを強く掴む。

「……コラぁ、先生じゃないっていってるだろぉ」
「そん、なぁ……」

 言うなり何も干渉してこなくなった大迫を見、彼女は頬を赤く染めながら眉を寄せた。下腹部は既に奥がひきつるように刺激を求めており、このままイかずにいるのはあまりにもつらい。おねだりをするように自ら指を求めて腰を動かしてみるも、浅い部分での挿入を繰り返すばかりで余計に体が焦れた。
 涙目で大迫を見上げる。精悍な顔立ちはそのままだが、相当酔っているのか。普段の明るさの奥にどこか大人の意地悪さが見える。

「……ら、さん」
「声が小さいぞぉ!」
「ちからさん、……お願い、…!」

 根負けした彼女が名前を呼んだのを合図に、大迫は耳元で小さく「いい子だ」と囁くとその柔らかい内壁を大きく撫でた。その色気のある声と急な快感に動揺し、一瞬で膣が収縮する。頭の奥が白くなり、ぷつんと糸が切れたような様子に、彼女が達したのが分かった。
 それを見越していたかのように、大迫はべとべとになった指を抜き、自らのジーンズの前をくつろげた。灰色のボクサーパンツをずらすと、既に固くそそり立ったペニスがずるんと現れる。

「苦しかったら、すぐに言うんだぞ」

 大迫が下になり彼女が縋りつく体勢のまま、彼女の腰を支え、もう一方でその膣口へと亀頭を合わせる。そして赤く荒らされた襞をめくるようにして先走りの滴る先端を埋めた。
 大迫が腰を浮かし、くびれのある箇所までじゅぽと詰め込む。そこまで飲みこんだのを確認すると、両手で彼女の腰を持った。

「ひあ、ああっ、あっ……!」

 大迫の肩に手をつき体を支える彼女。その腰を掴むとゆっくりと前後させるようにして降ろさせていく。同時に自身も腰を揺すり、膣と性器の隙間から押しだされる空気の音と、ぬちゃという愛液の音。そして二人の苦しそうな吐息だけが耳を支配する。

「……んっ、…そうだ、上手いぞぉ」
「あ、あっ、ちからさ、やめて、力さ……!」

 互いの性器がぴたりと入口まで触れあうのが分かると、今度は腰に置いていた手をお尻の下へと移動させた。ちょうど太ももとお尻との境目辺りにその長い指を広げ、わしづかむ。
 そのまま引き寄せるように彼女の体を揺さぶった。

「も、やだぁ、力さん、やぁ…!」

 下からの刺激に相まって、時折お尻側から伸びてきた指先が秘部を撫でてくる。そうして二三度したやると再び達したのか彼女の体がぐたりと弛緩した。大迫も自身の屹立の限界を察し、もたれかかってきた彼女の上体を受けとめながら、ぐりぐりと子宮の入り口まで突き入れてやる。

「っ……はぁ、……いいぞぉ、――」

 最後に彼女の名前を呼び、最奥で腰を大きくグラインドさせる。刹那ぎゅうと締まった柔肉の合間を満たすように、強い粘りのあるそれが逆流した。構わず更にかき回す。ぐぽごぽと白い液体が糸をひき、結合部から溢れたのを見て、大迫は彼女の体を全身で抱きしめた。

「……いつでも、受け止めてやる」










 翌日、少しだけ怒った様子の彼女と必死に謝罪する大迫の姿があった。

「すまん! 先生が悪かった!」
「……」

 どうやら大迫はかなり酔っていたらしく、起きて早々に彼女から怒られたらしい。

「……いじわるでした」
「すまん!」
「やめてって言ってもいっぱいしました」
「悪かった!」

 酔っていたとは言え記憶はちゃんと
残っており、大迫はただひたすらに謝罪し続けた。だが彼女が不二山を名前で呼んだことがそもそもの原因で、恋人の自分がまだ「先生」呼びなのは未だ少しだけ寂しい。

(まあ、すぐには無理だろうからなぁ)

 教師と生徒であった時間の方が長い彼女には、すぐ呼び名を変えさせることは難しいだろうと自分を納得させる。
 こっそりそんな事を思いながら反省していると、ようやく機嫌を直したのか彼女がふと笑顔をみせた。

「はい、もういいです」
「本当だな?」
「はい。だから朝ごはんにしましょう? ――力さん」

 おう、と答えた後、聞き慣れない単語に再び思考が止まる。

「……今、なんか言わなかっ」
「な、なんでもないです!」

 再び真っ赤になって台所に逃げてしまった彼女の背中を見送り、思わず口角が上がる。そして目の前に用意された朝食に向き合うと「いただきますっ」と嬉しそうに手を合わせた。



(了) 2011.12.24

どうでもいいですが我が家には鍋奉行がいないので常に法治外野戦紛争前線地帯と化します

すき焼きのマロニーはもはや敵拠点の勢いです

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