>> SSSSS


 ああ、イライラする。


「じゃあ、今度遊ぶときに借りていいですか?」
「うん、構わないよ」
「わ―ありがとうございます、お願いします!」

 目の前でほのぼのとした会話が交わされる中、設楽は一人蚊帳の外にいた。
 高校時代の友人である紺野と、卒業して後輩から恋人に変化した彼女と三人で久々に遊んだ帰りのことだ。


(お笑いなんて……何がいいんだ)

 どうやらあいつが好きなお笑いコンビのDVDを紺野が持っていたとかで、何故か次回会う時に借りるという話にまで発展したらしい。お笑いが嫌いな訳じゃないし、見るのも構わない。だが、――

(どうして紺野に頼む!?)

 俺に一言教えてくれれば全巻セットで取り寄せたものを! なんなら舞台公演に泊まりで連れていってやるというのに!
 自分の彼女の好きなものを知らなかったという情けなさ。だがそれ以上に紺野にお願いしたというこの状況が意味もなく腹立たしい。


「じゃあ僕はこれで」
「はい、また遊びましょう!」
「じゃあな」

 紺野が見えなくなってから、顔も向けず彼女の手を取りすたすたと歩き出す。

「わっ、し、設楽先輩?」
「いくぞ」
「い、行くって」
「俺の家」


 混乱したままの彼女をよそに家に到着した設楽は、使用人が次々と頭を下げるのも振り返らず自室へと急ぐ。扉を開け放り込むように部屋へ入れると、そのままソファに転がした。
 「!?」と感嘆符を浮かべた表情の彼女を前に、目を眇める。そして一言。




「今お前が欲しいものを言え」
「……はい?」

 奇妙な沈黙。

「だから、欲しいものを言えと言ってるんだ!」
「あの……意味がよく……」
「あるだろ!? あれが食べたいとか、どこに行きたいとか」
「ええと……じゃあ走ってきて喉が乾いたので水を一杯頂けると……」

 そうじゃない! と返しそうになるのをぐっと堪え、部屋にあった水差しをほらっと差し出す。それを受け取ると、ほわっと笑顔を浮かべて水を飲み始めた彼女を見て、ようやく少しだけ冷静の文字が顔を覗かせた。


「何でもいい。例えばほら、……さっき紺野に頼んでたやつとか」
「DVDですか? それなら紺野先輩が全巻揃えているそうですし、なんならレンタルもありますから!」
「じゃああれだ、ミラノ行きたいとか」
「パ、パスポートいるじゃないですか……それに大学あるから行けないですよ」
「ああもう、何かないのか!」
 

 こいつはいつもこうだ。
 俺に言えば何でも揃えてやるのに、何一つ欲しがろうとしない。遊びに行くのだって、プレゼントだって。過去に一度、俺が似合うと思ったパーティードレスを贈った時なんか「こんな高いの貰えません!」と電話で抗議が来た位だ。


 お願いされたい。
 あれが欲しい、これが欲しいとわがままを言われたい。紺野にしたように、俺にも何かを求めてほしい。

(……まあ、こいつの性格じゃ無理か)

 そんな所も好きなのだから仕方ない、と人知れず肩を落とす。今日の俺はどうかしている、と向かいのソファに座り込んだときだった。


「……じゃ、じゃあ、……手をぎゅってして下さい……」

 多分その時の俺の顔を紺野が見ていたとしたら、「有り得ないものを見たよ」とか言われただろう。小さく、しかしながら聞き慣れた彼女の声に、再び耳を傾ける。

「手、握って下さい……」

 何故か真っ赤になっている彼女につられ、設楽の顔も赤く染まる。しかし間にあったテーブルをどかし、身を乗り出すように手を伸ばすときゅ、と包み込んだ。相変わらずの小さい手。

「……こ、これでいいのか!?」
「は、はい!」

 しばらくの間その緊張感が続く。
 以前喫茶店で握った時は無意識だったが、今回は意識しているのもあり更に恥ずかしい。仕方なくその陶器のような手を握ったまま、その小ささを改めて確認する。

(……俺の手が大きいのか、こいつが小さいのか)

「あ、あの、もういいです、ありがとうございます…!」

 その言葉に慌てて手を離す。見れば先ほど以上に照れた彼女が、はにかむようにして微笑んでいた。

「もう、いいのか?」
「はい。その、……ありがとうございました」

 ああ、もう、こいつはずるい。
 付き合う前は帰り道にべたべたと触ってきて俺をいいだけ翻弄しておきながら、いざ何をしても構わない立場になった途端こんな可愛いお願いばかりしてくる。なんだこのお願い。小学生か。
 その時、ある一本の線がぷつりと音を立てて切れた気がした。





「そうか、じゃあ今度は――俺からもお願いしていいか?」

 離した手を再び掴み、ぐいと引き寄せる。ひゃっ、とバランスを崩した彼女の腰を引き寄せ、ソファに座る自身の上に向かい合わせに寄りかからせた。

「今から俺の言うとおりに『お願い』しろ」
「や、……お願い、ですか?」
「『キスして下さい、お願いします』……ほら、言ってみろ」

 不遜な表情で笑う設楽を見下ろし、困ったように眉を寄せ、わずかに唇を動かす。

「キ、キス、して下さい……お願いします」

 その言葉が終わるか否かの隙に、彼女の後頭部に手を添え下から口付ける。驚く彼女を逃がさないかのように、舌を差し入れ歯列をなぞる。くち、といやらしい音を立てさせ、苦しそうに唾液をこぼしたのを見ると、ようやく舌を解放し彼女の口の端を指の腹で拭いた。

「ん……は、ぁ」
「次はそうだな……『服を脱がせて下さい』か?」

 え、え、と彼女の困惑した声を聞きながら、手首を掴み自身の首に腕を回させる。上気した彼女の体を抱きしめながら、露わになった鎖骨に舌を沿わせる。

「や、…!」
「――『お願い』はどうしたんだ?」

 たまらず聞こえた彼女のお願いに気を良くしたのか、その要望通りシャツのボタンを外し、続けざまに前のホックを開く。白いシャツの下、形のよい膨らみがふるりとまろび出て、ピンク色の突起が左右にぴんと張っていた。身を捩る彼女の腰を引き寄せその谷間に顔をうずめると、ざり、と舌を這わせる。思わず逃れるように上体を反らすと、今度はその背に設楽の長い指が添えられ、ぐいと顔に押しつけるかのように引き寄せられた。
 たまらず首に回していた腕を戻し、設楽の頭を引き離すように抵抗するが、くるくるとした髪に触れられる彼女の指の感覚すら楽しんでいるようだ。

「も、や、…!」
「……いやなら『お願い』するんだな」
 嬉しそうに顔を上げる設楽を見つめ、意を決して呟く。

「先輩……もう、や、やめて…」

 これで解放される。そう思った、次の瞬間。

「ふっ、聞こえなーい……もう一度?」

 そんな、と反論する間もなく、白い双丘を下からすくいあげたかと思うと、乳首を押し出すかのようにくっと握り寄せた。当然その存在を主張する突起の一つをぱくりと口に含み、ちゅう、んく、んくと吸い上げる。

「ひゃ! や、ん、……せんぱいのうそつき…やっ」
「嘘つきって何だ。ちゃんと俺にお願いすればいいだけだろ」

 言いながら、膝を立て彼女の足の間に割り入れる。上体を支えていた手を腰に下ろして彼女を立たせると、下着越しに股の間を膝で前後する。
 くちゅ、とかすかな水音がし、膝の生地辺りが濡れたように変色しているのを確認すると、荒い息を吐く彼女を見上げ、目を細めた。

「どうするんだ?」
「な、何がですか、ん」
「『お願い』してみろ――俺に、どうしてほしいんだ?」

 反射的に否定の言葉が出そうになった刹那、延びてきた指がしとりと濡れた彼女の下着をずらし、今度は直にその割れ目を擦る。ひゃ、という高い鳴き声と共に更に設楽の服を汚した。べたべたと変色する膝を気にするでもなく、なおもぐちぐちと足を動かし刺激を加えてくる。
 たまらないその感触に、体は実に素直に反応し、思わず言葉が出そうになるのを必死に堪える。もっと奥に、もっと深くに、と頭を巡るが、ある一つの恥じらいが彼女の自制心を奮い立たせていた。
 しかしその様子を見て、設楽がまるで心を読んだのかのように続ける。

「――嫌いになんてならないから」
「せんぱ、い」
「お前に『お願い』されて、嫌なわけがないだろ」

 女の子の方から欲しがるなんて、と少しだけ心にあった。そんな私を先輩がどう思うかが不安でもあった。
 だが設楽のその言葉にとん、と心の枷が落ちる。気づけば彼女の言葉を待つように設楽もその動きを止め、下から見上げていた。

(――やっぱり先輩は優しい)

 無理やり進めることも出来るのに、彼女の気持ちが追いつくのを待っていてくれる。その優しさに少しでも――応えたい。

「……せんぱい」
「何だ?」
「せんぱいの、ほしいです」

 消え入るようなその言葉を聞き、設楽はしてやったりとばかりに口角をあげた。そして彼女の耳元に口を寄せ、ぼそりと呟く。

「聞こえないな――もう一度」
「――ッ!」

 前言撤回、やっぱり意地悪だ。
 ほら、と腰を浮かせて立たされたと思うと、先輩は前をくつろげそそり立つそれを取り出す。親指でクロッチ部分をずらすと肉棒の先をぬちゃ、とひだに触れさせた。

「俺の何が欲しいって?」

 触れている箇所が熱く、ぬるぬると滑る。その生ぬるさが堪えきれず、こちらも体を屈め彼の耳元に甘くこぼす。

「せんぱいの、おっきいの、ほしいです」
「欲しいじゃ分からないな」
「――ッ、おっきいので、ナカをぐちゃぐちゃしてください!」

 瞬間、ずりゅずりゅ、と粘質をもったそれが彼女の膣に入り込んだ。ひゃ、と逃げる間もなく腰を掴まれぐち、と隙間なく詰め込まれる。

「――じゃあ、逃げるなよ」

 勢い良く抜かれたかと思うと再び貫かれ、今度は下から突き上げるようにどちゅ、と愛液を散らす。腰が押さえつけられているので、深さも角度も設楽が求めるままに繰り返される。

「や、やあ、せんぱい、やああ!」
「うるさい、――ッ」

 腰の動きが収まると今度は、彼女自らの重みで彼のペニスを強く挟み込む形になってしまう。必死に腰を浮かすが、そうすると今度は逃すまいと、下からぐちゅんと突き上げられる。がくがくと揺すられる合間に胸への愛撫も再開され、設楽の柔らかく癖のある髪が胸と乳首に触れ、頭を押しつけるようにぐりぐりと甘えてくる。
 頭が真っ白になり、たまらずその頭を抱きしめると、熱い息が体の中心部にかかり、一層強いストロークが彼女を襲った。途端、ぶわりと下腹部が暖かくなり、結合部からそれがこぼれ落ちる。更にぐちゅ、と腰を動かす音と共に、急速な疲労感が彼女を襲った。








「――俺が悪かった」

 次に目が覚めたときは先輩のベッドに寝かされており、その脇の椅子にしょんぼり二割増になった設楽が頭を抱えていた。

「で、でもお前も悪い。お前が紺野と楽しそうにしてるから――」
「お笑いの、ですか?」

 押し黙ったところをみると正解だろう。体を起こし、手を伸ばす。

「先輩、『お願い』です」
「……?」
「キス、してください」

 そう言って手を取ると、先ほどまでの俺様状態はなんだったのかと思うほど身を堅くし、しばらく考え込んでいたかと思うと体を起こし、ベッドの彼女に軽く口付けた。
 きっとこれからそうやって、少しずつ少しずつ欲張りになっていくのだ。



(了) 2010.07.17

タイトルのSSSSSは「スーパー攻め攻めな設楽聖司先輩」の略です

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