>> 言いたいことも言えない



 駅前から少し離れたそこに二人は初めて足を踏み入れていた。
 高級ホテルのような内装の他、ベッドには豪奢な天蓋。家具のどれもが色彩鮮やかに揃えられており、照明一つとっても妖しいそれを残している。

「と、とりあえず、どうしようか」
「え、えーと……」

 自宅では邪魔が入るとここを選んだのは良かったが、悲しいかな二人揃ってこの場所に対する知識が無かった。とりあえず聞き知った程度の知識で彼女が紺野にシャワーを勧める。
 お互い挙動不審になりながらも紺野がシャワーを終え、今度は彼女が浴室へ。その間、これからどうしたらいいのか悩む紺野は一人ベッドで頭を抱えていた。

(……こういう場所だと聞いてはいたけど……)

 おしゃれに言えばシティホテル。身も蓋もない言い方をすればラブホテル。主な使用法が決まっているこの場所に彼女を連れてきたということに、今さらながら後悔していた。

(でも家だと色々うるさいだろうし、……何だろ、この恥ずかしくなる感じ)

 どうにも居心地が悪く、ついと視線を浴室に向ける。が、ものすごい勢いで顔を背けた。
 未だ彼女がシャワーを浴びているガラス張りの浴室。その壁が見事にこちらから見えるように透けていたのだ。

(な……ぼ、僕の時も、見えて…!?)

 実際透けていた訳だが、当の彼女は慣れないこの場所が珍しく他を見ていたためそれに気付いていない。
 一方気付いてしまった紺野はちらと見えた光景を忘れようと、複雑な物質構成式を必死に復唱していた。だがCOやらNeやらの間に白く濡れた彼女の肢体が浮かぶ。
 だめだ、と諦め気分を落ちつけようとサイドボードに置かれたリモコンを手にテレビを付ける。だがぶつりと音を立て黒い画面に浮かび上がったのは、これもまた彼女と似たような白い肌。

『っやだ、……やめっ…!』

 思考が停止する。
 そうか、考えてみればこの手のチャンネルがある方が自然な話だ。茫然とする紺野の目の前で、肩ほどの髪をシーツに散らし、大きく足を開かされた女性の姿が引きずり出される。可愛らしい顔をした女優は、熱に浮かされたような表情のまま、必死にベッドから逃げようとしていた。が、男の太い腕が伸びて来ては、太ももを掴まれ囚われてしまう。

『やあっ……いやっ、やあ、あっあああぅっ……!』

 カメラアングルが切り替わり、足を高々と上げさせられた姿勢のまま、男を受け入れる様子が見て取れた。ギシギシとリアルな物音と荒々しい息遣いが妙に耳に残る。
 そこでふと、泣きながら揺さぶられる女性の顔が、ほんの少しだけ彼女に似ている気がした。

「あの、お風呂、上がりました…」
「――!!」

 パアン、と高校生クイズの早押しばりの速度でリモコンが先取され、テレビの画面は再び真っ黒のそれに戻っていた。何だろう? と覗き込む彼女と、奇妙な罪悪感に身を取られた紺野の姿だけが画面に映り込んでいる。

「先輩? どうしたんで――」
「な、なんでもないんだ! ほんとに!」

 ?と疑問符を浮かべていた彼女だったが、やがて紺野の隣に腰を下ろした。きし、と木枠が音を立て気まずい沈黙が落ちる。
 ちらと隣を伺う。案の定、紺野もまた顔を真っ赤にして手の平で自身の顔を隠すように覆っていた。その隙間から小さく声が漏れる。

「ごめん、その……こういうとこ初めてで、どうしたらいいのか分からないんだ……」
「……そ、それは」

 再び沈黙。生真面目な性格は紺野の良い所でもあるが、このまま黙って時間を過ごしても仕方がない。
 彼女は小さく息を吐くとぐ、と飲みこむ。そのまま紺野の腕に、指先を絡め取るように取ると、その唇に横から口づけた。

「……!」

 紺野も最初は驚いていたようだが、彼女が恥ずかしさを耐えてまで来てくれた事に気付いたのだろう。舌を受け入れると今度は唾液を嚥下するかのように貪っていく。
 腕を掴む彼女の手を握り返し、更に噛みつくように歯列をなぞる。処理しきれなかった唾液が彼女の口の端から零れ、首筋を伝った。

「……ごめん、」

 気を遣わせてしまった申し訳なさと、これからの行為に謝罪しながら彼女の上体をゆっくりと枕側に引き寄せた。天蓋に奥に積まれたそれに埋まるように、彼女の髪が散らばる。
 バスローブの前を紐解き、下着の取り去られた乳房へと顔をうずめる。シャワーを浴びたためかほんのり湿り気を帯びた肌はやや熱く、しとりと馴染んだ。

「……ん、」

 乾きかけの紺野の髪が冷たく、谷間を滑るたびに吐息の熱さとの差に反応しそうになる。懸命に舌を這わせる姿がなんだか可愛くて、そっと髪を撫でるように頭を抱き寄せた。
 それが心地よかったのか、ん、と声を漏らしたかと思うとゆっくりと上体を起こした。逆光になった影の下、深緑の目が申し訳なさそうに問いかける。

「大丈夫? 重くないかな?」
「大丈夫ですよ」

 そっか、と呟くと彼女の耳に口づけを落とした。クチュ、と熱を持ったそれが首筋を舐め、時折吐息が肌にかかる。
 触れあっている肌の温度が近くなり、ぞくりと体の芯が呼ばれた気がした。平たい胸板に押しつぶされる双丘、かすめる指先の他に、太ももの辺りで押しつけられる確かな熱量のそれ。
 紺野が上下するたびそれが腿の内側に筋を残し、先端が触れるたび言いようのない名残だけが残った。

「はぁ、……ん…、…ん……」

 紺野は尚も彼女を捕食するかのように口づけを求めてくる。首に巻きつけられていた彼女の手を取ると、その手首を彼女の顔の脇に押さえつけ、鳥がついばむように鎖骨に跡を残す。たまらず視線を上に向けると、薄暗い外套と暖色の照明、視界の端に紺野の髪が見え隠れし、なすがままにと目を瞑ったその時、コツンと何かか手に触れた。

「……はあ、はあ……これ、は…?」
「え、……?」

 固いプラスティックの感触。彼女にも何か分からず横を向くと、紺野が興味深げにそれを拾い上げていくのを視線が追いかける形となった。
 その手に握られていたのは、簡単に言えば――マッサージ器、という体だろうか。だがここにある以上、それをどう使うかなど聞くだけ愚問だ。片付けの際忘れてベッドに残っていたのだろう。

「へえ、こんなのもあるんだな」
「せ、先輩…?」

 当然ながら使用した経験などなく、嫌な予感がする彼女の心を読むかのように、紺野は玩具を手にしたままようやく体を起こした。
 彼女の横に座るよう体をずらすと、組み敷いていた両足首をまとめて掴む。

「や、ちょっ……!」

 両足をそろえた姿勢のまま、屈伸するかのように足を持ち上げられる。まるであかちゃんがおしめを替えられるかのような姿勢になり、恥ずかしさに必死に声を上げた。

「せんぱい、あの、それ」
「大丈夫、ちょっと試してみるだけだから」
「ちょ、ちょっとって……あ、あ…!」

 制止の声も届かず、無情な機械音が起動する。膝裏を片手でまとめて掴まれたまま、もう一方の手がその中心に伸びた。ヴヴヴヴ、という規則的な音がある一点に触れた瞬間ビヴ、と震える。

「あ、あ、や、……あ、あああああああー!」

 ぴたりと閉じられた太ももの根元に、男性器に近しいそれが差し込まれていく。実際中に入れられているわけではないのだが、入り口の襞に強い振動が伝い、めくれたそこから中の突起をもぶるぶるとしたそれが撫でてくる。
 たまらず足先をばたつかせる。するともつれた腿の合間から機器の先端が下にもたげられたのが分かった。

「や、やめ、だめっ入れちゃ、やああ、あっあああああっ…!」

 膝裏に添えられた手の力が一層強まり、ぐいと尻を上げさせられる。紺野が手向きを変えた、かと思うとねとねととしたそれが大陰唇を震わせるようにぎゅい、と押し入ってきた。

「へえ、意外と入るものなんだな」
「せんぱ、やだ、出して、だしてええええっ……!!」

 腰の奥に響く振動音。体の脇に降ろした手で必死にシーツを掴み刺激に耐えようとするが、無機質で規則的なそれと時折混ざり始めた水音、そして既に半分ほど飲みこんだそのやらしい様を、紺野が見つめていることが手に取るように分かる。その時つう、と緩い粘性を持った液体が尻の割れ目を伝い落ちた。
 思考が薄らと霞がかっていく中、その玩具は差し込まれ、更にそれを持つ紺野の親指がひだの下側に触れた。

「あ、……ひあ、…」

 上側は太く歪なそれを咥えさせられ、下側には長く伸びた紺野の指が中のやわい肉を確かめるようになぞってくる。近く来る限界を察しながら、いやいやとベッドの脇を握りしめる。その時だろうか、偶然にも先程どけていたテレビのリモコンに手が触れた。
 ブツ、と徐々に鮮明な画像が浮かび上がる。何? と彼女が虚ろな思考で顔を画面に向けると、そこにはまさに今の自身と同じような体勢で男を受け入れている女性の裸体が映っていた。

(……これ、えっちな…)

 すぐに思い当たり、赤面する。顔を背けようにも自由になる体力が無く、嬌声を発する画面の彼女を見つめる形となってしまう。
 強く閉じられた目。真っ赤になって抵抗する息遣い、口の動き。その全てが煽情的であり、同時に今の自身のおかれている状況も察した。もしかしたら、――今の自分もこんなやらしい顔をしているのだろうか。

 あっあっ、と響く放送声を気にするでもなく紺野はテレビを放置し、突っ込んでいた玩具を抜き取った。びちゅ、と零れる水音を落とし外れたそこに、今度は生きた先端がべちょとくっつけられる。
 揃えた両足は彼の肩に担がれるような状態になり、閉じられたそこは眼前に剥き出しにされている。そのまま前に倒れこむように紺野は腰を進めた。

『はあ、あっ、ああっ、んああっ』
「だめ、はいっちゃ、やら、や、だあ……!」
「……っふ、」

 AVから漏れる声に、彼女の涙声が混じる。暴れる彼女を押さえつけるかのように、紺野は更に上体ごと足を抱え込んだ。膝が深く曲げられ、合わせて熱く滾った肉棒が先程よりも更にひだを割り開く。
 彼は体を起こし角度を変え、より深く挿入するよう腰を進めた。足を閉じているせいか、普段より浅い位置しか出入り出来ないようだが、代わりに濡れた剛直が割れ目を何度も何度も擦るように往復し、腿の付け根にまで透明な愛液が撒き散らされる。
 
「……ん、こうやってするのも、結構気持ちいいかもしれないな」
「は、ぅ、んん、……」

 じゅぶ、と自身の閉じた股の間から紺野の先端がにちゅりと覗く。その光景があまりに刺激的で、彼女はびくんと達し軽く跳ねた。それに気付いたのか、ようやく素股から解放したかと思うと今度は彼女をうつ伏せにし、その太ももに指をかける。

「ごめん、……行くよ?」

 腰を突き上げる姿勢のまま、下から熱く迸るそれが突き立てられる。くちゃ、にちゃ、と既に十分過ぎる潤いの音と共に、血管の浮いたそれが彼女の下の口をふさいだ。

「ああ、あ、ん、んあ…ッ!」

 強すぎる圧迫感に耐えようと枕に顔を埋め、両手を握りしめては必死に腰を支える。ふと意識を外した先には付けっぱなしのテレビがあり、そこでもまた獣のように犯される少女の姿があった。
 泣き叫ぶように声を上げ、淫乱に腰を振る。その姿が今の自分とそっくり同じようで、更に羞恥を煽った。

(私も――)

 突き上げてくる性器の動きが早まり、つられて腰が迫り上げられる。互いに触れあう太ももの温度。腰を掴んでくる紺野の指が長く、酷くいやらしい。

(あんな、顔で……?)

 画面内の少女はぶるぶると激しく痙攣し、崩れ落ちた。その背や足に白濁とした液体が飛び散り、それを恍惚とした表情で受け止めている。同じくして紺野の動きも激しくなり、は、は、と熱い息がその背中に落ちる。
 ずり下がる彼女の腰を支え持つように掴み、ひたすらにナカを揺さぶる。反り立つ肉棒がきゅんきゅんと締め付ける膣壁をずりゅ、ずりゅ、と擦りあげ、割れた先端が子宮の入り口を突いた。刹那、枕に顔を埋めていた彼女が「あ」と鼻から漏れる声を落とし、同時に急速に狭まるのが分かった。それを逃すまいと、体を押し曲げ彼女の背中に自身の胸板を押しつける。

「あ、……っは、はあ、……んっ…」

 ベッドがギイ、ギイと音を立て、結合部の下にあるシーツは愛液で変色している。幾度も出し入れするたびそれらがぐちょ、と零れ、紺野もまた苦しそうに声を漏らしていた。そして最後、ゆっくりとそれを突きいれた瞬間、びくりと腰が震え、そのままずるりと体勢を崩した。腰の支えをとうに失っていた彼女もまたつぶれ、二人はうつ伏せの姿勢のまましばらく倒れこんでいた。




「先輩酷いです!」
「……うん、ごめん。悪かった。反省してる」

 ようやく目覚めた直後、当然のように叱責が先に来た。玩具を使うのだって制止したのに聞いてもらえず、挙句紺野にしては珍しく乱暴な行為だ。
 おそらく普段と違うシチュエーションに気持ちが大きくなったのだろう、と自身で冷静に分析する。

「でも、君だって普段より声、大きかった気がするけど……」
「――!! そ、それは……」

 部屋と違って聞かれる心配が無かったから、と言う訳にもいかず、返事の代わりにばしんと紺野の背中を叩いてシーツにくるまった。
 その姿に苦笑し、それからふと何かを思い出したかのように眉を寄せる。

「そういえば……」
「? どうしたんですか?」
「……ここって、どうやって支払いするんだろう」
「……そういえば」

 支払いのシステムについて知らない二人は、いつもの生真面目な表情に戻り延々と考え始めていた。
 心配したスタッフが来たのはその数時間後のことだった。








 薄暗くなった空を見上げ、設楽はぼんやりと思考を辿る。

「言いたいこと言え、……は俺の方か」

 滑らかに帰路を急ぐリムジン車の中で、ふと自身の隣の空間に視線を落とす。少し前まで彼女がいた革張りのそこにそっと手を下ろし、静かに目を閉じた。

 そこにぬくもりは無く、ただ無機質な冷たさがあるだけだった。




2011.9.28(了)

40万キリリクで「商店街スチル」+「ホテル」でした! 遅くなり申し訳ありません〜;


たぶん自分がこの設楽の立場だったら「リア充爆発しろ!幸せになれ!」って言って泣いて逃げると思う

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