「……ッごめん、こっち」
ぐいと引かれた腕に導かれるまま、商店街の裏路地に引きこまれる。
「こ、紺野先輩…!?」
「ご、ごめん、すぐ終わるから」
今日は大学に入って久々のデート。毎日忙しい紺野と一学年で履修内容の多い彼女とではなかなか予定が合わず、ようやくとれた休みの日だった。
明日もあるから、と近場の商店街を選んだのは良かったのだが、どうやら紺野に大きな誤算が起きたらしい。
押し黙ったまま薄暗がりの中、紺野の顔を見上げる。長い睫毛に端正な顔。今日はコンタクトなのか、眼鏡のない深緑の目はなかなかに新鮮だ。
そして今、その腕の中に抱きしめられていることに少し気恥ずかしく思いながら更に彼を見上げる。だが、紺野の視線は彼女ではなく、通りの向こう――ある一人の女性に向いていた。
(……あれ、お姉さん?)
そういえばこの状況、以前にも覚えがあった。あの時も先輩のお姉さんとはち合わせてしまい、慌てた紺野から裏通りに押し込まれたものだが、今回もどうやら同じような展開らしい。――同 じ ?
(……ちがう)
同じではない。
以前出会った時はまだ付き合う前。紺野が家族に知られたくなくて隠したがる気持ちもわかる。
だが今は――隠す必要など、ないはずなのに。
「…… ふう、もう大丈夫かな」
ふ、と力が緩められ、手を軽く握られるまま表通りにこそりと顔をのぞかせる。安堵したように息をつく紺野を見上げ、慌てたように口を開いた。
「あの、紺野先輩……」
「ん? どうかした?」
「……」
だが、それ以上言葉を続けることが出来なかった。たった一言。たった一言聞くだけなのに。
もしかして苦しかった? と不安げに聞いてくる紺野を見ると、彼女はそれ以上何も聞くことが出来なくなってしまった。
否、聞いたその「答え」を知りたくなかったのだ。
「で、何で俺のところに来るんだよ」
「う、……ごもっともです……」
数日後、チェスサークルが終わってから速攻設楽を捕まえたかと思うと、学食のテーブルで向かい合う二人の姿があった。
最初はどうして俺がこんなところに、とぶちぶち漏らしていた設楽だったが、その前にたこ焼きが置かれているところを見るとこのまま話をしても大丈夫そうだ。ありがとう充実したメニューの学食。
「結局あれだろ。紺野のやつが堂々としてないのが悪い」
「言いたいことはそうなんですがもう少しオブラートにですね……」
確かに彼女が求めているのはそれだった。
ただの親しい後輩であるうちは良かった。だが今の彼女は、彼と釣り合わないと自覚しながらも一応は紺野の「彼女」なのだ。
その立場を振りかざすつもりは毛頭ない。だが目に見えないものだからこそ、その確固たる確約が欲しい、と思ってしまう。
「確かに先輩の気持ちもわかるんです。私自身どうして紺野先輩と付き合えているのか分からないし」
「……へえ」
「先輩恰好いいし、頭も良いし、あとしっかりしてるから頼りにしてる人多いし、あと他の先輩とかが良いねって言っているのを聞いたりとか」
「……」
「私が高校生の時も学食とかで綺麗な人からいっぱい話しかけられてたし、私より好きな人が出来たりと思うと……」
(……くそっ、新手の拷問か!)
このまま紺野に言ってやれ! と言いたくなるのろけの返事を寸でのところで飲みこみ、努めて冷静に息を吐く。
「……つまりだ、お前は本当に自分と紺野が釣り合っているのか自信がないってわけだ」
「……はい」
しゅんと顔を俯かせた姿を見、心の中でだけ溜息を落とす。
高校時分対立していた設楽からみれば、紺野がそこらのやつに心変わりすることは絶対にないと分かっている。というか、そんな生半可な決意で俺からこいつを奪ったんだとしたらそれこそ問題だ。むしろ俺に謝れ。
「そうだな、ひとつ良い考えがある」
「いい考え、ですか?」
「そうだ」
多少荒療治だが構うものか。
こいつを不安にさせている紺野のやつが悪い。
「おまえ、――しばらく紺野のやつと会うな」
「……で、なんでお前も俺のところに来るんだ!」
「すまないとは思ってるよ……でも他にこんなこと相談できるやつがいなくてさ」
彼女の相談を受けて三週間ほど経過したその日、設楽は再び学食に拉致られていた。今度の人質は薫り高いお好み焼きである。ここの学食すごい。
「それで、その……彼女の、ことなんだけど」
「……」
「最近時間が無いせいかな、なかなか会えなくて」
「まあ、あいつは一年だからな」
「それはそうなんだけど、休みの日とかも何だか避けられている気がして」
「……へ、へえ」
う、と少しだけ申し訳なく思いながら設楽は視線をテーブルの端に移した。
紺野からの好意を不安がる彼女のために、一旦距離を置くようアドバイスしたのは間違いない。だがこうもすぐに効果が表れるとは。そして何故こいつも俺に聞く。
「やっぱり、僕が頼りないせいかな……」
予想以上に設楽の作戦が効いたらしく、紺野は見てわかるほどに落ち込んでいた。挙句「同じ学部の後輩から彼女について聞かれた」だの「他の大学の奴から声を掛けられているのを見た」だの作戦以前の積もり積もった愚痴まで漏れてくる。
紺野と彼女が付き合っていることは間違いないのだが、二人とも生来真面目な性格のためか学区内を一緒に歩くことが少なく、人によってはその事実を知らない者も多々いる。
加えて紺野はその活動で、彼女は高校時分健やかに成長した容姿からか大学内でも有名で、あわよくば知り合いに、と声をかけてくる輩は少なくない。
「いつも傍にいてあげられればいいんだけど、……今はそれすら避けられてるし。それにもしも、彼女に他に好きなやつが出来たりしたら……」
「――出来たらどうするんだ?」
「……え?」
思わず言葉が口をついた。
「あいつに他に好きな奴が出来たとして、お前はそれで諦めるのか? あとからのこのこやってきた奴に取られて、仕方ないって言うのか」
――それなら、俺は。
掴みかかりたくなる気持ちをなんとか抑え、意識を沈める。紺野も設楽の様子を察したのか、その視線を真っ直ぐに向けた。
「……いや、言わないな」
「ならいい」
結局のところ、紺野も不安なのだろう。どんどん綺麗になっていく彼女に、自分が釣り合うのかと迷っている。それは彼女も同じだ。だからこそ、今回のようなすれ違いが起きたのだろう。
ほおっておけば時間が解決してくれる問題かも知れない。だが真面目な二人の事、互いに本当の気持ちを告げないまま仲たがいする可能性も十分考えられる。
(……)
一瞬だけ浮かんだ邪な気持ち。設楽は瞼を閉じるとその思いを深く封印した。俺がそれを願うのは――フェアじゃない。
そんな設楽の心の内を知っているのか知らないのか、しばらく二人の合間に重苦しい沈黙が落ちる。先に折れたのは設楽の方だった。
「……分かった。俺がなんとかしてやる」
「設楽?」
「言っておくが、お前のためじゃないからな!」
自分が言いだした作戦に責任を感じたのもある。だかそれ以上に、この二人には幸せであって欲しかった。――選ばれなかった自分のためにも。
「今週日曜、家にいろ。いいな」
「え、家?」
「いいからいろ。じゃあな」
設楽はそれだけを言い終えると紺野をびしりと指さし学食を後にした。
「……設楽?」
一人残された紺野。その前の席には冷めきったお好み焼きだけが残されていた。
その週末、彼女は設楽から呼び出されて森林公園の入り口にいた。
(設楽先輩、一体何の用事なんだろう……)
本当は紺野に告げずここに来るのをためらっていた。だがアドバイス通り彼を意図的に避け続けた結果、どうやって普段の様子に戻せばいいか分からなくなっているところだった。
(……)
待つ間、ぼんやりと紺野の事を考える。
会わないと決めてから、何度も遊びの誘いがあった。心を鬼にして断っていたが、その度寂しそうに電話を切る紺野の声を聞くのがつらい。
本当は仲直りしたい。
そもそも自分が最初に拗ねたようなものだし、不安に思っているのも自分だけだ。だが、ここまで意地を張ってしまった以上、もうどうやって仲直りしたらいいか分からない。
(紺野先輩は私が一方的に拗ねてるとか思ってないだろうし、でもずっと酷い態度とっちゃったし、謝るのも何だか変だし)
「……何してるんだ? お前」
聞き慣れた声に慌てて振り返ると、そこには大通りに横づけされた高級車の窓から顔を覗かせた設楽の姿があった。悩む彼女の百面相をいぶかしむように眺めていたが、慣れた様子でドアを開けるとエスコートするように手を伸ばす。
「ほら、いいから乗れ」
促されるまま巨大なリムジンに乗り込む。以前クリスマスの時先輩二人が乗ってきたものと同じらしく、車とは思えない広い内装に改めて中を見渡した。
だがうろうろと泳ぐ視線をゆっくりと降ろすと、隣に座る設楽の様子を伺う。
「……なんだよ」
「いえ、その……今日は何で呼び出されたのかなーと」
設楽に限ってデートとは言いださないはずだし、かといって理由もなく連れ回すのもおかしな話だ。どこへ連れて行かれるのか、無言の運転手は行き先を告げずともどこかに向かって車を走らせている。
「お前、しばらく紺野と会ってないらしいな」
「……」
思わず体がすくむ。設楽はこちらを向くでもなく、ぼんやりと視線をガラス窓の向こうに向けていた。
「……まあ、俺が言ったからな」
「確かに会っていないです。でも、……すみません、まだ自分の気持ちに整理がつかなくて」
自分が「彼女」でいいのだろうか、という不安と、彼の周りに認められたいという相反する気持ち。こんな不安定な状態で紺野と会っても、心配させるか困惑させるか。
それ以降押し黙っていた彼女を見、設楽も再び口をつぐんだ。顎に軽く手を添え、肘を脇についたまま静かに窓の外の景色を追っている。そしてぽつりと漏れた声。
「俺も、あった」
「……?」
「お前を送った帰りだったな、……紺野の奴がうだうだしてるから俺が怒った」
まだ設楽が身を引いていなかったあの頃。彼女を自宅まで送り届けたその帰り道の公園で、紺野と意地の張り合いになった。
あの時自分は「引かない」という一つの意思だけしかなく、何かを言おうとしていた紺野の言葉を断ち切った。それが安易な逃げの方法であると知りながら。
「設楽先輩が、ですか?」
「ああそうだ。『言いたいことがあるなら、はっきり言え』ってな」
もしもあの時紺野の言葉を聞いていれば、自分はもっと違う思いで彼女を諦められたのではないのか。結局決めるのは彼女自身だと分かっていたが、それでも小さなしこりが残る。
思いは心に宿しているだけでは伝わらない。俺たちは超能力者ではないのだから。
「だから、お前も言って来い。『言いたいことがあるならはっきり言え』って」
丁寧にかけられたブレーキと共に、静かに車体が進行を止める。彼女の手を取ったかと思うと、強い力で外へ引き寄せられる――そこは。
「……設楽先輩、ここ」
そこは、紺野の自宅前であった。
「ま、待って下さい! 心の準備がまだ…!」
必死に抵抗する彼女を無視し、ずるずると玄関まで引っ張っていく。そのままインターホンを押し、向こうが扉を開く前にドアを引いた。案の定、開けようと直前まで出て来ていた紺野の驚くような顔が、その奥にある。
「…… 設楽!?」
「ほら、連れて来たぞ」
「せ、先輩、だから……!」
ぐい、と紺野の前に引っ張りだされる。数週間会っていないだけなのに、随分懐かしく感じて思わず笑みがこぼれそうになる、――が、いかんせん今は喧嘩中の身だ。
だがそんなことも構わず、狼狽する彼女を残し、設楽は早々に車に戻ってしまう。
「言いたいことがあるなら直接言え。じゃあな」
「し、設楽先輩!?」
またたく間に高級リムジンは姿を消し、残されたのは紺野と彼女の二人だけ。
「……」
「……」
互いにどうしたらいいのか分からず、拮抗した無音状態が続く。その緊張感に耐えきれなくなったのか、彼女の方が根負けし逃げるように顔を背け、後ずさりした。
「あの、すみません、私……」
顔がまともに見れない。ずっと一人で怒って、無視し続けて、紺野先輩から呆れられてるかもしれない。
一歩、また一歩と砂を噛む音が続く。だが、その腕を紺野が掴んだ。
「――待って!」
「……!?」
「……僕も、君と話がしたかったんだ」
何度か訪れた紺野の部屋に入る。だが、以前の様な気やすさはなく、二人は正座で対面したまま再び黙りこんだ。
(……気まずい)
おそらく紺野と話しづらくなってしまった彼女の状況を見越して、設楽なりに何とかしたかったのだろう。だがいきなり自宅とか。荒療治すぎる。
「あの…!」
「その…!」
何かしゃべらなければ、と思った二人の声が見事に被る。あわわ、と身を正すとそこでまた言葉が途切れてしまい、話が続かない。
(……どうして)
どうしてこんなことになったんだろう。
確か、お姉さんの目から隠されたことがきっかけで、でもそれだけではなく同期の人から親しげにされていたのも以前から嫌で。それを言いだせないまま、態度で示してしまったのが今回の喧嘩の原因。
だが冷静になって考えてみると、確かに紺野による原因があるものの、自身にも少し幼かった部分があるようにも思えてくる。
じわり、と視界がにじむ。
情けないような、恥ずかしいような気持ちになり、たまらず鼻をすすった。
「……ごめん」
紺野の低い声が室内に落ちた。
「……え?」
「僕が不甲斐ないばかりに君に嫌な思いさせたりとか、その、勝手に嫉妬したり、……ほんと、ごめん!」
「え、ええ!?」
すん、と涙を擦りあげ、慌てて問い直す。何か話がおかしい。嫉妬――したり?
「た、確かにお姉さんの時のはちょっと嫌でしたけど……」
「姉貴の時、って……?」
「あれですよ、商店街で隠れた時の、……」
「……あ、あれは、その」
紺野はしばらく視線を宙に泳がせていたが観念したかのようにがくりと頭を垂れた。
「……君みたいな子と僕が付き合っているなんて、信じてもらえないと思ってさ」
「私を紹介するのが恥ずかしかった、とかじゃなくてですか…?」
「まさか! どちらかと言うと僕の方が怒られそうな気がするよ」
姉に見つかったが最後、幼く気弱だった頃の自分や本来の情けない姿を暴露された上、「もっと他に良い人がいる」などと余計な事を吹き込まれそうで、思わず姉から彼女を隠してしまった。
紺野のそんな真意を知ることとなり、彼女はようやく自分が勝手な憶測に走っていたことに気付いた。
「じゃ、じゃあ、嫉妬したって――」
「君は気付いていないかもしれないけど、その、君を良いって言ってる奴がいただろ?」
「え、……ええええ!?」
「もしかして、気付いてなかった?」
ようやく、二人の行き違いの真相が見え始めた。
「先輩、私の事――怒ってないんですか?」
「どうして?」
「だって私勝手に勘違いして先輩避けてたし、てっきり呆れられて」
「や、やっぱり避けられてたんだ……はは」
「そ、そうではなくてですね!」
そこからは彼女の独壇場だった。
紺野がお姉さんから自分を隠したことに対して不満を持ったこと、それを起爆点に同期の女性と親しげにしているのが嫌なこと、そして――自分なんかでは紺野につりあわないのではないかということ。
小さくも積もった不満や疑念が、堰を切ったように溢れてくる。自然と、涙が零れていた。
「――だから、私はまだ、紺野先輩と一緒に、いても……いいんですか?」
その姿に、紺野もまた顔を真っ赤に染め上げていた。
無理もない。こちらもまた、自分では彼女に釣りあえないのではないか、と悩んでいたはずが、よもやその彼女の方から過大とも言える評価を頂いてしまったのだから。
かける言葉に迷い、俯く彼女の頭を腕で抱きかかえた。その額に、自身の額をこつんと合わせる。
「驚いたな――まさか君も、僕と同じことを考えていたなんて」
「……?」
「実は僕も迷ってた。僕なんかで、いいのかって」
滑稽な話だ。こうして言葉にしてしまえばすぐに分かることなのに、どうして思いは触れているだけでは伝わらないのか。
目を赤く潤ませた彼女の頬を指で辿り、目元に、頬に口づけを落とす。許しを請うように、これが――答えであるというように。
最後、唇に落ちたそれがしばらく続き、抑え込まれた彼女が苦しげに紺野の腕を叩いた。だが息継ぎの隙間を縫うように、角度を変え再びくちゅりと泡を立てる。
「――っん…!」
ようやく解放されたのと同時に、彼女が紺野の目を見上げた。突然のことにきょとんとしていると、薄暗い室内灯の下安堵したような彼の姿があった。
「ごめん。――許してくれるかな」
その姿がとても弱弱しく見え、思わずその両腕を握り返す。それに気付いたのか、紺野もまた嬉しそうに笑った。釣られて彼女も微笑む。
「ふふ、何だか変な感じですね」
「そうかなあ、結構真剣に悩んだんだけど」
笑う彼女をおしおきするかのように、紺野は再び彼女に口づける。今度はゆっくりと体重をかけ、その顔の横に両手をついた。
ん、と水分を含んだ熱い息が彼女の耳元に落ち、開いた足の間に確かな重量がゆっくり覆いかぶさってくる。衣擦れと、じくりと湿る室内の空気。
「玉緒ー?」
「……!」
だが軽快な声がそれを見事に吹き飛ばした。慌てて紺野は体を起こし、彼女もまた正座で座り込む。二人揃って顔は真っ赤である。
「玉緒ー? 誰か来てるんなら飲み物あるけどー」
「姉貴! だから急に声かけるなって」
「けけけ結構ですすぐお暇しますので!」
階下から響いて来た姉の声に紺野が応戦し、彼女は慌てたように立ち上がると帰ろうとドアを開いた。その腕を掴むと、紺野もまたわたわたと立ち上がる。
「ま、待って、送るから!」
結局逃げるように紺野家を後にした二人は、行きの送迎車があるでもなく一番近い駅までの帰路を歩いていた。先程ようやく仲直りしたばかりだと言うのに、なんだか気まずい。
(な、なんか中途半端になっちゃったし……)
繋いでいる手の微妙な熱さに気付き、一人赤面する。
「はあ……だから家は嫌なんだよな……姉貴は無神経だし、家族はあれこれうるさいし」
「優しいお姉さんじゃないですか」
「……まあ昔よりはましかな」
触れあう肌が心地よく、あっという間に駅に到着してしまう。名残惜しいながらも離そうとする――が、その組まれた指が動かない。
あれ? と紺野を見上げる刹那、それより早く紺野の言葉が落ちた。
「ごめん、その、君さえよければ――」
「先輩?」
「……もう少しだけ、一緒にいてくれないかな」
中途半端に残された熱の欲。
それは彼女のものだけではなかった。
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