>> 誰も寝てはならぬ



 窓の外に目を向けると、白い風花がちらちらと舞っていた。ふと視線を戻すとテレビからは有名なイルミネーションの紹介が流れており、レポーターの背後には寒そうに互いの体を寄せ合うカップルの姿が何組も見て取れた。

(嵐君、今頃移動中かな……)

 本来なら恋人同士で過ごしていいはずのクリスマスイブ。だが、当の片割れは現在海外遠征の真っ最中だ。不二山自身クリスマスのことより柔道を優先させる人だし、彼女もまたそれを望んで快く送り出した。戻る予定は早くて明日、運が良ければクリスマスの最後の方は一緒に過ごせるかもしれない。
 携帯電話を手に取り、画面を開く。シンプルな待ち受け画面だけがそこにはあり、メールも着信も表示されていない。カシカシとアドレス帳を開いて「ア行」を探しては、番号を開く。だが、発信することなく再びパタンと携帯を閉じた。

(今向こうは何時だろう……)

 時差を考えると今向こうは昼だろうか。練習中かもしれないし、変に邪魔をしたくない。

「……よし、寝よう!」

 明日は帰ってくるであろう不二山のために、豪華な夕飯を用意しなければならない、と自身に言い聞かせるようにしてベッドへと身を沈めた。




 真っ暗な室内。目を閉じるが、いつもより広いベッドが落ちつかなくて寝付けない。寒さと心細さが少しずつ顔を覗かせて、何だか無性に寂しくなる。

(そういえば……)

 子どもの頃、クリスマスイブの夜は寝るのが楽しくて仕方なかった。理由は当然、目覚めた時に枕元にあるプレゼントだ。
 目が覚めて一番にあの包装紙に包まれた四角い箱を見つけた瞬間、とにかく嬉しかったのを覚えている。いつの間にか起きた時に渡されるようになり、その感動を味わうことはすっかりなくなってしまったけれど。

(サンタさんが〜なんて、懐かしいな……)

 子犬が欲しいと手紙に書いたのに、世界名作劇場の絵本だった時は泣いたっけ、などと思い出すうち、呼気は静かに落ちて行きやがてそれは穏やかな寝息へと色を変えて行った。





 何かが動く気配がした。

(……な、に?)
 
 目を開ける前に、様子を伺う。玄関の鍵は閉めたはずだ。不二山が帰ってくる予定は明日だし、こんな時間に親が来る可能性も低い。
 もしかして、ど、どろぼ、と最悪の予測に辿りつき、体と瞼がぎゅ、と強張る。気配の元凶は今も室内を動き、やがてまっすぐに彼女の寝ているベッドに近づいてきた。

(どどどどうしよう…!)

 普段なら不二山がいるので、むしろ犯人逃げて! というレベルなのだが、今日は彼女一人。金銭目的だけならこのままじっとしていた方がいいのだろうが、そこの住民を口封じに……とまで考えたところで、ぶわりと嫌な汗がにじんだ。
 とりあえず様子をみよう、と体を硬直させたまま全神経をその未確認気配に集中させる。だがそんな恐怖も知る由も無く、それは彼女のすぐ枕元にまで近づいて来た。

(……!)

 必死に寝たふりをする彼女の隣に立っているのが分かった。呼吸の乱れを悟られないよう、静かに吸い、吐き、を繰り返す。その時、彼女の頭のあるすぐ隣に何か質量のある気配が降りてきた。その動きに驚き、思わず目を開く。しまった、と思う間もなく、逆にこうなればという気持ちに切り替わり、その気配の根源を力の限り握りしめた。

「……!?」
「だっ……誰です、か……?」

 相手がひるんだのを好機、と判断し勢いよく声を上げる。そのまま体を起こし暗がりの中正体を探る――だが。

「……嵐、くん?」
「わりい、起こしちまったな」

 そこにはいましがた帰って来たばかり、という風貌の不二山が、その大きな眼を一層大きくして驚いていた。その姿に彼女もまたわたわたと体を起こす。

「え、な、何で、帰るの明日だって……」
「ん。いっこ前の飛行機キャンセル出たから、乗せてもらった」
「乗せてって、え、じゃあ帰って来たのって」
「今さっきだな。ただいま」

 なるほど見れば部屋の隅に大きなトランクが傾けられており、分厚いコートを着込んだままだ。その肩にはちらほらと雪の欠片も見て取れ、まとう空気全体が冷たかった。
 慌てて腕を掴んでいた手を離し、不二山の頬に両手を添える。

「今って、さ、寒くなかった!?」
「ああ、これぐらいどってことない」

 とはいえこの真夜中。頬に寄せた手の平にはひやりと氷のような冷たさが伝い、極寒の中急いで帰って来た彼の姿が容易に想像できた。聞けば、当初は予定通り帰ってくるはずだったのだが、無理を言って一便早いのに乗せてもらったのだという。
 嬉しそうに目を眇める不二山を見、半泣きになりながら今度はその大きな手を取る。長い指先は冷え切っており、おもわずその小さい手でぎゅうと握り締める。

「でもほら、手だってこんなに」
「……ほんとだ。お前、あったかいな」
「嵐くんが冷たいの」

 そっか、と不二山の呟きが落ち、やがてどちらともなくくすくすと小さな笑いが起こる。そうして、ゆっくりと彼女の体の左右に手を付いたかと思うと、わずかに首を傾け唇を寄せる。冷えた鼻先が顔に触れ、少しだけ身を引く。それを追いかけるように更にちゅ、と音を立てさせては惜しむように離れた。

「そんなに急がなくても良かったのに」
「俺が早く帰りたかった、そんだけ」

 一緒に過ごせると思っていなかったクリスマスイブ。それを無理して帰ってきてくれた。おそらくは、彼女と過ごすその為だけに。
 最初は驚いていたが、じわじわと嬉しさがこみあげて来ては、ぎゅうと抱きつきたい衝動に襲われる。それは不二山の方も同じだったのか、コートを肩から下ろしながら暖を求めるかの様に彼女の体に抱きついた。
 暗闇の中ようやく慣れた目に、スーツ越しの肩が覆いかぶさってくる。

「ひゃ、冷た、い!」
「あったけー……」
「あ、嵐くん、手が」

 ネクタイを緩めるとぽさりとベッドの下に落とす。シャツをくつろげながら、パジャマの下の彼女のわき腹に手を滑り込ませた。指先は相変わらず冷たく、くすぐったさも相まって思わず声が漏れる。

「ひゃ、やめ…! ふふ、」
「こら、笑うなって」
「だって、あはは、……ひゃっ!」

 腰のくびれを撫でられ、思わず身をよじる。するとその動きに合わせて、ズボンと下着を一緒にずり下ろされてしまった。上だけパジャマという奇妙な格好にした後、不二山は彼女に馬乗りになったまま自分の服を脱いでいく。
 鍛え上げられた上半身が露わになり、再び彼女の顔の横に不二山の手が付かれる。長く伸びたその腕を辿ると、暗がりの中嬉しさを噛みしめているような不二山の目に辿りついた。

「悪ぃ、やっぱお前に触りてえ」

 ゆっくりと唇が降りて来ては彼女の耳をくすぐる。楽しそうに笑って顔をそむけると、それを追いかけるようにもう一方の頬へと。上から上体が押し付けられ、生地越しに不二山の体温が伝わる。先ほどより随分暖かくなっており、時折どくんと心音が響いた。
 それがなんだか愛おしくて、肩口にキスを降らせていたその頭をぎゅっと抱きしめてやる。髪は未だ冬の寒さを残したままであり、その少し硬い髪をたどたどしく撫でると、嫌がるでもなく、こてん、と顔を彼女の方に傾けた。安心しきった大型犬みたいで何だか可愛い。

「……おちついた?」
「ん、ちっとは。……でも、全然たりねー」

 名残惜しそうに頭を上げ、体を起こす。腕を体の下側に持っていったかと思うと、聞きなれたベルトの金属音が響いた。待って、と言う間もなく露出されていた太ももの付け根に、ひやりと冷たい感覚が這う。

「あ、や、広げちゃやあ…!」

 がっしりと掴まれた太く長い指の感触が、内腿の筋を刺激する。無理やり開脚させ、中央に落ちるくぼみに親指を乗せては僅かに伸ばす。そのたび、ぷくりと閉じられた肉襞の下側がぷちゅ、とめくられ上の口から「あっあっ」と短い嬉声が上がった。
 そのまま彼女の腰を引きよせ、代わりに自身の下半身を寄せる。冷たい全身の中、そこだけ熱くいきりたっているそれが割れ目の中央に押しあてられ、やがてゆっくりと中に押し込められていく。

「ふあ、あっ、熱い…!」
「お前、中も暖かい、んな」

 背後から見ると、不二山の広い背中ごしに、足だけが左右に広げられて見える。そのつま先はぴんと力が込められており震えていた。淫靡な水音を立てながら、ペニスは狭い膣内を抉るように進んでいき、やがて最奥に収まるとゆっくりと不二山から呼吸が漏れた。
 背中を丸めるようにして、顔を赤くして耐える彼女を見下ろす。その顔の横に自身の顔を伏せ、広い肩幅で彼女の小さな体を覆った。ふっ、と短い呼気を漏らしながら、なおも奥に奥にと腰を進める。ぬちぬちと体の中から響く音とともに、二人の体温は徐々に上がっていき、そのたび組み敷かれた彼女は痛みに耐えるようにして、腰をくねらせていた。

「ん、やっぱ、気持ちい」
「あ、あう、あああっ、やあ、ら、あ……!」

 ん、と音になる前に、びくんと彼女の体が大きく震えた。途端に押しこまれていた肉棒もぐちゅぐちゅっと絞めつけられ、不二山もヒュッと息を飲む。何とか耐えきったようで、一度達した彼女に対し、未だ不二山自身は固く維持されたまま、彼女の中に収まっている。
 ゆっくりと体を起こすと、視線の定まらぬ彼女の姿があった。頬はピンク色に色づき、唇は二人の唾液でてらてらと光っている。いかにも誘っているかのようだ。

「わりい、もう一回、いいか?」
「へ……あ、やあッ……!」

 了承を聞く間もなく、腰を掴まれそのまま体を起こされる。丸まった布団側に不二山が背中をつけるように体を起こし、胡座をかいたかと思うと、その上に繋がったままの彼女を向かい合わせに座らせた。

「あ、や、まだ、なか、…!」
「これのが、お前の顔見えて、好きだ」

 下半身だけ脱がされたその姿のまま、足を大きく広げ不二山の腰を挟むようにして膝を曲げる。連結したままの秘部が見え、グロテスクな男根とそれを美味しそうに飲みこんで離さない、自身の下の口がそこにあった。それも不二山が腰を引きよせたことによって、にゅぶるという音とともに隠される。
 一方を腰に、もう一方の手を残されていた彼女の上着へと伸ばし、ぷちぷちとボタンを外していく。

「やあ、手、はなし、てえ…!」

 前をあられも無くはだけさせられ、続けざまにブラのホックも外される。いやいやと胸を隠そうとするが、その腕を掴むと不二山の首に回させられてしまった。腰にあった手がするすると背中へ上り、胸の谷間に不二山の顔がうずめられる。
 まだ少しだけ頬と鼻が冷たく、ひくんと体を震わせながらも、谷間を走る熱い吐息に体をよじる。その間も結合したままのそこは、きゅんきゅんと不二山自身の形が分かるまでにひくついていた。

「ん、あ、あっ…! やあっ…!」
「やっぱお前、あったけえ」

 上体に上手く力が入らず、不二山にもたれかかるように体がしなだれかかる。豊満な双丘が二人の体の間でごむまりのように形を変え、互いの固くなった乳首がこりこりと擦れあった。そのたび、ふあ、と溜息が洩れ、更にバランスが崩れてしまうという悪循環。
 やがて堪え切れなくなったのか、不二山の両手が彼女の腰の左右を掴んだ。そのまま尻を前に押し出すかのように、腰を突き出し下から激しく突き上げてきた。

「……っあ、ふッ…!」
「ああ、あああっ、やあ、こわれひゃ…!」

 長い指は彼女の小さい尻付近にまで伸び、無意識にかくぱりと開かれる。臀部をわしづかみされ無理やり開かれている感触と、その前方で幾度となく抜き差しを繰り返す性器。膣内を滑る剛直はたぎるように熱く、彼女が二度目の達しを得た後でも、醒める気配がない。
 乱暴に何度も貫かれ、がくがくと震える体を支えるかのように、不二山の首に回した腕に力を込める。するとそれを「もっと欲しい」と勘違いしたのか、更に律動の激しさが増した。
 温度差のあった二人の体はもう完全に同化しており、結合部から溢れるとろとろとした蜜が足に触れるたび、二人で溶けているのかと錯覚した。そうして三度目の絶頂を迎えた刹那、不二山から小さな呻き声が漏れ、ぶわ、と膣から白濁とした液体がこれでもかとばかりに滴り落ちた。

「あらし、くん、ああああああっ…!」

 その液体を塗り込めるかのように、反り立つ凶器がびちゅ、びちゅん、と音をたてさせながら彼女の中を何度も何度も蹂躙する。そのあまりの熱さに彼女は意識を手放し、不二山もまた最後の一突きを終えた瞬間、深い息をついた。






 翌朝目が覚めると、その枕元に見慣れない綺麗な箱があった。

「これ……プレゼント…?」
「ん、やっと起きたか」
「!」

隣から聞こえた声に慌てて振り返る。みれば一糸まとわぬ不二山が、相変わらず目を眇めたあの顔で彼女の横にいた。

「もしかして、昨日のあれって……」
「起こすつもりはなかったんだけどな。それ置いて、そこらのソファで寝るつもりだったんだけど、お前、起きるから」

 くく、と笑いを浮かべる不二山にむうと頬を膨らませてみせ、枕元に置かれたプレゼントを手に取る。丁寧に包装紙をはがすと、中からは布張りの小さな箱。それをおそるおそる押し開くと、布の合間にシンプルな銀の指輪が挟まっていた。

「嵐くん、これ…!」
「ああ、昨日出来たから取ってきた」

 言いながら、不二山は指輪を取り出し彼女の左手を取る。そしてするりと薬指にはめた。

「よし、丁度いいな」
「……ずるい」
「ん?」
「私てっきり今日帰ってくると思ったから何も準備してないし、それなのに嵐くんはこんな、私を喜ばせて、ばかりで、ずるい……」

 彼女の手を掴んでいた不二山の手に、二三水滴が零れる。その冷たさにかすかに笑うと、少しだけ体を起こし、座って俯いたままの彼女の唇に下からすくい上げるように口づけた。

 
(了) 2011.02.11

嵐サンタ企画に寄稿していた作品です

主催の菜花様、大和様ありがとうございました!

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