泣き声で、なんて、理解できない。
「ああ、もう、どうして俺の顔を見たら泣くんだお前は!」
両耳をふさぎながら、設楽は閉口していた。その目の前には、わんわんとけたたましく響く乳児の泣き声で溢れかえるベビーベッドがある。
手を伸ばせば更にその音量が増し、戻そうにもわたわたと身じろぎしてしまう。そんな設楽の様子に気付いたのか、居間で洗濯物を畳んでいた彼女が慌てて駆けつけてきた。
「あああ、さっきやっと寝かしつけたんですから邪魔しちゃだめです」
「じゃ、邪魔なんてしてないぞ!」
「眠たいところに来るからびっくりしちゃったんですよ、もう」
ねー、怖かったねーと言いながら設楽に対するものとは打って変わったような優しい眼差しになると、泣き続ける我が子を抱き上げては、なだめるようにとんとんとその背中を叩く。
なすすべも無く手を伸ばしたままの設楽をよそに、先程までの火のついたような泣き声は徐々に収まり、やがて静かな寝息を立て始めた。鮮やかとしか言いようがない。
「……寝たのか?」
「うとうと、って感じです。昨日夜に起きちゃったから、眠いんでしょうね」
彼女の腕に抱かれているそれを見る。小さくてまだ言葉もしゃべれない、母親の愛情を一心に受けて幸せそうにしている――俺の、子ども。
ふやふやとして何が言いたいのかも、何が不満なのかも分からないが、この弱々しい存在が自分と彼女の血を受け継いでいるのだと思うと、何だか不思議な気持ちになる。そして同時に、やや悔しい気持ちにも。
「よく分かるな。しゃべりもしないのに」
「いつも一緒にいるから分かりますよー」
その通り、子どもが生まれてから彼女は愛情の全てをそちらに向けるようになってしまった。世の母親として当たり前と言えば当たり前の事なのだが、当の設楽としてみれば家の中で自分一人置いていかれているようで何だか不満だ。仕事も遅い時間になることが多く、家に帰った時は寝顔しか見れないこともしばしばだ。
かといって、その溝を何とか埋めようと、たまの休みに我が子を抱き上げようとすればこの結果。一体どうしろって言うんだ。
「聖司さんもすぐに分かるようになりますよ」
「……もういい。俺も寝る」
再びベッドに戻され、静かな寝息を立て始めたそれを見、設楽は眉を寄せた。
親子の交流が図られなかったのは残念だが、思えばしばらく取れていなかった休日だ。スキンシップは諦めて、ゆっくりと寝る事にしよう。
――そのはずだったのだが。
「おい! いないのか!」
夕方、けたたましい泣き声に飛び起こされた。何事か、と発信源に駆け寄ると案の定、半端な時間に起きて母親がいないことに気付いた我が子が、サイレンのような大音量でびわびわと泣き叫んでいた。オケの収録でティンパニやらシンバルは聞き慣れているが、これは堪らない。
おまけに当の彼女は買い物にでも出かけてしまったのか、家にいる気配がない。仕方なく抱き上げるが、手向きが悪かったのか更に一オクターブ音域が上がった。
「あああ、ほら、泣くな、――おい!」
顔を真っ赤にして泣き叫ぶ姿は痛々しく、何とか宥めようと彼女がしていたように見よう見まねで体を揺すってみる。だが慣れないその動きはやはりぎこちなく、子どもにもそれが伝わるという悪循環だ。
「だから、ああ、もう、どうしたらいいんだ……!」
その時、早く帰ってきてくれ、という切なる願いが届いたのか、玄関のドアが開く音がした。助かった、とばかりに名前を呼ぶと、何があったのかと目を丸くした彼女が飛び込んでくる。
「もう、聖司さんだから起こしちゃだめって――」
「言っとくけどな、今回は俺のせいじゃないからな!」
設楽の反論もそこそこに、彼の手から子どもを抱き上げると慣れた様子であやし始める。一体何が違うのか、設楽には全く分からないが魔法とも思える手際の良さで、泣き声はゆっくりと収束していった。
やがて完全に落ちついた様子を見て、ほっと息を吐く。だがその後、ふつふつと我慢していた感情が浮かんで来た。
「大体何でこんなに泣くんだ!」
「赤ちゃんなんだから仕方ないですよ。泣くのが仕事みたいなものなんです」
「それにしたって……」
「もう、どうしてそんないじわる言うんですか!」
見れば彼女がむうと眉を寄せているが、設楽の方も譲らない。子どもが泣く事は理解している。だが、言葉にはしにくい何かが設楽の中にあり、どうしても冷静になれないのだ。
紺野がこの場にいたらきっとこう言っただろう――「設楽、子どもに嫉妬するなんて見苦しいぞ」と。
「――出かけてくる」
彼女の返事を待たずに、コートを羽織ると飛び出すようにして家を後にした。
「……子どもに嫉妬するなんて見苦しいぞ」
「……」
一文字たりとも間違いのない提言に、設楽は苦虫をかみつぶしたような表情になった。勢いのまま家を飛び出してみたものの結局行くあてもなく、仕方なく紺野を呼び出しては男二人寂しく飲んでいるという始末だ。
「嫉妬なんてしてない。どうしたらいいか分からないだけだ!」
「威張って言うことじゃないけどね……」
紺野がグラスを傾けたのに合わせて、設楽もぐいと飲み干す。強くはないが苦みの強いそれが嚥下し、目がさめるようだ。
「大体すぐ泣くし、俺が抱いても泣きやまないし、あいつはそっちばかり構うし」
「子どもは泣くものだし、設楽の抱き方が下手なんだろ。彼女は母親なんだから仕方ない」
「だからって……」
「設楽」
カランと大きく透き通った氷が音を立てる。
「女性はね、僕達が父親になる十ヵ月も前から『母親』なんだよ」
「……」
「だから、僕達男は少しくらい寂しくても、我慢しなくちゃ」
設楽も頭では分かっている。
彼女が子どもにかかりきりになるのは当たり前の事だし、毎日泣いたりミルクをあげたりと疲れていること。本当は自分も子どもと遊びたいし、彼女とも変わらずいたい。
だが、予測不可能な行動をする赤ん坊に、設楽が躊躇しているのも違いないのだ。
「というか、正直のろけにしか聞こえないんだけど」
「な、ち、違うぞ! 俺はただ――」
「でも、可愛いんだろ?」
う、と言葉に詰まる。自分と彼女の血を引いた子どもだ。可愛くないわけがない。
詰まる言葉を肯定と受け取ったのか、更に紺野はやれやれと首を振り、自らのグラスをあおった。
「ほら、こんなところで飲んでる暇があったら早くケーキでも買って帰りなよ」
「何でケーキなんだよ」
「仲直りしろってこと。どうせ喧嘩して飛び出して来たんだろ」
ずばりと言い当てられたことに反論する余裕もなく、しばらく押し黙っていたがゆっくりと席を立った。
「……ここは俺が出す」
「帰る気になった?」
「……」
答えはなく、着なれたコートの裾だけがかすかに音を立てる。足早に続く靴音、それがカツと止まり、設楽の言葉が静かに残った。
「紺野、お前もそろそろ誰かいないのか?」
「……君がそれを聞くかなあ」
設楽が店を後にしたのを背中で感じ取り、残された紺野は一人深い息をついた。
今頃慣れないショーケースなんか眺めて、迷った挙句全種類とか言って買っているんだろうか、と考えたところで思わず笑いが零れる。
「すみません、もう一杯」
「何にしますか」
「強いのを。――色々、忘れたいんで」
溶けかけた氷が再びグラスでカランと音を立てた。
「……聖司さん、これ」
「たまたま見かけたから買ってきた。好きなの食べろ」
玄関で彼女が困惑するのも無理はない。渡されたのはホールケーキでも入っていそうなサイズの箱で、恐る恐る中を見ると幾つもの種類のショートケーキが並んでいた。明らかに店の商品全部、という感じで、間違っても三人家族で食べる量ではない。
おそらく飛び出した気まずさからだろうか、と笑いそうになるのを堪え素直にお礼を口にする。
「……ありがとうございます」
「……ふん」
素直ではない返事を返しながら、冷え切った外套を脱ぎ、ベビーベッドのある寝室脇へと足を進める。恐る恐る覗き込むとそれはすやすやと穏やかな寝息を立てていた。
「……寝てるな」
「夕方いっぱい泣いたから、疲れたんでしょうね」
白い肌につやつやとした頬を膨らませ、小さな口を半端に開いて幸せそうに眠っている。その姿を見、先程の紺野の言葉を思い出す。今なら言えそうだ、と勇気を振り絞るその背中に、設楽より早く彼女の言葉が届いた。
「今日はごめんなさい」
「な、何がだ」
「思わず怒っちゃって、その、……」
語尾が小さくなる彼女の姿を見て、同時に自分が恐ろしく情けなくなるのがわかった。勝手に怒って、こいつを困らせて、ああ、俺は何をやってるんだ。
「お前は悪くない」
「……?」
「お、俺が、……悪かった」
振り絞るようにして紡いだその言葉に、彼女はしばらく驚いていたが、やがて眼を眇めるとゆっくりと設楽に近づき、その両手を取った。
「じゃあ、仲直り、ですね」
「……いいのか?」
返事の代わりにとん、と設楽の胸に彼女の頭がもたれかかった。久々に触れるその柔らかい感触に、設楽もその腕を彼女に回す。少しだけ力を入れると、それに応えるように顔を上向かせキスをせがむ。
その様子があまりに可愛らしく、抱きこむように口づけを落としてやると、長い沈黙の後ぷは、と息継ぎをしてはとろんとした目をしていた。たまらず抱き上げると、薄暗い部屋の中、静かにベッドに寝かしつけてやる。
「あ、その……」
離れて眠る子どもの様子をちらちらと伺う彼女をよそに、コートと上着を脱ぎながらたびたび口づける。その度顔を真っ赤にしながら受け止める彼女のいじらしさに、更に嗜虐心が疼いた。
「ほら、静かにしていないと起きるぞ」
「で、でも……んんッ!」
普段より抑えられた声を聞きながら、白いカットソーをめくり上げる。以前より肌触りの良くなった平たい腹を設楽の手が滑り、先ほどまで外にいた冷たさが手の平から彼女に伝わる。あまりの冷たさに思わずびくりと体が跳ねた。
そのままゆっくりと馴染んでいく体温に合わせて、今度はブラジャーに手をかける。先ほどの冷たい刺激で立ち上がってしまった先端を厚い生地越しにくに、といじりながら、ふと設楽が呟いた。
「……お前、大きくなったよな」
「な、何が…?」
「いや、……何でもない」
何故かうすらと頬を染めている設楽を見、彼女も混乱するが、そんな困惑を知る由も無く、上体を屈めてはその谷間の生地に手をかけた。く、とわずかな引っかかりに彼女の短い制止の声が聞こえるが、そのまま引き下ろしてやる。すると以前より格段に大きくなったそれがまさにぶるん、という感じで設楽の眼前に晒された。
その白い果実に頭を寄せる。甘ったるい匂いのする谷間と、そこから辿るように乳房に、そして先端に。設楽の吐く息は熱く、代わりに外気にさらされた冷たい頬や鼻先が彼女に触れ、すごくくすぐったい。
「聖司さん、あの、あんまり、される、と…!」
「何だ?」
カットソーとずらされた下着の隙間をついばむことに不便を覚えたのか、設楽の手が彼女の背に回される。プチ、とホックの外れる音がし、自由になったそこに更に設楽の唇が降りてきては、硬く尖った乳首にちょんと舌先を触れさせた。薄い唇が挟み込むようにそれを食む。
その時、わき腹からぞくりと走る感覚が彼女を襲った。
「あ、だ、……んっ…!」
「……!」
刹那、設楽の咥内にじわりとした何かが広がった。体温に近いそれはかすかに鉄の匂いがし、わずかに甘い。最初は何だ? と思っていたが、彼女の取り乱す表情と状況からそれが何かをようやく察した。
「ご、ごめんなさ……なんか、ぞくってなっちゃって、それで……」
「気にするな。別に嫌じゃない」
涙目の彼女がほっとする間もなく、ふん、と意地悪な笑いを浮かべると離れるどころか逆にそこを執拗にいじり始めた。片手で余るほどに発達したおっぱいを緩く揺すりながら、なおも液体を漏らす乳首をちゅ、ちゅうと吸い上げてくる。
子どもに吸われているのとは全く違う感触に彼女も困惑し、必死に設楽の柔らかい髪を抑えて懇願するが、回した腕のためかまるで設楽に授乳しているかの様で混乱してしまう。なんて大きい赤ちゃんだ。
「あ、あの、聖司さん、あんまり、やっ」
「……ん、あいつはいつも飲んでるんだろ」「それは、当たりま……やっ、もう!」
舌先でくりくりと窪みを撫ぜられ、先端からそれがじわりと滲みだすと口をすぼめ、んく、と吸いつかれる。零れおちる乳房を寄せ上げるように掴み、乳首を押し出すようにもにゅもにゅといじめられる。同時にもう一方の頂点は親指の腹で何度もこりこりと擦られ、指とそれとの間を暖かさをもつ液体がにちゃと滑っていた。
ようやく口を離した後、はふ、と吐きだされた設楽の息が鎖骨にあたり、びくんと体が震える。気付けば冷たかった彼の手も、徐々に彼女の体温と同調していた。
「あ、も、やあッ……!」
口での否定とは裏腹に髪を押さえつけていた彼女の腕は設楽の首筋を撫で、力なく掻き抱くように伸ばされている。その指先の滑らかさに設楽も誘われるように先端にむさぼりついた。舌の腹でぺちゃ、と何度も舐め上げ、溢れたそれを今度はじゅ、と吸いつくす。
やがてちう、と強く吸い上げられた一瞬、彼女が小さく悲鳴を漏らした。抱き寄せていた体が弛緩するのを察し、設楽はゆっくりと体を起こす。
「何だ、イったのか?」
息をするのに必死な彼女からの返事はなく、設楽はべたべたになった左手の指先を舐めた。何度も摘みあげられ零れたそれが、設楽の白い指先に纏わりついている様はいやらしく、思わず目を覆いたくなる。しかし、そんな彼女の前で彼の薄い舌がちると自身の指を舐めていた。妖艶な笑みを浮かべながら、暗がりでも分かる赤い目を眇める。
「――甘いな」
「……、も、う…!」
真っ赤になりながら抗議しようとする彼女をよそに、設楽は残されていたジーンズと下着を脱ぎ去り、未だ力の出ない彼女を抱え上げるとくるりと自身の上に抱きかかえた。
「ほら、脱げ」とか何とか言いながらまくられていたカットソーを取り払い、前を開けられたクロップドパンツの背中側に手を差し入れられる。お尻を撫でるように下着とそれがずり下ろされ、膝まで暴かれた所で設楽を跨ぐような体勢に促された。
「あ、あの聖司さん、私、その……」
「……怖いんだろ」
「……う、」
目の前に寄せられた壮大な谷間に目を奪われながら、彼女の言わんとすることを察する。やはり出産というものは、女性には大きな境らしく、以前事に及ぼうとした時も怖がってやめた経験があった。しばらく時間を置いたものの、やはり自身の体の変化にまだ慣れていないのだろう。
「無理にとは言わない。お前が出来るところまででいい」
「…で、でも」
「……俺がすると、抑えが効かないんだよ」
言いながら目をそらす設楽の様子に、困惑していた彼女もふっと顔を緩めた。やがて観念したかのように、ゆっくりと設楽のそれに手を伸ばす。
「……くっ」
滑らかに撫でられる感触に、頭をもたげていた下半身が直に反応する。徐々に立ち上がるそれを包み込むように、彼女の腰が下ろされると陰毛とその割れ目に性器がぴたりと添うた。
このまま腰を掴んで入れてしまいたい、という葛藤を必死に堪え、彼女が動くのに任せる。慣れない仕草で擦りつけるように前後し、その度漏れだす透明な液体が二人のそこだけをべちょりと濡らした。太ももと比べて格段に熱いその肉棒の形が、赤く熟れた襞を通じて彼女にも伝わる。
「せ、せいじさん、だ、だいじょうぶ…?」
「……あ、ああ、気にするな」
その言葉にほっとしたのか、柔らかい体が更に密着する。設楽の体の横に手をつき、ゆっくりと体を前に倒すと、その豊かな胸が丁度設楽の目の前にさらけ出された。正直これだけされて尚お預けが出来るのは、よく訓練された紺野くらいだろう。
腕を伸ばし、下からおっぱいを持ち上げるように掴みあげる。突然の反撃に彼女は慌てて体を起こそうとするが、そのまま再び乳首に吸いつかれてしまう。
「ん、やあ、…!」
下半身には今にも襲ってきそうな熱い塊。不安定な上半身は設楽に固定され、防ぎようのない姿勢のまま下からちゅくちゅくと吸われてしまい、体が崩れないように保つのがやっとだ。設楽がちゅぱ、と吸いつくたび、先端から背中にかけてぞくりとした刺激が走り、たまらず腰を設楽に押しつけてしまう。
設楽もそれを感じ取ったのか、勃ちあがったそこを僅かにずらし、襞の入り口に導いてやる。それに乗せられたかのように、雁首をひっかけたかと思うと、ほんの少しだけ吸いつかれた。奥に蠢くじゅくじゅくとした感触を思いだし、設楽も辛そうに息を吐く。
「ご、ごめんね、…」
「……いい。お前がしたいようにしろ」
ふ、と零れた設楽の笑顔に申し訳なく思いながら、じんわりと腰を進める。やはりいきなり進むのは怖く、くち、くち、と小さな気泡を押し出すような音を立てながら、先端を飲みこんでいく。一方の設楽も急かすわけではなく、彼女が怖がらないよう、されるがままに甘んじている。
気付けば胸も解放され、彼女は体を起こすと挿入に集中を始めた。半端に刺激された乳首から白濁とした液体が筋をなし、二人の結合した先まで零れおちるさまが何ともいやらしい。
設楽の先端から溢れた我慢汁と彼女が零す愛液と滴が潤滑油のように秘部をぐちょぐちょに混ぜくり、更に腰が進む。奥まで突っ込んでがくがくと揺さぶりたい、そんな欲望を必死に抑える設楽の元、ようやく全体が彼女の中に収まった。
「大丈夫か…?」
「う、ん……でも、怖いから、ゆっくりで、いい…?」
ああ、という答えとともに、ベッドについていた手に設楽の手が重なる。すっかり同じ温度になったそれを嬉しく思いながら、体の中心に挟まった体勢のまま、設楽に口づけを落とした。
ついばむような口づけに、設楽もからかうように答える。けして性急に突き立てることはなく、繋がっているそこだけが熱くて心地よい。ぬるぬるとしたその感触に慣れた時、ようやく腰を少しだけ引いた。
「あ、……んん…!」
「……っ、は、…痛くないか?」
「ん、きもち、い……」
じゅるじゅると膣の中を熱いそれが滑って行き、腰から背中へと堪らない甘みが走り上がる。再び静かに中へと誘い込み、ゆっくり何度も扱くように彼女が動く。激しさはないが暖かく、気を抜けば持って行かれそうになる意識を必死に引きとめながら、設楽もまた彼女の中をしっかりと味わっていた。
時折、気遣ってくれているのか設楽の手が彼女の腰に添えられ、す、と手首を返すようにして撫でられる。何でもないその動作が、逆に欲を誘い、頭の中まで真白になる。
「せいじさ、あの、も、う……」
「……ふっ、あ…ゆっくりでいいから、な」
既にガチガチに固まっている設楽自身をきゅんと締め付ける。押し込められた肉の間でその形がはっきりと分かるようだ。そのまま力を抜き、ぞる、と腰を上下させる。次第に擦りつけてくる速度が上がり、設楽の息も同じく上がっていく。
いつの間にか上体を支えきれなくなった彼女は設楽の胸の上に倒れこみ、腰だけをがくんがくんと動かしていた。その度柔らかな双丘が彼の腕や顔に押し付けられ、自然とペニスへと血液が集まる。熱くどろどろと溶けるようなナカで、何度も何度も扱かれるその快感に、もう無理だ、と設楽の頭によぎった一瞬、ある一点で彼女が小さく声を漏らした。
合わせて精液を搾り取られるように性器が圧迫され、油断していた設楽からも間もなく白濁がごふりと溢れる。あ、と思う間もなく彼女の体重が全身にかかり、はあ、と深いため息だけが残った。
「……ッは、…はあ……」
疲れたのかぐたりとしなだれかかる彼女を見、繋がったままの秘部もそのままに乱れた髪を直してやる。正直まだ設楽の熱は収まってはおらず、このまま組み敷いてごりごりと突いてやろうか、と意地の悪い考えも浮かんだが、自らの胸の上で静かに寝息を立てる伴侶の姿に、今日のところはこれで見逃してやろうと静かに笑った。
「……」
翌日、設楽は再びベビーベッドの前で眉を寄せていた。すやすやと眠る我が子を見、驚かさないよう気を付けながらこっそりと手を伸ばす。
「……」
ぷにぷにとしたほっぺたをつつくと、ふや、と小さな口を緩めた。その様が彼女に似ている気がして、設楽にも笑顔が移る。そのまま興味深げにこれもまた小さな手に移動する。ちょい、とつつくと短い指が開かれ、設楽の指先をきゅっと掴んだ。
驚いたのは設楽の方だ。
「……お、おい!」
「どうしたんですか? そんな小声で…」
「見ろ! こいつ俺の手を握ったぞ!」
しっかりと握られたそれと、洗濯物を畳み終えこちらを見る彼女とを何度も見比べ、嬉しそうに笑っている設楽の姿に、彼女の口にも笑みが零れる。
「しかし手が小さいな……鍵盤に届くか?」
「ま、まだちょっと無理ですよ!」
そうか? と本気で考え始めた設楽を見、熱血な先生になりそうだなあ、と我が子の将来を少しだけ案じた。
(了) 2011.2.3
200,000hitありがとうございました!
はいみなさんご一緒に! 紺野自重!