「やっぱり一日は人多いですね〜」
「全く、何であんなにぞろぞろぞろぞろ人がいるんだ……」
新年の初詣を終えて、ようやく設楽の部屋に落ちついた二人はやれやれと息をついた。毎年の恒例とは言え、どうしてああも人が多いのか。おまけに後ろから投げられた賽銭が頭に当たるわ、おみくじを引けば凶が出るわで新年早々ついてない。
「そういえばお前、随分長く祈ってたが何をお願いしてたんだ?」
設楽のその問いに、向かいに座っていた彼女の頬が少しだけ赤くなる。薄い藤色の振り袖に身を包み、明るい色の髪を今日は丁寧に上げ、その端からはしゃりしゃりと音を立てる簪飾りが揺れていた。
彼女の着物姿は初めてではないが、いつもと違う髪型に不思議と匂い立つような色気がある。
「えっ、と、何でも、ないですよ?」
「……目をそらしながら言っても説得力無いぞ」
全く、と小さくこぼしながら熱い紅茶をのどに流し込む。こいつの願い事なんてたかが知れてる。どうせ学業成就とか健康祈願とか、いや下手すると交通安全かもしれない。付き合う前に二人で行った初詣では、鳴らした後何か声が聞こえたかのようにきょとんとしていたのを思い出す。
(……まあ今更恋愛成就なんてされても困るしな)
意地悪く見つめる設楽の視線に気づいたのか、慌てたように彼女もテーブルに置かれたカップを手に取る。体を傾けたその時、先ほどまでキラキラと小さな光を反射していた髪飾りがするりと抜け落ち、毛足の長い絨毯の上へ音も無く落ちた。
あ、と急いで拾い上げ、髪に戻そうとするも自由の効かない着物であることや、慣れない髪型であることが災いしてか、なかなか元に戻せずもたもたとする彼女の様子を見て、向かいで溜息が落ちる。
「……貸してみろ」
「すみません……」
長い指が簪の先を伝い、くるりと向きを変える。立ち上がると彼女の座るソファへと移動し、後ろ向くその髪にそっと差し込むと改めてその首筋を眺める。
「で? ほんとは何を願掛けしてたんだ?」
「だから秘密で……」
「言わないとまたこれ抜くぞ」
くい、と差し入れた簪を動かす。えええ、と小さい悲鳴が零れ、その後か細い言葉が続いた。
「ええと、一緒にいれますように、って」
「一緒に?」
その言葉に設楽の頬が緩む。何だこいつ、俺と一緒になんて、そんな当たり前のこと神様に頼む必要なんてないだろ。
だが、ふふんと得意げに他の髪飾りの位置も直していた時、願い事の続きが嬉しそうに紡がれていく。
「はい。みんなと一緒に、いられますように、って」
「…… みんな?」
ひたと手が止まる。それはつまりあれか、俺だけじゃなくあのキューティーやら桜井兄弟やら、もしかしなくても紺野のことも入っているのか。
もやもやとした感情だけが腹の底にたまり、髪を整えていた手を止める。そのまま体を屈めると白くのぞくうなじにそっと唇を触れさせた。
「ひゃっ!」
案の定肩をすくめるように飛び上がると、慌てて設楽の方に振り返る。そこを狙いを付けたかのように、今度は唇を合わせる。噛みつくように息が零れ、舌が奥へと差し込まれる。
「ん、むぅ……っふ…!」
何とか酸素を取り込もうと、口を開くと更にくち、と咥内を蹂躙されてしまう。普段とは違う性急なそれに、頭の中がぼんやりとし、くたりと力が抜け始めた。やがて満足した設楽がようやく離れたが、綺麗に塗られていた口紅が、今は彼の唇に歪に移っている。
「はぁっ、あっ……先輩、何を」
「うるさい。お前がぼけっとしてるからだ」
――俺は、お前とずっと一緒にいられたら、と願いをかけたのに。
この気持ちの意味は分かっている。だが、そんな子どものような我がままを彼女に言う訳にいかない。一方彼女は何が設楽の加虐心に火を付けたのか分からないままただただ驚いており、その姿に更に支配欲を煽られる。
「し、設楽せんぱ、だめ…!」
「あーあー聞こえなーい」
お決まりの言葉を口にしながら、ソファの端に逃げる彼女を追いつめる。背もたれと肘掛に手をかけると、設楽の影の下で目を丸くしている彼女と目があった。そのまま一方の手を伸ばしせっかく整えてやった髪飾りを一つ、また一つと外していく。
やがて全て外された時、彼女の髪がしゅるりとほどかれ僅かに肩にかかった。少し癖のついたそれを梳いてやり、また上から口づけを落とす。
「ね、も、お願いだから、今日は」
「なんでだ」
「き、着物、一人じゃ着られないから…!」
ああ、と設楽が何かに気づいたように目を開いた。ほっとした様子で体を起こす彼女であったが、すぐに横から長い腕が回される。
「あっちょっ、やぁ」
背中側から抱きすくめられ、探るように袖のすぐ根元にある身八つ口に手を差し入れる。冷たい指が襦袢と肌着を潜り抜け、下着の押し包まれた胸へと添う。合わせて首元の合わせ目が浮き上がり、右に左にと互い違いに円を描くようにゆすぶられた。
いつしかブラも下にずらされ、着物の下でぷくりと立ち上がった乳首が肌着に擦れる。それを探しだしたのか、全体を鷲つかむようにしていた設楽の指が伸ばされ、くり、と先端を弾かれた。たまらずびくりと肩をすくませる。
「も、これ以上崩れたら、直せな…」
「なんだそんなこと。気にするな」
なおも遊ぶように設楽の指先が先端をつつく。時折根元をつまみあげたかと思うと、つんととがったそれをくにゅ、くにゅと両方とも押しつぶしてきた。たまらず身を屈めると、抱きこむように設楽の背中が首筋に触れ、布越しに体温が伝わってくる。
彼女の息が上がってきたのを察したのか、今度はする、と着物の裾に手が伸びてきた。止めようと彼女も手を伸ばすが、設楽の腕と絡まるだけで、強引に合わせ目を開かれる。
いやいや、と涙目になりながら後ろにいる設楽に視線を送る。だが一瞬目があったものの、目の下にキスを落とされると再び侵攻が始まる。
「あん、まり…すると、よごれちゃ…んあっ」
「だろうな。汚さないよう気をつけろよ」
まるで他人事のように聞き流し、着物と襦袢、白い肌着とめくっていき、花びらの中央にあるそこに二本指を滑り込ませる。言葉通り、既にじゅくりと潤んだ秘部に指を添わせ、下着越しにクリトリスを押しつぶす。じゅわ、と染み入るような愛液が設楽の指に付き、その有様に満足したのか、人差し指でクロッチ部分をずらす。
べたりとした陰毛をかき分け下の方にある襞をめくる。くちゅ、と音を立てて二本指を当てると、ゆっくりとなぞる。奥を刺激されるでもないもどかしさと、上下する指先にまとわりつく分泌液が増えて行くのがはっきりと分かり、思わず短い嬉声が漏れる。
「おい、汚すなといったのはお前だろ」
くくっと背後で笑い声が聞こえ、最後の一突きと言わんばかりにじゅぶりと入口をなぞられる。そのまま掬い上げたそれを、彼女の口元に運んだ。むわりと雌のいやらしい匂いがする。
「ほら、綺麗にしなくていいのか?」
「む、んん…!」
僅かに開いていた口に設楽の指が押し込められる。先端はどろりとした自身の愛液に濡れており、親指と薬指で顎を支えられたまま、人差し指で舌の表面を探られる。あふ、と苦しげに息をもらしながらも設楽の指を丁寧に舐めていく。時折口をすぼめては、ちゅぱ、ちゅうと吸い上げられ、その蠢く感覚に設楽自身もぞくりとする。やがてねっとりと上下する感覚に、飲みこぼれた唾液が設楽の手を汚した。
そうして綺麗になった指をようやく解放したかと思うと、弛緩した彼女の体を前に倒し、ソファの肘掛に両手を付かせた。子猫が背を伸ばすような姿勢にされ、抵抗する間もなく開かれた裾をまくりあげられる。
「こうすれば汚れないだろ?」
帯を境に大輪の牡丹のように開かれたその中心を暴き、下着を指でずり下げる。流石にソファでは狭く、足袋だけ残された彼女の足の片方が、床に膝をついた。それにより赤く熟したそこが明らかになり、設楽は思わず息を飲む。
自身も右足を床に付き、不安定な斜めの体勢で前をくつろげる。既に膨張しきっていたそこに手を添えると、ゆっくりと鈴口を彼女のぽってりとした割れ目に添わせた。ぷちゅ、と水を孕んだ音がし、再び設楽の背が震える。
「ああっやあっ、だめ、したらせんぱい、も、ほんとに、やらっ…!」
「……いいぞ、もう少しじらしてやる」
ふあ、と小さな疑問符が浮かぶが、その答えはすぐに明かされた。そのまま入ってくるか、と思われたそれは、彼女の入り口をじゅる、じゅると上下するばかりだ。当然設楽から漏れだす精液と彼女自身が生み出している欲とが混ざり合い、ソファの布にぽたりと水滴が落ちる。だが、その動きを止めるでもなく、ただひたすらに緩く刺激を与え続けてきた。
「あ、ん、んん……せんぱ、…やあ」
「どうした? 嫌なんだろ」
四つん這いになったその姿勢から設楽の表情は分からない。だが、おそらく楽しそうにしていることは分かった。
にちょ、ぬちょ、とどろどろとした二人分の欲が太ももを伝い、次第にお腹の下の方がむずむずとし始めた。もっと、もっと、と腰が自然と揺れ始め、設楽のペニスを求める。ひくひくとひくつく入口に、先の窪んだ熱い質量が滑るたび、その全てを飲み込みたい欲にかられる。
「せんぱい、もう、いい、です…」
「何がだ?」
「汚して良いです、からぁ、先輩の、下さいっ…!」
その言葉を待っていた、とばかりに設楽は体を起こし、露わになっていたそこをつるりと撫でた。ひくんと尻を跳ね上げた反応の良さに満足し、着物の裾を押し上げるように彼女の腰を片手で掴む。
「いいぞ、……ほら」
ペニスに手を添え、彼女の蜜壺に鈴口を向ける。そのままくちゅくちゅと揺するとずりゅ、とゆっくり挿入を始めた。まとわりつく襞を丹念に味わいつつ、内壁を擦るように押し込んでいく。彼女が息をするたびきゅ、と締まる感触に、たどたどしく息を吐きながら滾るような熱さのそれで中を犯していく。
やがて全てが入ったのを確認すると、添えていた手をもう一方の腰に動かす。両手で彼女の腰を掴むと、ゆっくりと抜いた。
「ふあ、ああああ、ん、あっ」
「くっ……あまり食べるな…」
抜かせまいとする彼女の膣が、設楽自身に噛みついてくるかのように収縮する。きちゅ、と音を立て絞り出すように狭まるそこを味わいながら一旦ぎりぎりまで抜き、再びじっくりと押し進めて行く。肉感的な尻を左右に押し広げるようにしながら、じゅっじゅっと腰を押し付けて行くと、彼女の腰がびくりと跳ねた。それを無理やり押さえつけるようにしながらじゅぷりと子宮の入り口にまで到達する。
はあ、と息を吐き軽く上下に腰を動かす。そのたび彼女からあっあっとやらしい悲鳴が聞こえ、たまらずもう一度抜き差しを始める。
「ふっ……はあっ……!」
「はぁう、ん、あっ」
抜いては突きいれ、腰を押さえつけては激しくゆすぶる。彼女の尻に僅かに冷たい塊が触れ、キュンとする間もなく肉棒が引き剥がされる。摩擦により膣から溢れた透明な精液がこぽりと零れ、泡立つそれを再び設楽自身が奥へずりゅりと詰め込む。下の口は完全に熱さとぐしょぐしょしたそれで蕩けており、口からはだらしなく涎が零れた。回らない思考の中、ただ芯の通った質量のそれが熱く、何度も何度も貫かれた事だけが分かる。
「も、もう……わかんな、あ、ああああ…!」
「いい、わから、なくて…!」
悲鳴にも近い嬉声を残し、入口がキュンと締まった。当然設楽自身もぎゅうと締め付けられ、まずい、と思う間もなく奥に突きいれる。その瞬間、彼女の体内でたまりにたまったそれが開放されたのが分かった。彼女は既に気を失っており、設楽もまた眠りそうになる自身を奮い立たせ、なおもびゅるびゅると白濁の溢れるそれを擦りつけ、全て出し終えた後、たまらない充足感と暖かさに包まれたまま彼女の背を抱き寄せ、その首筋に口づけを落とした。
「どうしてくれるんですか!」
目が覚めて一番に飛び込んだのは、半泣きで帯を結んでいる彼女の姿だった。
「それはほどいてないぞ」
「もう崩れちゃってます! ああ、もう、戻せないのに…!」
あわあわとうろたえている彼女をしばらく見つめていたが、立ち上がりそのまま首筋にキスを落とす。また!? と彼女が見上げてくるのにやりと笑って見せ、部屋にあった電話の受話器を取ると、お茶の準備を頼むかのように切り出した。
「ああ、俺だ。着物を頼みたい……ああ、仕立て屋を寄こしてくれ」
カチャ、と置かれた受話器を見つめていたが、そのまま設楽は窓の方へ歩いていき、呑気に窓なんか開けている。部屋に充満していた情後の匂いが、冬の風に煽られて消えて行った。
「先輩、その、着物って……」
「ああ、着付ける着付けないより、作らせた方が早いだろ」
「……作らせ、って……」
「お年玉みたいなもんだ。気にするな」
「気にしますよ!」
結局泣きながら拒否されてしまい、彼女の友人が着替えの洋服を持ってくるまで、設楽は「バーゲンの日を狙っていく」だの「ポイントカードをためておく」だの、庶民の金銭感覚について懇々と確認作業をさせられたのであった。
(了) 2011.1.1
新年最初の作品でした! 今年最初の検索語句は「着物での体(バキューン)」でした! googleごめん!