かちゃかちゃと食器のぶつかる音がし、平面についた泡が流し落とされていく。おっふろおっふろーという意味不明な鼻歌と共に、次々と白い皿が乾燥棚に乗せられ、コップをひっくり返したところでキュ、と蛇口をしめる音がした。

「お風呂〜」

 一日頑張った自分へのご褒美。今日は何を入れようかと入浴剤を選び、着替えを準備していく。自動設定していた時間を知らせる電子音が鳴り響き、一人うきうきしながらタイマーを止める。
 と、その時。まるでイルカが飛び込んだかの様な大きな飛沫音が、かなり近くで上がった。

「な、なに」

 言っておくがここは水族館ではない。独身一人暮らしの小さな部屋だ。騒動の原因を考え、慌てて先程まで使っていた流し台を振り返るが、蛇口から水滴のひとつも落ちていない。となれば水があるのはもう一か所しかない。
 ぱたぱたと風呂場に急ぎ、浴室のドアを開ける。

「……へ、」

 そこには小さいバスタブから両手両足をはみ出すようにして、長身の男がいた。濡れた黒緑の髪に、利発そうな眼鏡。その下の目は、今は驚いているのか、真ん丸になっている。
 左手首には時計、もう一方の手首にはどこかのコインロッカーのカギらしき何かがあり、何より問題なのはその体。

「変態だー!」

 よりにもよって海水パンツ一丁だった。

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