>> 有意義な有給の使い方



「わ―すごい! 玉緒さん見て下さい!」

 子どものようにはしゃぐ彼女を見、紺野は肩に担いでいた荷物を下ろしながらつられるように笑った。
 彼女が紺野の妻となって一年。最初は新婚祝いを持ってきた設楽から嫌みを言われるほど甘い蜜月を過ごしていたが、徐々に紺野の仕事が忙しくなり、なかなか二人で過ごせる時間が少なくなってきていた。

「ほんとだ。景色がいいね」
「紅葉もよい季節ですね」

 久々にとれた二人だけの旅行。大きな案件が片づいたので、部署に無理を言って休ませてもらい、そのまま彼女が行きたがっていた温泉地に宿を取りたまの羽休めにと訪れたのだ。
 荷物を端に置き、ぐるりとあたりを見渡す。老舗旅館の趣ぶかいたたずまいに、窓から見えるのは燃えるような紅の山。温泉地らしく、そこここから白い湯煙が上がっている。

「玉緒さん! お風呂が!」

 彼女の嬉しそうな声が飛び、呼ばれるままひょいと首をのぞかせる。そこには奥のふすまを開けた彼女と、その先に広がる貸切の露天風呂があった。

「部屋ごとに付いてるのか……すごいな」

 露天の大浴場の有名な旅館だったが、どうやら各部屋にも家族風呂サイズの露天が併設されているらしく、小さいがこれはこれで趣がある。

「とりあえず、ご飯に行こうか」
「はい!」




 
 少し早めの夕飯を終え、二人仲良く部屋へと戻る。最近二人きりになれる時間が少なかったためか、隣行く彼女もどこか楽しそうだ。可愛いなあ、と心の中だけで呟き、部屋の扉を開く。

「……」
「は、早いですね」

 案の定というか当たり前というか、食事の合間に中居が布団を敷いていたらしく、ご丁寧に二人分ぴたりと隙間なくくっつけられていた。夫婦なのだから別に恥ずかしがる謂われもないのだが、改めて見ると何とも言えない気持ちになる。

 だが、その心地良い静寂を無機質な携帯電話の音が破った。ごめん、と彼女に視線を送り、カシと携帯を開く。

「はい」
『紺野先輩!? すみません休みの日にちょっと緊急事態でどうしましょう俺何を』
「……いいから落ち着いて。何があった?」
『それがこの前の案件バック取ろうと思ったらシステムにロックかけちゃって…』
「あのなあ……」

 家では見せない仕事用の声色でいくつかやりとりをしていたが、やがてため息をついて携帯を閉じた。その表情はわずかに陰っている。

「ごめん、ちょっとややこしいみたいだから連絡してくるよ」
「会社から?」
「うん。ちょっと時間かかりそうだから、先に休んでて良いよ」

 いつもの苦笑を浮かべ、彼女の髪をくしゃと撫でる。不安そうに見つめながらも、小さい「はい!」と微笑む彼女を残し、紺野はネットの繋がっている階下へと移動した。



 一時間、二時間。柱の大時計がボーンと暗い音を立てたのを合図に、紺野は大きく延びをした。最後に明日の指示を電話で伝え、やれやれと肩を回す。ロックの解除に加え、色々と質問も増えるわで休暇だか出張先だか分からない状態だ。

(さすがにもう寝てるよな……)

 静けさの降りしきる廊下を越え、彼女の待つ部屋へと足を運ぶ。本当は二人でゆっくり風呂に入って、しばらく取れなかった時間分一緒に過ごそうと考えていたのだが、それも叶わない願いのようだ。はあ、と再び小さなため息を落としふすまに手をかける。そこでふと、部屋から光が漏れだしているのに気づいた。
 もしや、と思いそっと開く。そこには窓際の椅子に腰掛けたままうとうとと船をこぐ妻の姿があった。

「あ、おかえりなさい」
「……あ、うん……いや、そうじゃなくてもしかして僕を待ってたの?」

 気配に気づいたのか、眠たそうな目が二三瞬き、笑顔に変わる。

「だってせっかくの露天風呂だから、一緒に入りたくて」

 紺野が「え?」と聞き返したことでようやく、自らの発言の大胆さに気づいたのか向かい合う彼女の顔がみるみる真っ赤に変わる。

「ち、違うの、一緒にって言ってもそういう意味じゃなくて」
「そういう意味じゃなくて? 何?」
「い、意地悪…!」

 ごめん、と囁きながらも顔が緩むのを抑えきれない。こんなに遅くまで待ってくれたことや、知らず自分と同じ思いでいてくれたことが、歓喜に近いような浮かれた気持ちを作りだし、たまらず彼女を抱き寄せた。
 とはいえ、時間も遅く大浴場も閉まるまであとわずかだ。

「いいよ、一緒に入ろうか」





 恥ずかしがる彼女をなだめすかし、タオルで隠したままという条件でようやく同意を得た。部屋ごとに併設されている露天風呂は小型だが、体を洗う場所もあるし二人で入るには充分だ。
 先に湯をかぶり、体を洗い終えた辺りで、ようやく蚊の鳴くような小さな声が部屋から漏れ聞こえる。

「玉緒さん、あの、本当に交代で、とか」
「だめだよ、せっかくのお湯が冷めちゃうし」
「うう……そんな―」

 穏やかだが有無を言わせぬ紺野の口調に、ようやく姿を見せる。言われた通りタオルで必死に前を隠し、耳まで真っ赤にした様子で恐る恐る歩いてきたかと思うと、その不安定な姿勢のままかけ湯をしようと腕を伸ばしていた。
 その様子がおかしくて、笑いながら小さな風呂椅子を指し示した。

「ほら、湯船に入る前に体を洗わないと」
「で、でも」
「なんなら、僕が代わりに洗おうか?」

 はいい!? と聞き返すまもなく、風呂椅子に座らせられたかと思うと、石鹸で泡立てられたタオルが背中に触れた。びく、と更に体を隠そうとする彼女をよそに紺野はくるくるとその小さい背中を流していく。
 その感触がなんだか心地よくて、少しだけ力を抜いたその時、背中を走っていたタオルが突如腕の下をくぐり、くり、と胸の先端を撫でた。

「あああ! たた玉緒さんそこちが」
「ん? どうして?」

 驚いた衝撃で自身のタオルを落としてしまうも、紺野の攻勢は止まらない。更に二三度胸の登頂をこすりつけると、ぷくりと堅さを帯び始める。それに伴い感度のあがるそれを、後ろからつまみ上げるようにしてくりくりと刺激した。
 一方が起立したと思えばもう一方も同様に。気づけばタオルは無く、紺野の泡にまみれた指がそれぞれの乳首の根本を摘むときゅ、と親指と人差し指で強く何度も擦られた。

「あ、洗うの、自分で出来ますか、らあぅ…!」

 制止を求めるも紺野には聞こえていないかのようで、乳首への愛撫が済むとやわやわと全体を揉み上げ始める。石鹸が潤滑油の働きを果たし、ぬるぬると紺野の長い指が這うたび、こぼれそうな白い肉が震えた。左右互い違いに円を描くよう蹂躙されていたかと思うと、突如片方の腕が彼女のわき腹を伝い足の間に落とされる。

「や、そこだめです! 玉緒さん、あ、やああ…!」
「だめだよ、ちゃんと全身きれいに洗わないと」

 思わず前かがみになった体を引き寄せるように、紺野の体がぐ、と彼女の背後に近づく。水に濡れた互いの肌がぺちゃ、と吸い付き、紺野の熱い胸板の感触が彼女の背中に直に伝わってきた。どく、と脈打つ音に熱に浮かされたような吐息。その間にも右腕は太ももを越え、しっとりと閉じられた割れ目へと狙いを付けた。
 中指の先でひだの下の方を押し開く。ぷちゅ、と泡が立ったその場所に躊躇うことなく指を押し込んでいき、途中でぐり、と内壁を擦りあげた。反射的に引いてしまった腰を受け止めるかのように、紺野の下半身もぐっと密着してくる。自身の腰に触れる熱い奇妙な硬度のものが何かを察し、体を離そうとするが、風呂椅子に座る紺野の足の間に挟まれるような姿勢で捕まったまま身動きが取れない。

「……きちんと、奥まで洗わないとね」

 それをきっかけに一旦中指が抜かれ、再び、今度は二本の指がゆるゆると侵入してきた。わずかに曲げた指先で膣内をぐちぐちとかき回し、時折ぷくりと膨らんだ上の突起を親指で弾く。
 左手は相変わらず泡を塗り付けるように白い乳房を撫で回しており、上に下にと翻弄されるなか突き立てられていた指が更に奥へと刺激を加える。乱暴に抜き刺す度じゅちゅ、と愛液が飛沫となり、思わず締め付けると紺野の節くれた長い指が体の内側ではっきりと分かった。

「なんか、きゅってなってるね」
「あっや、だめ、いっちゃ、やあ!」

 逃げるように足をすり合わせるが、逆に腕を挟み込む形になってしまい、紺野の指は更に奥に迫ってくる。二本の指を奥まで詰め込んでは手のひらで性器全体を撫でさすり、手のひらに糸引く粘液を残しながらゆっくりと抜く。そして再び勢い良く貫き揺する、それを何度も何度も繰り返すうち秘裂からこぼれた滴が椅子を伝い落ち、あっと短い泣き声を残して彼女の体から急速に力が抜けたのが分かった。
 ひくひくと痙攣するそこから指を抜き去り、湯船につかる前から頬を赤らめる彼女を横抱きに抱えあげる。

「た、玉緒さん、何を…」
「だって、一緒に入るんだろ?」

 言いながら岩で作られた露天の中へ足を入れる。少し熱いくらいのお湯が二人の体を包み込み、思わずはあ、と息がこぼれた。
 絶頂の余韻からようやく解放されたのか、無邪気に湯を手にすくう彼女を抱きかかえたまま、しばらく温泉を堪能していた紺野だったが、やはり体の一部が立ち上がったままだ。彼女にあまり何度も無理をさせたくないが、思うままに蹂躙したい欲望も頭から離れない。

「……ごめん、やっぱり無理みたいだ」
「え、……あ、や、やめ、やあああ!」

 紺野の太ももに触れていた彼女の尻をわずかに浮かせ、体を反転させる。慌てて彼女が岩場に両手をつくのを見、立ち上がったその後ろからぬち、と男根を寄せる。

「や、もうこれ以上、無理、やあっ…!」

 何とか逃げ出そうと上体を湯船から上げようとするが、腰の左右を掴まれ、無様に胸が洗い場の床に押しつけられる。必死に懇願するが、尻の合間にたぎるような熱量が滑り込んだかと思うと、腰を浮かせるようにして下から突き上げられた。
 ぱしゃ、と腰が揺すられる度湯面が波打ち、熱い液体が結合部にかかる。僅かな抜き差しの隙間からお湯が入り込み、ぬるぬるとした彼女の愛液と紺野の精液が混ざりあったそれがだらだらと太ももの内側を流れ落ちた。

「ん、はう、ふ」
「……いつもより、ぐちゅぐちゅいってるけど、…ん、外は、興奮するのかな、……ふっ」

 彼女はなおも逃れようと手を伸ばすが、紺野はそんな様子も構わずその秘裂を暴き続けた。朧月の穏やかな深夜、うすらと立ち上る湯煙に紛れて、男の荒い息だけが響く。
 湯船につなぎ止められた彼女は、既に三度目になる絶頂を迎え力無く倒れ込み、その腰をぱちゃ、という水音が今なお襲っていた。しばらく会えなかった分溜まっていたのか、自制が利かなくなったのか。紺野自身困惑する勢いで、愛しい妻を襲っていた。

「……ん、…は、……ん…!」

 真っ赤に充血し、よだれを垂れ流す秘部に自身の肉棒を突き立て、隙間無く押し込む。かき回すといやらしい水音を立てて膣が狭まり、更に刺激を加えてくる。ごり、と何度目かになる腰の動きの後、ついにじゅる、と音を立てて白濁とした液体がこれでもかとばかりに子宮に注ぎ込まれた。
 溢れでるそれに満足しながら、更に二三度奥に先端を擦りつける。やがて紺野も全身の力が抜けるのを感じ、目を閉じた。






「あ、大丈夫ですか?」

 次に紺野が目を覚ました時、見慣れない天井が視界に入った。あれ、と経緯を思い出すが、どうにも思い出せない。

「僕は一体……」
「湯あたりして倒れたんですよ、その……無理するから」

 言いにくそうに言葉を濁す彼女を見てようやく記憶が戻ってくる。どうやら行為の後そのまま倒れてしまったらしい。激しい自己嫌悪と同時に、頭痛と倦怠感が襲ってくる。それを見越したのか、彼女がぱたぱたとうちわで扇いでくれるのが見えた。

「ごめん……せっかくの旅行なのに……はは、情けないな、僕は……」
「大丈夫です!……余裕ない玉緒さん、何だか可愛いし」

 え? と聞き返した途端、ぺしとうちわを顔に乗せられてしまう。彼女の分かりやすい照れ隠しに苦笑しながら、やがて紺野は穏やかな寝息を立て始めた。



(了) 2010.11.07

有給中パソコンロックされて泣きつかれたとこだけノンフィクションです

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