>> ライスマシンガン



「セイちゃん髪型変えた方がよくない?」
「ああもう触るな! というか何でオールバックにしようとするんだ!」

 ちえーと琉夏が口をとがらせるが、その隙に髪型を戻す。

「大体これじゃ琥一みたいじゃないか」
「いいじゃねえか、何なら俺が変わってやろうか?」
「断る」

 白いタキシードを来たまま時間を待つ設楽の控え室に、何故か桜井兄弟が訪れたのは少し前のこと。二人とも珍しく洒落たスーツに身を包んでおり、ニコニコと、いやニヤニヤと椅子に座る設楽を見ていた。

「そもそも何でお前達がここに入ってきているんだ!」
「え? ああ、受付のお姉さんに弟なんですって言ったら結構すんなり」
「琥一もか!?」
「コウは警備員睨んでた」
「おうよ」

 ここのセキュリティはどうなっているんだ! と叫びたくなるのを堪えつつ、部屋に飾られた掛け時計に目をやる。そうだ、そもそもこの場所にセキュリティを求めるだけ間違っている。



「それにしても、本当に学校貸してくれるってすごいね」

 琉夏の言葉通り、控え室と呼んでいたその部屋は彼らが以前生徒として過ごしたはば学の教室の一つだった。今日この日のために使いたい、と無理を承知で願い出たら何だかやたらダンディな紳士が現れて二つ返事で学園の一部を貸してくれたのだ。

(あれは結局誰だったんだ……)

 彼女にも聞いてみるが「どこかで会った気はするんだけど…」と曖昧な答えしか出てこない。もしかして彼もまたあの場所に思い入れのある人物なのかもしれないな、などと考えていたその時、タイミングよく控え室のドアを叩く音が響いた。








 遥か頭上から降り注ぐ柔らかい光に思わず目をすがめる。ステンドグラスに描かれたのは美しい姫とそれにようやく巡り会えた王子。設楽の足下に色鮮やかな姿を浮き上がらせるそれに、収まりかけた鼓動が再びどくんと音を立てた。

(そういえばこの教会も色々噂があったな……)

 氷室先生型アンドロイドが地下で量産されているとか核シェルターになるとかくだらない噂ばかり。でもその中で一つだけ、彼女が嬉しそうに話してくれたあの話だけは胸に残った。



(ここは、離れ離れになった恋人たちが再び出会って、永遠を誓う場所なんですよ!)

 どうせ作り話だろ、と小さく笑うとリスのように頬を膨らませて反論してきたのを覚えている。あれから少し時間が流れただけだというのに、今は俺の方がその噂を信じていると言ったら彼女は笑うだろうか。
 
 ギイと高い音を立てて古めかしい木の扉が開く。いつかの俺が開いた扉に、今度は彼女の影が映った。その姿は美しいプリンセスラインを描いており、光の中から逃げ出すように一歩バージンロードに足を進める。
 白い肩を露わにし、その腕には精緻なレースで作られた長い手袋。ふわりと広がったシンプルなラインのドレスだが、そこここに貴石が縫い止められており、見えないところの刺繍も素晴らしい。派手ではないが、彼女の魅力を引き立てるために上等の職人に頼んだものであることはすぐに分かった。
 厳かな空気の中、一歩、また一歩と白い絹に包まれた彼女が近づいてくるのに動悸が高まる。やがて壇上のすぐ側にたどり着いたのを確認し、おずおずと手を伸ばした。

「……ほら」

 正直に言って頭の中は真っ白だ。ウイーンのソロ公演の時だってこんなに緊張しなかった筈なのに、何だっていうんだ、ああもう!
 だがそんな設楽の手を彼女が握りしめた瞬間、すっと視界が晴れた。目に飛び込んだのは美しいベールごしに微笑む彼女の顔と、次いで設楽にだけ聞こえたであろう小さな呟き。

「……何だか緊張します」

 普段の調子と変わらないその言葉に、設楽の緊張も解ける。ぐいと引き寄せ自身の隣に立たせると、設楽もまた彼女にだけ聞こえるように呟いた。

「なんだ? これ位で緊張してるのか」
「だ、だってこんなドレス着るの初めてで……」
「俺が見立てたんだ。似合ってないはずがないだろ。……周りなんて放っておけ、俺だけ見てろ」

 その言葉にベールの下の顔が真っ赤になったのが分かる。それに満足すると再びステンドグラスを見上げ、ゆっくりと二人の前に立つ神父に目を下ろした。









「つ、かれた……」

 へろへろとホテルのベッドに倒れ込んだ彼女の側に設楽も疲れた様子で座り込む。
 教会での式の後、着替えて立食形式のパーティーをしたはよいが、やれ桜井兄弟に絡まれるわ紺野から延々笑顔で嫌みを言われるわ、挙げ句彼女の友人らしい二人から「まさか設楽さんに取られるなんて…!」「バンビを泣かせたら……星が許さないから」と説教を食らうという始末だ。

「琉夏と琥一のやつ本当にライスシャワーを力いっぱい投げてきたな……」
「あ、だから設楽先輩階段降りるとき何か変な顔してたんですね」

 はらはらと散る紙吹雪とライスシャワー、と思い扉を開けると設楽のみをめがけて降り注ぐライスマシンガン。何なんだ! と視線を向けると凶悪な顔で笑う桜井兄弟と目があった。



「大丈夫ですか?」

 倒れ込んだ体を少しだけ起こし、設楽の頬に手を伸ばしてくる。それだけのことに、再び体が脈打った。

「……お前な」
「何ですか?」
「……いい加減、名前で呼ばないと、……お前も『設楽』なんだぞ?」

 あ、とようやく気づいた彼女の手を取りその手のひらに口づける。ちろ、と舌がうごめき、そのまま細くのびた腕にするすると唇を下ろしていった。

「あ、や、……せ、聖司さん、今日はもう…」
「知らない。俺は全然疲れてない」
「そ、んな、ひゃあ!」

 ウェディングドレスに代わり薄紫のイブニングドレスに包まれた彼女を背後から抱え、その首筋に口づける。髪の合間からのぞくうなじにチュ、と音を立てて噛みついてやり、首の後ろで結ばれていたリボンを口でくわえた。
 背中のファスナーを下ろしながら、リボンの一辺をく、と口で引っ張る。シュルリと音を立てて胸元が露わになり、慌てて隠そうとする彼女をベッドに押しつけるようにして拘束した。

「や、だめ、恥ずかしいです!」
「ふぅん……教えがいがあるな」
「何がですか―!」

 必死の抵抗もむなしく、組敷かれた設楽の下でするするとドレスは紐解かれていく。知らず設楽のシャツも乱れ始め、彼女に至っては下着の一枚を残すまでに剥かれていた。やがて設楽の長い指が白い腹を伝い、太ももの付け根に落ちたその時、ホテルのドアをノックする音が部屋の中に響き渡った。




 ――ノックして数秒、部屋の中から現れた青年が不機嫌そうな様子でボーイを睨み付けていた。何故かひどく疲れきっている。

「……はい」
「ルームサービスをお持ちしました」
「ああ、ありがとう」

 慣れた手つきで受け取りのサインをし、ドアを閉める。ボーイの気配がなくなったのを確認し、設楽は深いため息をついた。
 このタイミングの悪さは何なのか、我ながらノックから一瞬で衣服を整え、何事もなかったかのように応対した自分に感心する。


 
「……おい、なんだその格好は」

 部屋に戻って更にため息をつく。まさにこれから、まで持ち込んだはずの彼女が、なんとシーツをしっかりとかぶり丸くなっていた。まるで大きい酒饅頭みたいだ。

「だ、だって恥ずかしいし、嫌って言っても聖司さんが……」
「ふうん、これで抵抗してるつもりなのか」

 え、と声をあげるまもなく丸まる背中に体温と広い胸板がシーツ越しに触れる。そのままシーツの下に何があるのか探るように無遠慮に指が這い回った。

「あっ、や、くすぐった、やめ、ひゃ!」
「うるさい。見えないんだから仕方ないだろ」

 絶対笑ってる! と彼女が反論する暇もなく、ピアニストの繊細な指が柔らかい絹ごしに彼女を蹂躙する。脇から腕を差し入れ布ごともにゅもにゅと動かすと、先端の敏感な突起がちり、と擦れツンと立ち上がる。更にそれを布越しに捜し当ててはゆっくりと指先で上下に撫でた。

 たまらず身を縮め更に丸くなるが、設楽は面白がっているのか彼女の背にぴたりと張り付き、尚も不作法に隠された彼女を探しだそうとする。
 胸をひとしきり堪能すると今度は先程中断させられた太ももを探り始める。まとわりつくシーツを少しずつたくしあげ、やがて唯一残された下着に指が向かう。設楽からは見えないためか、脱がそうとしつつもその都度指がずれ、掠めた場所にやらしい熱だけが残っていった。

「ひゃ、あの、せいじさん指…!」
「指がどうかしたか?」

 じらされ潤い始めた秘部にようやく指が添えられる。人差し指で押すと、ジュンと生地から湿り気が生まれ、たまらず絹ごしにジュヌジュヌと激しく割れ目を擦ってやると、やあ、と高い悲鳴を上げて設楽の下にいる彼女の腰が震えた。下着越しにでも分かるほど、ぷっくりとひだが露わになり、割れ目に置かれた設楽の指を飲み込まんとばかりに潤っていた。

「……おい、こっち向け」

 顔を真っ赤にし息をするのも辛そうな彼女を見、組敷いていた状態から一旦離れると、体を自身と向かい合わせ横にさせた。どうするのか、と身構えるまもなく、今度は彼女がまとうシーツの中に設楽自ら潜り込んできたのだ。

「やっ! せんぱい、そこ、だめです!」
「お前が恥ずかしいとか言うからだろ」

 暑くなり彼女はぷは、とシーツから顔をのぞかせる。だが設楽はシーツに隠されたまま、見えない箇所から彼女の体を弄ぶ。
 正面から胸に張り付き、先程まで撫でていた乳首をちる、と舐める。感触が面白かったのか今度は彼女の背中に腕を回し、その谷間を引き寄せるようにして柔らかさを味わう。かと思えば、乳房の下から舌を這わせ、ちゅぱ、とピンク色の先端を口に含んではくちくちと吸い上げたりもする。一方が終わればもう一方。そのたび、下半身に言いようのない疼きが走る。
 また、抱き寄せられている彼女にとっては時折こぼれる熱い吐息がくすぐったく、何とか腕で牽制しようとするが、見えないのと設楽の頭が下の方にあるのとで、上手く掴めない。

「せんぱい、どこです、か、……ひぁ!」
「ここだ」

 その言葉の直後、背中に回されていた腕がするりと腰へ降りてきた。すると器用に残されていた下着をくるくると巻き取るように下ろしていく。

「だ、だめです、そこは……あっ!」

 ようやく外気に触れたその箇所に、体温以上の熱量を持った何かが近づく。それが何か、など言うまでもなかった。
 横向きのまま、なだらかな曲線を描く腰に手を添わす。彼女がびくりと震えたのに気づき、シーツの中からようやく設楽がふは、と顔をのぞかせた。



「……怖いか?」

 答えはなく、設楽の胸元に頭を寄せたまま押し黙る彼女が可愛いやら、しかし自身は収まらないやらでぐるぐるし始めた時、消え入りそうな声がシーツの中から漏れだした。

「……大丈夫、です」
「本当だな?」
「……はい」

 その答えに安堵し改めて太ももの付け根に手を伸ばす。充分潤ったそこに中指の先を差し入れ、くち、と動かす。飲み込まれるように指が進み、第一関節、第二関節と浸食していくとねっとりとした液体が指全体を覆った。更にそれを塗り付けるように膣壁をずゅぷ、とゆっくり前後させる。

「ふあ、や、…!」

 ぐり、と指を回転させ、親指と挟むようにして上側を探る。ある一点にたどり着いた時、あからさまに彼女の腰が引いた。

「……ここがいいのか?」

 追いつめるようにぐりぐりと小さなそれを押し潰す。そのたび彼女の太ももがすり合わせるように狭まり、設楽の手が赤く熟れたその場所に飲み込まれた。もう充分だろう。
 尻の下側に手を伸ばし、少し股を開かせるように抱える。設楽を挟み込むような体勢をとらせ、横向きのままそそり立った肉棒をぐいと擦り寄せた。

「……んっ」

 両腿を抱きあげたまま、先端を入れようとする。が、ぬるぬると滑ってしまい思うように照準が定まらない。次第に焦りが見え始め、腰を二三度擦り寄せたところで、突然ひたりと柔らかい感触が設楽自身を襲った。

「ここ、が、いいです」
「……!」

 彼女の細い指が設楽自身にまとわりつき、やがてきゅんきゅんと収縮する入り口へと導かれた。濡れたそこに、先走りの滴る先端がくちゅり、と交わる。そして導かれるままに、ゆっくりと幾重にも重なる彼女の中に吸い込まれていった。

「あ、あ、せいじさ、あああっ!」
「くっ……きつ…」

 ようやく全体が収まったところで息を吐く。触れ合う体温より、二人の絡み合う陰毛が濡れて熱を帯び、時折じょりとくすぐるのがたまらなく不思議な感じだ。更にその中、彼女の呼吸にあわせて緩んだり締め付けたりするそこの心地よさに感心しつつ、もっと、と刺激を求める自身が頭をもたげた。

「動くぞ」

 横向きなので、強く打ち付けるように挿入出来るわけではない。その代わり、腰を前後するたび背筋がぞくりとするような快感に襲われる。
 押し込めば、拒絶するかのような収縮を見せ、引き出せば名残惜しそうに裏筋から雁首まで丹念に吸い尽くそうとする。腰を掴んだままゆっくりとストロークが続き、二人を包み込むシーツがたびたび斜めに皺を走らせた。



「ん、……ん」

 気づけば彼女の手が設楽の胸に添うように置かれていた。恥ずかしげに声を堪える姿に、たまらず腰の動きが奥に奥にと彼女を求める。細い腰を掴み、全てを埋めると今度はぐりゅ、と左右に揺する。彼女の喜声が一瞬にして色を変え、短い悲鳴を漏らすのも構わず更に腰を揺する。

「や、や、つ……あ!」

 刹那、今までとは比べものにならない収縮が設楽を襲った。抱き寄せた彼女の体がびくんと揺れ、ぐたりと弛緩する。なおも脈打つ自身で内壁をにょちゅ、とかき混ぜてやるとねばねばした糸を引きながら、彼女が声にならない悲鳴をあげた。

 未だ収まらないペニスを抜き去り、シーツに埋まるように顔を隠す彼女を抱き寄せる。そして布ごと抱き締めるように頭を寄せ、絹ごしに口づけた。







「何だサンドイッチじゃないか」

 しばらく前にボーイが運んできたトレイを開き、ぱくりと口に運ぶ。
 もぐもぐと消化しているうちに、ようやく彼女がベッドで目を覚ました。

「うう―…」
「情けない声出すな。ほら、お前も食べろ」
「はい、…あ、でも元々聖司さんが食べると思って頼んだので後で良いですよ」
「……俺が?」

 別にサンドイッチが好きだと言ったこともないし、大体いつ頼む時間があったのか。

「だって聖司さん、パーティーのときあまり食べられなかったみたいだったから」
「そう言われると、まあ、そうかもな」

 確かに式にパーティーにと挨拶が慌ただしく、ろくに食事をしていなかったのを思い出す。ようやく空腹を自覚したものの、設楽本人より先に彼女に気づかれていたことが何だか気恥ずかしく、結局いつもの調子になってしまう。

「……何にやにやしてるんだ」
「いえ、別に」
「……ああ、もう。良いから早くお前も食べろ」

 そう言って押しつけられたサンドイッチを見、彼女も微笑みながらゆっくり食べ始めた。





「食べあげたら続き、やるからな」
「えっあのちょっとさすがに」
「ふぅん、自分だけ楽しんで終わりか?」

 俺はまだなんだがな、と悪い笑顔を浮かべる設楽の姿に、何故か幼なじみの桜井兄弟の顔がよぎった。



(了) 2010.09.30

作中に時々出ている「絹ごし」を打つたび、予測変換に「豆腐」が出てきてなんだかお腹がすきました

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