>> 一人の夜、独りの依る



「……僕は強くない。だから、いつ壊れるかわからない」

 彼女の手がゆっくりと離れた。

「でも、今日は帰るよ。君との関係は壊したくないから。……怖がらせて、ごめん。おやすみ」




 少し寂しそうな彼女にそう告げて、僕は彼女の家を後にした。自宅に着くまで一言も発することなく、黙々と歩き続け自室に入るや否や上着を椅子に乱暴にかけて、そのままベッドに倒れ込む。


(――僕はどうしちゃったんだ)

 うつろな目がレンズ越しに動き、そのまま強く目を閉じた。

 今の感情が理解出来ないわけじゃない。自分も健康な青年男子なのだから、そういうことを求めるのは当然だ。だが自身の性格から言って、それはもっと穏やかに、静かに起き立つ願望なのだと思っていた。

(――本当に、壊れてしまったのかもしれないな)

 彼女がその腕に、体に触れてくるたび、抑えがたい気持ちが首をもたげる。それは紺野が予想していた感情よりずっと黒くて激しくて、自分の中にこんなに荒々しい欲望があるなんて思ってもいなかった。
 それを思う間にも、先程まで側にいた彼女の事を思い出してしまう。男のものとは違う、柔らかい腕にふっくらした唇。繋がれた手は小さくて、時折誘うような甘い匂いがした。


(……彼女が求めるなら、)

 自分はいつでも大丈夫だ。だがおそらく彼女は無意識に僕に触れているだけで、そういう意識はないのだろう。だからこそ、たちが悪い。 無邪気な笑顔、回された腕、触れるふわんとした胸。思い出すたび鮮明になり、思わず集束し始めた下半身に身を折り曲げる。

 ――もし、今日あのまま彼女を部屋に引き入れでもしていたら?
 恐ろしい発想に頭の芯が冷える。だが、思考だけは次々に進んでいった。
 あの無防備な彼女をベッドに押し倒し、ようやく怖さを自覚したのか必死に泣き叫ぶその口を塞ぐ。そのまま無理やり服を剥ぎ、その下にある下着を外し、顔をうずめる。
 服の上でも分かる大きさなのだから、実物も相当あるのかな、などと考えぶんぶんと頭を振る。気づけばズボンの下のそれは半勃ち状態にまで起きあがっており、たまらずベルトと前を緩めると、その手で直に掴んだ。

(……ごめん、)

 そろ、と擦り上げると途端に反応する。それに合わせて頭の中の彼女もいやらしく変わっていった。
 その豊満な二つの膨らみに手を伸ばし、指の合間からはみ出すほどむんずと握ってやる。当然彼女はいやいやと逃れようとするが、腰に馬乗りになり逃しはしない。
 やがて硬くとがり始めた突起を口に含み、ちゅく、と吸い上げてやる。びくりと彼女の背が反ったところでそこに手を差し入れ、引き寄せるように今度は乳首をべたりと舌の腹で舐めあげてやる。
 不思議な感触が舌に残るのを想像し、たまらず左手が先程より強く自身を擦る。既に腹にくっつきそうなほど立ち上がっており、その自らの様子に呆れながらも自慰を続けた。



「――ハァ、」

 やがてぐったりと弛緩し短く息をする彼女、その姿を見ながら足首を掴んで無理やり開かせる。慌てて隠そうとするのを体を割り入れて防ぎ、短いスカートの奥にあるそこを求めた。下着を指にかけくい、と横にずらしてやる。
 はじめては痛いというから、少し指を入れて慣らした方がいいのだろうか? 時折降ってくるリアルな思考をいやいやと振り払い、とりあえず自らの怒張を無理矢理に押し込んだ姿を想像する。
 痛みに堪えようとシーツを掴み、真っ赤になって打ち震える彼女。あれほど僕を翻弄していたのが嘘のように大人しく、ちょっと意地悪する気持ちで激しく二三回突いてやる。

「……ほら、これで満足? 君がしてきたことなんだよ?」
「や、や、ああっ! あああっごめん、ごめんなさい、許して、許してこんのせんぱ、あああっ!」

 膝を折り曲げM字型に広げられた両足を掴み、更に左右に押し広げては奥にせり上げる。彼女はすっかり抵抗力を無くしており、ほろほろと涙をこぼしては痛みに耐えている。



「……ん、は、」

 自然と手の動きが速まる。上下に、くにくにともみあげるように刺激を与えると、まるで彼女のナカにいるかのような錯覚さえ起こしそうだ。先走りの透明な液体が手と性器の間に流れ込み、それがまた疑似愛液のようで興奮を煽る。
 ぐちゅ、という水音と紺野のハッ、ハッと漏れる短い吐息が部屋にあふれ、えも言われぬ空気が漂う。やがて短いうめき声の後、横たわる紺野の背がびくりと動き、そのままハアと長い息が漏れた。

 
(――何をしているんだ、僕は)

 何も知らない彼女を汚してしまったという罪悪感にさいなまれ、深く落ち込むまま身体だけは正直に反応する。

 妄想の中の彼女は一転して姿を変え、今度は紺野に甘えるように腕を掴んできた。何故か特急電車の客室添乗員の制服に身を包んでおり、タイトなスカートから白い足がのぞいている。

「先輩、あの、おかしくないですか…?」
「うん、よく似合ってるよ」

 一方の紺野はというと同じく国鉄新幹線車両の制服をきっちり着込み、その手に白い手袋をはめていた。恥ずかしがる彼女の上着に手をかけ、するりと肩から外す。合わせて水色のスカーフも抜き去り、白いワイシャツの上から捧げ持つように背後から乳房を持ち上げた。その首筋に口づけを落とすと、いやいやと顔を赤くした彼女が紺野の方に振り返る。

「あ、先輩だめ、だめです!」
「そう? 時々はこういうのも良いと思ったんだけど」

 想像の中の彼女は実に従順だ。
 そのままワイシャツの前を一つ、二つと開け、隙間から淡いフリルがのぞいた辺りに手を差し入れる。壊れものを扱うかのごとく、その柔肌に手袋の硬い生地が直に触れると、たまらないとばかりに彼女から吐息が漏れた。
 次いで胸を解放すると今度は彼女の身体を前に倒し、上体をベッドに押しつけ腰を高く上げさせる。まるで猫のようなその姿勢のまま、太ももにかかるスカートを少しだけずり上げた。合わせられた太ももの合間に薄い生地が見え隠れし、恥ずかしそうに足をすり合わせている。

「あ、あんまり見ないでください…!」
「どうして? すごくいやらしいのに」

 両手を下着の左右に添え、くるくると下に下ろしていく。くしゅくしゅに丸まったパンツが膝の辺りにとどまり、足を閉じたまま尻を上げる彼女の丁度後ろに膝だちになる。

「……やっぱり、なんかこういつもと違って、良いなあ」

 前をくつろげ、手袋の指先を口でくわえるとシュル、と抜き去る。もう一方も同じく外すと、ベッドの端にぱさ、と音を立てて手袋が放られた。
 短くせり上げられたタイトスカートを更に上へとまくり上げ、その腰を掴むとゆっくりと蜜壷目指して侵入する。

「やっ、あっ、せんぱい、何か熱いのがお尻に…!」
「ん……そうだ、さっき教えたろ?」

 双丘の割れ目から閉じられた太ももを滑り入る。足を閉じているせいか、たどり着くまでにも窮屈で、ぬらぬらとした筋が残った。
 ようやく到達した肉ひだを探り、強引にペニスを押し込んでやる。じゅん、と熱さと湿り気を帯びたそこに入ると、幾重にも張り巡らされた内部が蠢くように紺野の先端から竿までを優しく包み込んでくる。

「……ん、…ほら、言ってごらん?」
「あ、や、……ほ、本日は、し、寝台特急『子鹿』にご乗車、下さり、ありがとうございます……んや…!」
「……それから?」
「こ、心行くまで、ご乗車、くださり、素敵な旅をお過ごしくださ…あ、あ、も……だめえ!」

 紺野が要望した言葉を恥ずかしげに口にする彼女を見ながら、更に腰を進める。乱れきった客室添乗員と、一方は全く着崩れしていない車掌姿。だがその一部だけは確かに連結しており、その痴態がまた興奮を誘う。
 

 自身のベッドで繰り広げられるその様子を想像しながら、再び肉棒を握り上下させる。熱く狭い彼女の膣道、すべすべした白い尻の感触、泣きながらも素直にいやらしい言葉を口にするその姿を思い描くと、当然のように膨張も早まり先程抜いたばかりのそれが、再び解放されたいと欲を発し始める。

 頭の中の紺野にも限界が来ており、逃げようとするその腰を掴んではずっち、ずっち、と粘性のある音を立てながら幾度と無く突き立てる。彼女は既に声を上げる気力も失っており、揺さぶられるまま、や、いや、と吐息で答えるばかりだ。

「……ごめん、発車するよ」

 ゆさゆさと腰を揺すりつけ、奥から来る吐精感に備える。やがて訪れたそれに任せ、ぐじゅぐじゅに塗れそぼったそこにずっちゅ、と最後の攻撃をする。
 刹那、途方もない開放感に襲われる。




 合わせて紺野の手の中にどろりとした液体が飛び散った。更にしごきあげる間もなく、びゅろ、と先端から濃いそれがこぼれ落ち、慌てて側にあったティッシュを手に取った。
 未だにじみ出るそれを掬い取りながら、どうしようもない情けなさでがくりと頭を垂れる。

(――何をしているんだ僕は……)

 ひどく情けない気持ちになるのを抑え、うなだれる。が、何かを思い出したのか緩慢な動作で体を起こすと、携帯を手に何事かを打ち込み、再びぽすりとベッドに倒れ込んだ。






「あれ、紺野先輩からメールだ」

 せっかく家まで送ってもらったのに、過度なスキンシップで何だか困惑させてしまったようだった。気を遣わせてしまったかな、と申し訳なく思いながらメールを開く。

『君といても、君がいなくても君のことばかり考えてる。どうしてかな』

(……良かった、今日のデート楽しんでくれてたんだ!)

 次はどこにいこう、と彼女は微笑みながら紺野のメールへ返信の文章を考え始めている。
 誰も知らない夜、穏やかな笑顔と狂おしい感情を孕みながら、秋の夜は静かに深くなっていった。


(了)2010.9.17

100,000hitありがとうございました!

書きながらあれこれギャグなんじゃないかと思いましたが書いた本人は超真面目に全力投球です

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