>> Quando il lupo si trasforma in un panda



 知ってたよ、アンタが嵐さんを好きなことぐらい。



 頭から降り注ぐ冷たい水が髪を伝い、額に、頬に垂れる。水滴が足下にいくつも弾け飛び、それを見つめながら強く瞼を閉じた。

「……何なんだって―の」

 原因は他でもない、柔道部の唯一のマネージャーのことだ。まさか嵐さんがあんなに真剣な顔で掴みかかってくるなんて思っても見なかった。
 部内の空気は最悪。仕方なく逃げるようにシャワー室に飛び込んだものの、一向に頭の中のぐるぐるしたものが未だに晴れない。

「……」

 はっきりさせたかっただけだった。三人で仲良くしているのは確かに楽しいし、居心地いいし、出来るならこのままでいたいって、多分彼女は思っていただろう。
 でもオレはもう限界。部活で彼女を見るたび、私服の彼女と会うたび憧れとも焦燥ともいえない気持ちが胸の奥を焼いた。学校行事で嵐さんと隣合う姿を見るたび、そして……校内で「柔道部夫婦」の噂を聞くたび、その火傷がじわりと広がっていく気がした。


「……ハァ、……ヤダ、ヤダ」

 部室から飛び出す一瞬、びっくりした顔のマネージャーと目があった。何も声はかけられなかったけど彼女のことだ、すぐに何があったか察するだろう。




「…新名くん?」

 ほら、やっぱり。
 控えめな声がシャワー室の入り口から聞こえ、振り向くこともせず零れる水音の合間を縫うように、彼女の声を静かに聞いていた。

「あの、タオル部室に置きっぱなしだったから、ここに置いとくね」
「……」
「……また明日ね。…部活、頑張ろうね」

 いつもと変わらない優しい声がして、更に自己嫌悪が募る。オレだっせえ。アンタを滅茶苦茶心配させて、何やってんだろ。



「……ねえ」
「……なに?」
「アンタ、オレのこと、好き?」

 我ながら意地悪い質問だなーって思った。案の定ドアの向こうの影は押し黙り、やがて小さいつぶやきがオレの耳に届く。

「好きだよ、……その、に、人間的な意味で?」
「……なーにそれ」

 ハハ、と力無く笑いながら少しだけほっとしている事に気付いた。少なくとも嫌われてないなら、オレにも可能性があるってことだし?

「どーせ嵐さんにも人間的に好き、とか言っちゃうんでしょ〜あーもうヤダヤダ」

 情けない声も顔も悟られたくなくて、思わず軽口で笑い返す。慌てた声で「そ、そんなことないよ!」って返してくるんだと思っていた。
 でも、待てども待てども彼女の返事はなく、その空白の時間――ようやく、アレ? と顔を上げた。




「え……なに」

 マジかよ。

「もしかしてアンタ……嵐さんの、こと」
「あ、ち、違うよ!? ただその、素敵だなって思うだけで、……私の片思いだから」

 人間的にでもなく選手的にでもなく、小熊的な意味でもなく? じゃあ三人で仲良しこよししながら、邪魔なのはオレだけだった、ってコト?
 途端に目の前に黒い斑点が明滅して、真っ暗になる。刹那えもいわれぬどす黒い感情が自身の中に沸き上がるのが分かった。
 何が片思いだよ、アンタらとっくに両思いじゃんか。空回ってたのはオレ一人だけだし。 
 たまらずドアを開ける。驚いて身を引いた彼女の手を掴み、シャワー室に引きずり込んだ。短い悲鳴を聞き、濡れていく髪と体操着を見ながら低く声を落とす。

「……それってさ、酷くね?」

 怯えるように座り込んだ彼女を見下ろし、自身もしゃがみこんでその濡れた体を抱きすくめる。びちゃ、と水がこぼれるのに合わせて唇を添わせた。舌を差し入れ、啄むようにむちゅ、と何度も角度を変える。

「……ん、む、…」
「……オレ、可愛い後輩だった? それとも期待の柔道部次期主将だった?」

 どれだって良かった。アンタの視界の端にどんな形でも止まっていられたら。どんな呼び名でも、いつかはただの新名旬平として見てもらえるんだって思ってた。
 でも終わってた。アンタは既に嵐さんしか見てなかった。始まる前から終わってた。何だよこの不戦敗試合。

「新名く、…やめ…!」
「だったらゴメンね? オレ、…ただのヤな奴だからさ」

 抑えていたいろんな気持ちが吹き出してきて、たまらず手を彼女の腹へとのばす。身をよじって逃げようとするその首筋に後ろから噛みつくように口付けた。
 出したままのシャワーのおかげで体操着はぐっしょりと濡れ、張り付くようにしてブラの肩紐とホックが浮き上がり思わず喉を鳴らす。ぺたりと座り込んだまま、壁のタイル地に手を這わすその後ろ姿がオレを誘っているかのようで、思わずその腰を掴んで上げさせた。

「ね、も、やめよ? こんなの…!」
「……嵐さんなら、そんなこと言わないんでしょ?」

 答えの代わりにその肩がびくりと震えたのが分かった。それがまた面白くなくて、背後から手を差し入れてブラのホックを外す。途端に生地がだらりと外れ、その中から白いおっぱいがこぼれるのが見えた。彼女の背から覆い被さるように体を添わせる。先ほどまでシャワーを浴びていたため、新名の方は何も着ていない状態だ。
 一方の彼女は全身濡れた体操着が張り付き、ぺたりと透けている。新名の鍛え上げられた剥き出しの腕や太ももが着衣の彼女の体を覆うその姿は酷くアンバランスで、一層欲を誘った。

「ハハ、せーかい?」

 手を伸ばし、下につんとのびるピンク色の突起を両方とも引っ張る。あ、と短い声が聞こえるがそのまま左右互いに開くようにくいくいと力を強めてやる。

「あ、やあっ!」
「嫌って割にはずいぶんぷっくりしてますけど―?」

 親指と人差し指でこりこりと乳首の根元を刺激しつつ、手のひらでその周りの乳房を堪能する。しっとりと柔らかく、ゆっくり円を描くと合わせてふにふにと形を変える。その奥からは確かな心拍数とにじみ出すような暖かさが感じられ、左右を互い違いにゆっすりと揉み上げていく。
 時折乳首の先が体操着に触れたり、がむしゃらにくち、とその先端を押しつぶしてやるたび、ん、ひゃん、と甲高い声が漏れ、知らず下半身に熱が集中する。

「ゴメン、……もういろいろ限界」

 既に硬くなった自身が体操着のジャージ越しに彼女のそこを求めて熱くなっていた。腰から尻、太ももに向かってジャージと下着を引き下ろすと、たっぷりとした質量と丸みのある双丘が晒し出された。
 胸を下から掴み上げて、四つん這いから更に立たせる。腕と胸とを含む上体を壁に押しつけさせ、後ろ向きで膝だちの姿勢にさせた。青いタイルと薄い体の合間で大きな乳房が押しつぶされ、その冷たさだけで感じているようだ。

「ね、ほんとにもう、やめよ? ねえ…」
「ダーメ。ほぉら、しばらくそのままそのまま」

 彼女を壁に押しつけるようにぐいと体を寄せる。左腕を前に滑り込ませ、二本の指でくちゅ、と割れ目を押し開いた。思わず逃げる腰をもう一方の手でがっちり掴み、ぬちゅぬちゅと絡みつくように膣の中を押し開いていく。
 絶えず降り注ぐシャワーの音に淫靡な水音が混ざり、時折こぼれるいやらしい吐息に、新名もようやく息を吐いた。

「気持ちよくなってきたカンジ? ……じゃ、ね」

 ふ、と息を飲む音がし、両手で太ももを掴まれたかと思うとぐいと体を開かれる。少しだけ腰を突き出した姿勢になり、あ、と彼女が声を漏らす一瞬、張り詰めた剛直がその入り口にぷちゅ、と触れた。

「あ、あ、や、やああああ―!」
「ほーら逃げちゃダメだって〜」

 くちくち、と泡音を立てながらしなやかな鉄の棒が彼女の体を突き上げる。体操着越しに整った筋肉の胸板やその体温が感じられ、今の状況を頭に思い描くだけで彼女の顔は真っ赤になった。その時、更なる悲劇がドアの向こうで声を上げた。





「新名、いるか?」

 聞き慣れた柔道部主将の声に、新名の下にいる体がびくりと震えた。一瞬で声を潜めたその様子を見、繋がったままお互い気配を消す。

「いないか……まったく」

 どうやら二人の存在には気づいていないようだ。内心平静ではない彼女をよそにそのままシャワー室へと入ってくる不二山の足音が響く。
 押し黙ったまま、どの位経っただろうか。衣擦れの音の後、キュとノズルを捻る音とともに細やかなシャワーが音を立て始めた。どうやら隣の個室を使っているようだ。

 息を潜めたまま彼女を見る。怯えたような、混乱したような表情を浮かべて隣の個室を気にしている姿が気に入らず、ふと柔らかい口調で囁いた。




「――助けて、って言っちゃう?」

 彼女がゆっくりと振り向く。

「いいよ、言って。でもさ、こんな状態のアンタ見て、嵐さんどう思うかな?」

 ごり、と繋がったままのそこを突き上げると再びその小さい体が跳ねた。ひ、と息が漏れるがそれを必死で堪えるように真っ赤になって口をつぐむ。

「年下に良いようにされて、イヤだって言いながらほら、オレのしっかりくわえてるし?」

 結合部に指を伸ばし、肉棒に張り付く充血したひだをなぞる。ぬるぬるした液体がまとわりつき、それをすくいあげては彼女の口に指ごと差し入れた。

「ん、…! ん、ん……!」
「声出しちゃダァメ。ほら、隣にいる嵐さんに聞こえちゃうかも」

 隣室では未だにシャワーの涼やかな音が響いている。今はそれにごまかされているが、これ以上大きくなれば不二山に気づかれてしまうかもしれない。
 だがそんな事はお構いなしに、新名は更に腰を進めた。びちゃ、びちゃ、と明らかに不規則なシャワーの水音に混ざり、彼女の内部から溢れた愛液をぐっちょぐっちょとかき混ぜるペニスの音がタイル地に跳ね返り個室内を満たす。あげく咥内を指で蹂躙するため、口の端からは飲み込みきれなかったよだれが溢れ、二人の絡まり合う腕を伝った。
 髪の端からも陰毛の先からも滴が垂れるが、シャワーによる水なのか、汗なのかそれすら判断が付かない。


「……ン…! …!」
「……やっぱ、オレじゃないんだ」


 必死に口を閉ざす彼女を見て、目を眇める。そして腰を掴むと、ずるりと引き抜き再びぎちぎちと熱棒を詰め込んだ。内壁を擦り、その全てを味わうかのようににじにじと奥に迫ってくる。時折ぐりんと腰を蠢かすと、合わせて膣もかき混ぜられた。せり上がる快感に息を飲みながら、ずりゅ、ずりゅ、と腰を進めやがて子宮の入り口まで到達する辺りでがつ、と互いの根本がぶつかった。
 それを合図にして、体全体で揺すり上げるように彼女の中を虐め抜いた。冷たいタイルに押しつけ、その肩口にキスを落としながら細かく何度も何度も腰を揺する。その抱え込んだ体は小さく、年上だというのに保護すべき対象にも見え、より背徳感を煽られてしまう。



「……好き、だったよ」

 もう何度目かになる突き上げの後、キュと締め上げられる感触がして、一拍遅れて新名自身からもびゅろ、と暖かい液体が溢れた。慌てて引き抜くが収縮する膣に捕らわれ、更に刺激を受けてしまう。
 ようやく抜いたその箇所からは白濁のどろりとした液体がこぼれ、排水溝に筋をなして流れ込んでいく姿を、新名はただ静かに見つめていた。






 不二山がいなくなったのを確認して、気を失った彼女の体を丁寧に洗った。
 濡れた体操着を洗濯機に放り込み、代わりに自身の体操着を着せた彼女は今も脱衣場の扉にもたれるようにして静かな寝息をたてている。
 その前にしゃがみこみ、そっと頭を抱き寄せる。乾きかけの冷たい髪が頬と胸をくすぐり、たまらず顔を伏せた。


「……ゴメン、」

 その髪にそっと唇を落とす。穏やかに続く寝息に安堵しながら、もう一度だけ、もう二度と手に入らないそれに口付けた。
 オレがなりたかったのは可愛い後輩でも、優秀な主将でもなく――嵐さんだったのかもしれない。


(了) 2010.09.13

校正していたら主将が王将になっているのに気付いた

餃子か

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